RPGあるあるかよ
応接間にはオレとへベス大臣、そして招いた商工連盟の総裁と神殿の大神官。
「二人とも、リーメスフロンスのことはすでに聞き及んでいるな?」
手早く話をはじめたいと口火を切ったのだが、
「はい陛下。ウルプス、サテッリティス、コロニア、ムニキピウム、スブルビウムなど多くの街が壊滅したと」
総裁の返答はオレの持つ情報を超えていた。
「大臣!」
「こちらを」
差し出されたのはざっくりとした地図だった。
さっそく話と照らし合わせると、魔王との境界線からかなり深くまで人の土地が被害を受けたのがよくわかる。
「リーメスフロンスには勇者をはじめ、強いヤツがゴロゴロいるんじゃなかったのか!」
これはユエニスくんの成長ぶりからの推測だけど、あんな才能の塊みたいな子たちが世界中から集まり、かつ戦い慣れたパーティーメンバーまでいて、あっさり複数の街が壊滅はおかしいだろ。食い止めるなりできたはず。
「ダンジョンから魔獣が溢れたのは、リーメスフロンスだけではございません」
こんどは大神官が口を開く。
「我々神殿は、彼の地に根づいていないのは陛下もご存知かと」
そりゃあ教会発祥の地なんだから、異なる宗教の神殿が栄えていないのはわかる。
——ってことは!
「神殿の広まった、もっとレガリスレクス寄りの国でもスタンピードが起きたのか」
「はい」
大神官が地図を指さして、オレの認識を改める。
示された地点から予想するに、およそ人の住む土地のおよそ半分が圏内。
「……なるほど。二人が王国より詳しい情報を持つのはそういうわけか」
もっとも危険な土地から運ばれた情報より、比較的安全で手前にある国からもたらされる情報の方が早く届くのは当然だな。
そう考えたら、ラトロもオブルスも頑張ってくれたと評価するべきだ。
と、追加の前提が出揃ったところで——
「「陛下」」
さっそく来たかとオレは身構える。商工連盟と神殿の関係者を受け入れてくれと嘆願されると思って。
しかし違った。
二人は、懐から取り出した未開封の手紙を何通もテーブルに並べていく。
「我々は内容を見ておりません……」
「ですがおそらくは……」
差出人を見ればお察しだ。正しくはゴテゴテした封蝋の紋章を見れば、だが。
一通一通を開け、目を通す。
そしてオレは深いため息を堪えきれなくなった。
「どれも救援要請だ。けどなぁ……」
勇者軍団でも防ぎきれなかった魔獣の群れを、王国軍が出向いたところでどうこうできるとは思えない。
「「陛下!」」
「待て。まずは仮の話だ、仮に王国軍が魔獣を抑えたとして、そのあとどうなる?」
「……生き残った者による復興ではないかと」
「一つの国の話ならな」
総裁の立場なら、真っ先にそれが思い浮かぶのは理解もできる。
「統治者の系譜を失った土地は、争いの種となりましょう」
「復興の名のもとに体力が残った国がそうするだろうな」
大神官は、オレの危惧するところボカして答えた。
「もし王国軍を出すのなら、我々もその争奪戦に巻き込まれる」
魔獣だけ抑えておしまいとはいかない。
そもそもオレらは正義の味方じゃないんだ。
軍を派遣すれば相応の被害は覚悟しなければならない。王国兵、それはすなわちレガリスレクスの国民。
オレの内にある極めて個人的な感情は『すぐに困っている人たちを助けに行け』と叫んでいる。
だがだ、王国民以外のために、王国兵に命を懸けろと命じるのは果たして王様として正しいのか?
ここで物語の主人公——たとえば勇者なら、即座に動くのだろう。でもオレは違う。レガリスレクス王国の王様だ。
「陛下のお気持ちを察せるとは申しません。ですが、これは世界の危機にございます」
「冷酷なようだがハッキリ言うぞ。魔獣の被害は次第に収まる。ダンジョンの外では消耗する一方で、増えることはないんだからな。それを世界の危機とは、些か大袈裟がすぎるのではないか」
オレは思ってもないことを言った。
今も苦しむ人がいて、その後も間違いなく混乱の火種は残り当該地域を焼き尽くす。けっして放置していい問題ではない。そんなことはわかってる。でもだ……。
「陛下もおわかりでしょう」
だからわかってるさ!
「人の営みがなくなっては、我らも商売に励めません。ですので、私の持つ商工連盟総裁会議の議決権を陛下にお譲りします。王国が救援に応じる条件として、各国の連盟総裁を説得いたします」
その意味するところを理解できないオレは、へベス大臣に目を向けた。
「特定品目の販売価格を固定するなど、商売における規定を定める会議です」
ここにきて、まさかのRPGあるあるかよ。
どの街でも同じ値段でアイテムが売ってる、あれを決める会議の議決権か。
「総裁、それは国に持たせる権能として、あまり感心できないやつだぞ」
「でしたら、用が済みましたら我らにお返しなさればよいかと」
サラッと言ってくれるが、総裁の額には汗びっしり。
「我ら神殿は、レガリスレクス王国による救援を全面支援するとお約束します。加えまして、エリテマソーラ第一王妃殿下のお名前を出せば、神殿に属するエルフも従うかと」
テーブルに並ぶ手紙で大義名分はお腹いっぱいだが、神殿のお墨付きとなれば、他国にも入りやすくなるか。
総裁と大神官、それぞれに切れる限りのカードを切った。
国益という観点だけでみれば、救援要請に応じてもお釣りがくる……か。
まったく、なんて重い決断なんだ。
もう中間管理職のオッサンのキャパなんかとっくに超えてるぞ。
「ハァ……。大臣、将軍と総監を集めてくれ」
「「「陛下!」」」
二つの歓喜の声と一つの結論を留める静止の声が重なった。
「勝算があるかどうか、いいや、まずはなにを目的とするのかを決めないとだろ」
被害の当事者からしたら『なにを悠長なことを』とキレられそうだが、王国としても闇雲やたらに軍を派遣なんてできない。
なにを目的として、どこまでを許容範囲とし、なにを成して終わりとするのか。最低限これくらいは決めておかないと、王国民を泥沼へ突っ込ませることになってしまう。




