ラストダンジョンかよ
報せを受けてすぐ、エリテマソーラ第一王妃とマギアレフィカ第二王妃を呼んだ。
商工連盟の総裁や神殿の大神官からも意見を聞きたいところだが、まずはオレの知識不足を埋めるべきと考えて。
「……以上がオブルスが届けてくれたリメースフロンスからの報せだ」
「つづいては私から、魔女ネヴィア追跡の任につく元盗賊ギルドギルド長ラトロよりの続報を」
へベス大臣が、もう一つの報告をオレに代わって説明する。
その内容は——
「ネヴィアがリメースフロンスに入っただと⁉︎」
魔女とスタンピードとを強く関連づけるものだった。
現在の魔女ネヴィアは、もともとリメースフロンスを治めていた女王の娘に乗り移っているそうだ。つまり王女になりすましている。
「補足をよろしいですか?」
「どうぞ、マギアレフィカ第二王妃殿下」
「ありがとうへベス大臣。かの地は女王が治める国なのは話にあったとおり。しかしもう一つ、女神を崇める教会の発祥の地でもあるのです」
「仰っていただいた経緯もあり、女王は教会が保護しておりました」
だから娘の王女の方か。
女王と王女、どちらにも接触できたとして、乗り移りの方法から考えると、若い王女の方が御しやすかったのかもしれない。
それに他人の目を盗むにしても、女王より、娘の王女の方が容易だったのも理由だろう。
ここで『ラトロはなにをしていたんだ』と責めるのはお門違い。
ラトロ個人で、魔女ネヴィアのことを忠告はできないだろうし、逆に捕まりかねないからだ。
むしろ妨害に遭わずに調査できていることの方がすごい。さすがは元盗賊ギルドのギルド長だけある。
そもそもレガリスレクス王国から送った忠告の手紙が無視されている時点で、防ぎようがなかった。
イヤな前提は次々と足されていき、
「そして現在、王女となったネヴィアは大聖女を名乗っております」
「聖女との違いはわからないが……」
へべス大臣から耳にするだけで厄介そうな響きがつけ足された。
リメースフロンスはもともと教会が栄えていた土地。ならば避難した信者も多いに違いない。
勇者制度を広めたのも教会で、人を唆すことにも長けた魔女ネヴィアがいまは王女の姿……、挙句に大聖女ときたか。
「そのような階級をわたくしは聞いたことがありませんよ」
「私もです」
「とすると僭称だろう」
こっちの認識はそれでいいとしても、
「ですが陛下、正当性という点において説得力はありますので」
へべス大臣の言うとおり。
「リメースフロンスに入ったということは、ネヴィア単独ではないんだろ?」
「はい。近くの街にいた勇者たちとそのパーティーを引き連れて、とラトロの報告は結ばれております」
ここでふと、かつて聞かされた魔王の言葉が頭をよぎる。
『どちらにも与せぬ者どもは数を増しておるぞ』
『汝らと我らの血が混じったな』
悪い予感ほど当たるものだ。だが、決めつけては判断を誤る。
オレは心構えだけをして、喫緊状況の把握に努めた。
「リメースフロンスのダンジョンについて、二人はなにか知っているか?」
「火山の渓谷ダンジョンのドラゴンは有名です」
「——ドラゴン⁉︎」
「はい。蛇竜や地龍なら、私も倒した経験があります」
「すまん。それが強いのか弱いのか……」
「マギアレフィカがわざわざ『倒した経験』を語りました。さらにそのうえには飛竜や水竜、陛下もご覧になった九頭竜もおりますよ」
オレが見たのは粘土像だったが、実際のドラゴンの方が弱いなんて思えない。
マギアレフィカの説明とエリテマソーラの補足で、件のダンジョンが下層でもヤバイってことはわかった。
「そういえばダンジョンは一つだけか?」
「いいえあと二つ『巨石の遺構ダンジョン』と『地底の古城ダンジョン』があります」
ラストダンジョンかよ。いや、響きからして裏ダンジョンかも。
「巨人と悪霊が現れるとされています。わたくしが知っているのは、最下層の単眼巨人と悪霊群体くらいですけれど」
「最悪の場合、いまもリメースフロンスにはドラゴンやら巨人やら悪霊やらが溢れかえってるってことだよな」
ダンジョンから出た魔獣は、魔力の消費と共にいずれ消える。減ることはあっても増えることはない。
だから王国まで被害は及ばないと断言できるかといえば……、間違いなく余波はあるだろう。
そもそもダンジョンは攻略できるように作られている。と言うと誰かしらの意図があるように聞こえてしまうかもしれないが、そうではない。
攻略者に有利な作りと言いたいんだ。
魔獣は段階的に強くなり、かつ、手に負えない数と遭遇することは基本的にない。ここで基本的にと断りを入れたのは、隠し部屋があるからだ。
しかし、あれだって罠の範疇を超えるものではないし、逃げようと思えば逃げられる。
つまり、かなりゲームバランスがいいだろう。絶妙な調整をされた異空間と言ともいえるか。
それがバグった。
いいやバクらされた。魔女ネヴィアの手の者によって。
本来ならば、ダンジョン奥の強い魔獣を防ぐ弁の役目をする階層主。それを以前と同じ方法で突破させたんだ。
それができる強者と、その者たちを手懐けれる悪女を、オレはネヴィア以外に知らない。
完全なる状況証拠からの決めつけだが……。
「ネヴィアの狙いはどこにあるのでしょう?」
「私たちの側だけでなく、魔王の側にも被害を及ぼすのですから……」
エリテマソーラもマギアレフィカも、オレと同意見らしい。
「魔女ネヴィアの仕業と広めましょう。レガリスレクス王国で起きたことと酷似しておりますので、その線を強調します」
「待て待て大臣、いまはリメースフロンス王女の姿なんだろ」
「そこは伏せます」
「とにかく人災だと広めるのが先決か」
「はい。王国は勇者制度を拒んでおりますので」
だからなんだと言うんだ?
「王国だけ勇者の被害がないとも見えませんか?」
「——うちがやったとされかねないと⁉︎」
「そこまでは申しませんが、他国の被害が厳しい場合、いえ、かなりの被害となりましょう。そのときにどのような言いがかりをつけられるかわかりません」
「あとから言うよりマシ、か」
先回りして否定しておくのは大事だな。
たとえ信じていなくても、窮地に追い込まれた国は、藁にもすがる思いで言いがかりに乗っかる可能性だってある。
正義や真実云々ではなく、ときとして統治者は恥知らずな判断を迫られるものだ。
話はいったん終わりとなりかけたとき、
「陛下、お忘れですか」
エリテマソーラが、
「すでにレガリスレクス王国は他国の神父らを受け入れています。一時的な保護として」
ゾッとするようなことを言った。
「ま、まさか避難民が押し寄せるとでも?」
「おそらく神殿からわたくしへの接触はあるでしょう。それはマギアレフィカも同じことですよ」
「はいエリテマソーラ第一王妃。魔道士結社からも受け入れを求めて、私への打診があるかと」
ここまで含めてが、魔女ネヴィアの策だったとは思いたくないな。
そこまでの恨みを買った覚えは……、ないとも言えないか。
しかしこうなってくると、総裁や大神官と会うときは用心しておいた方がよさそうだな。




