税制を改革せよ
プエルラーレ第三王妃が言うには、
「エリテマソーラお姉さまもマギアレフィカお姉さまも『おめでとう』って。赤ちゃんに会うの楽しみーって、めっちゃ喜んでくれてたよ〜」
とのこと。
どうやらオレはドロドロな後宮劇とは無縁でいられるようだ。
これには心からホッとした。言わずもがな、そんなものに中間管理職のオッサンのメンタルが耐えられるわけがない。
「そういうわけだからヘーカ、その〜、しばらくのあいだ……。ごめんねっ」
やはり身重ともなると、そうそう動き回れないよな。
しばらくはプエルラーレの暗躍を心配しなくていいわけだ。
まだ裏でいろいろやっていそうだが、お腹の子に差し障るようなマネはしないはず。
「もちろんだとも。いまは身体を一番に考えてくれ。なぁに案ずるな、プエルラーレの代わりは他にもいるんだ」
「「——なッ」」
親子揃って。それはなんのコントだ?
「えーんえん、パパ聞いた〜。ヘーカひどーい。そんな言い方なくなーい」
「陛下! もう少し仰りようというものがありましょう」
は?
「どうにも行き違いがあるように思えるが」
「違わないもん! ヘーカってば、あたしが夜のお勤めできないからって——」
「待て待て待て、待てだ」
すれ違いコントだったか。見るに、二人は大真面目みたいだけど。
「あのな、オレはプエルラーレに『しばらく仕事を休め』と言ったんだ」
「だから——」
「夜のお勤めじゃなーい‼︎ そもそもオレはそういう言い方を好まない」
まったく……。
だが、ふと疑問に思う。
プエルラーレは第三王妃、つまりオレには家系図的な妻があと二人もいるわけだ。
エリテマソーラともマギアレフィカとも、そういう雰囲気はまったくないから考えもしなかったが、もしそうなったら彼女は悲しむんだろうか?
「いーい。王妃を増やしちゃダメだからねっ。パパも、いまは逆に政略結婚とかしない方がいいって言ってたし、ちゃーんとヘーカを見張ってて」
なるほど。そういう前提か。
「安心しろ。第一王妃と第二王妃がいるのに、他にも手を出せるほどの甲斐性はオレにはない」
「てひひ。ま〜あー、お姉さま方が相手ならあたしは気にしなーい。でもムリめっぽくない? だってヘーカって、お姉さま方にあんまり相手にされてないじゃーん」
「えぇんえん、大臣聞いたぁ。プエルラーレひどぉい。そんな言い方なくなぁい。プエルラーレ。もう少し仰りようというものがありましょう」
言われたことをそっくりそのまま返してやって、この居心地の悪いコントを終わらせた。
◇
やっぱり二種類の納税方法がネックとなるか……。
燃料問題は、木属性魔法の習得者を集めることで目処がたった。
募集に対して思いのほか多くの応募があり、一気に解決。と思いきや——へべス大臣は眉間に皺を寄せる。
その理由は、
「これまで農民や猟師は物納で済ましていたので」
農業などの一次産業従事者が、年に数回の物納と合わせて、日当支払いの仕事も請け負うことになるから。
現在、現金収入は年度末にまとめて一律の税率から算出している。還付などはなし。
これ以上の手間をかけていられないというのが実情で、現状でも手一杯なのだそうだ。
「そこへ計算に不慣れな農民や猟師が、納税対象の収入を得るとなると……」
面倒に思うだろうな。
物納後の農作物を商人に売ることはあったにせよ、そこに税はかからない。
だから彼らは足し算引き算だけで済んでいた。だがそこへ税率計算となると、出稼ぎに二の足を踏む者も出てくる、か。
「やはり日当からの一律天引きがよいかと」
へべス大臣が勧めるのは、現行制度をそのままに対応した案だ。
悪い案ではないと思う。
ただ、オレとは注視しているところが違う。
「数年以内なら賛成だ。ただもっと先を考えて、それを前提にしてほしい」
「……もっと先ですか」
「ああ。ダンジョンでのレベルアップにより、日に日に働き手の人口も生産力も上がっていく。すると、いずれ農村の収入には限界がくる」
「増えていくのでは?」
「作付け面積を考慮しなければ、出荷量に限っては正しい。でもだ、人の胃袋は一つだろ。食うぶんより多く作ったら——」
「値崩れしますな」
そうだ。せっかく働いても損をすることにもなりかねない。
こないだ見た高齢層の現役復帰も含めて考えると、早めに手を打たないと深刻な格差問題に繋がってしまう。
「このままだと王国は『相対的な貧困感』という非常に厄介な病魔に犯されることになる」
公開裁判の場でオレは見た、盗難の被害者である商人にあまり同情的ではなかった多くの傍聴者を。
すでに、一次産業従事者と二次産業従事者のあいだには無視できないへただりがある。
「それほどの問題となりますか」
「なる。オレらの都合で説明するとわかりやすい。全国民には安全な暮らしがあり、腹いっぱいメシが食えて、衣服も安く買える。そこに娯楽の提供を含めてもいい」
よいこと尽くめでは? と大臣は首を傾げる。
「それで国民の多くが満足してくれたらな」
「なるほど。より豊かな者がいる状況が、己を貧しいと錯覚させてしまう可能性を示唆して、陛下は『相対的な貧困』と」
「そのとおりだ。今回、農業従事者から燃料問題解決のために木属性魔法の習得者を集めるわけだが、彼らが農作物の売却以外で現金収入を得たら、きっと金に対する認識も変わるはず」
他にも余剰人材が溢れて街に働きにくる者も増えていく。とくに長男でない若者たち。とするとだ、ますます不公平感は高まるに違いない。
「現時点で可能かどうかは置いておくとして、オレの目指す税制を先に聞いてくれ」
かなり難しい内容なのは重々承知のうえで、と真剣味で示した。
「富める者からは多く、貧しい者からは少なく。これを実現する『超過累進課税』を導入したい」
年間収入から年間経費を引いた所得。この合計額に段階的な税をかけていく。
たとえば百九十四万円までは五%とか、百九十五万円を超えたぶんには十%みたいな、オレに馴染み深い所得税と同じ制度だ。
ひと息に説明したので、へべス大臣から質問があるものだと構えていたら、
「非常に公平感のある税制ですが……」
どうやら事務方のパンクを想像したらしい。
たしかに毎年年度末に一年分をまとめてだと、そうなるよな。ここにはパソコンもない。なんなら計算の苦手な人口の方が多いんだから。
「解決策として、前年度の所得から算出するのはどうだ?」
予定納税がそのまま確定納税となるアプローチだ。収入に振れ幅がある業種には注意喚起が必要となるが、集計に一年かけられるのは大きな助けとなるはず。
ここでふと、経費を水増しされるんじゃないかとも思った。
だが、よくよく考えたら現状でも隠し畑とかやってるだろうし、こちらがすべての収穫を完璧には把握できていない。それらが現金化という道筋を通ることで、塞がれるわけだ。
「……………」
「これを地域ごとに割り振って納税してもらえば、繁忙期の緩和にも繋がると思うんだが……」
へべス大臣の長ぁい沈黙。
そのあと、深ぁいため息。
「ハァ……。地域ごとに納税の暦を作成、あとは税率の早見表を作れば、役人の負担は軽減されますかな」
「となると残るは、物納をやめて現金化させるのが問題となるか」
「そのあたりは商工連盟の総裁と話してみないとですね」
きっと貨幣の流通量などの問題も出てくるだろう。
だったらそこらへんも含めて、諸々の問題に手をつけるなら今しかない。




