……魔法かよ
「燃費もバカにならない……か」
なんなら、これは現代を知るオレこそが早く気づくべき問題だった。
燃料不足は家計を直撃する。この点において、RPG的なファンタジー異世界だと侮ってはならない。
煮炊きにはじまり、焼き物や建築資材などにも悪影響を与える。ひいては物価も跳ねあがり、みんなが困ってしまうわけだ。
値上がりによる税収増は見込めても、貨幣の価値そのものが下がりかねなくて……ああ、頭痛が。
「あら、また陛下は夜更かしをされているのですか? こないだは『寝る子は育つ』と仰っていたのに」
ノックもなくオレの私室に入ってきたのは、エリテマソーラ第一王妃だ。
それいつの話だよ。長い寿命をもつハイエルフとダークエルフのハーフにとっての一年弱は『こないだ』程度らしい。
「こんな夜更けになんのようだ」
肌色多めのネグリジェ姿に、これでもかと主張の激しいネックレスをつけていて、夜分には刺激が強すぎる……。
「まあ、それは妻に仰る言葉ですか?」
言い返せない。
なぜならプエルラーレ第三王妃とは、その、まぁあれからちょくちょくとなので。でもここしばらくはご無沙汰で……。
だからといっても、エリテマソーラがそんなつもりで来たのではないことくらいオレにもわかる。
「明日、少しお時間をいただけます?」
「なにか改まった話でもあるのか」
「いいえ。わたくしも少しは陛下のお役に立とうかと思いまして。プエルラーレも動きづらそうにしておりますので」
日ごろから充分いろいろ教えてもらっているが、いったいどういう風の吹き回しだ? プエルラーレとなにか関係が?
「そうですねえ。神殿に便宜をはかってくださったお礼、と申せば素直に聞き入れてもらえるでしょうか」
相変わらず子供扱いじみた物言い。だが、それが嫌味に聞こえないのが、エリテマソーラのすごいところ。
「見返りに『大量に神官を受け入れろ』とかでなければ、構わないぞ」
「…………あらまあ」
え、なにいまの間。怖いんだけど。
「ふふっ。わたくしからそれを要求することはありませんよ」
「いずれオレが、そういうハメに陥るみたいな口ぶりだな」
「先のことはわかりません。けれど陛下は、教会の者を受け入れてしまった……」
「い、一時的にだぞ」
「善きにせよ悪しきにせよ、前例があればそれに縋る者もおりましょう」
たしかに。
もし各国の教会内で宗教的な弾圧でもあれば、ぞろぞろと神父たち信者たちが押しかけてくる事態もあり得るか。
「で、その話がなにに繋がるんだ」
「ですので、陛下は燃費にお困りなのでしょう?」
「まぁな」
「明日、そのお悩みを取り除いて差し上げます。それでは」
と、エリテマソーラは帰っていった。
まだ時間とか決めてないのに。
◇
そして翌日——
オレの政務が一段落つくタイミングに、エリテマソーラはふらりと現れた。
で、誘われるがまま王都からだいぶ離れた岩山までやってきたわけだが……。
「なぜこんなところに?」
「陛下は、相引きをするような場所をお望みでしたか?」
質問を質問で返えされ、はぐらかされた。
だがエリテマソーラは本題を口にしないだけで、すぐに言っていた『燃費』の解決策を実演してくれたんだ。
「…………魔法かよ。なんともファンタジーすぎる解決方法だな」
「わたくし、土と木の属性が得意なので」
サラッと言ってくれたが、エリテマソーラが唱えたのは、木と木の二属性『異常繁殖魔法』だ。
その名が示すとおり、岩肌を破り僅かに生えていた枯れ木のような植物が、あっという間に太っとい幹へ急成長。それもそこそこ広い範囲で……。
「これ、放っておいたらどうなる?」
「地面から抜いた木を放置したときと同じですよ」
「魔法で大きくされた木は自生できないのか」
気になったので、屈んで地面に触れてみた。前後を比べたわけではないので正確ではないが、元からの痩せた土地に変わりはないようだ。
「より正しい認識をしますと『魔力を養分にして急速に成長させられた木々』となります」
少しホッとした。どうやら土地の養分を吸い尽くすような魔法ではないらしい。
「……ダンジョンから発生する魔獣みたいだな」
「たしかに魔力に依る存在という点も、自らを維持できないとう点も、よく似ていますね。違いは、自然物を依代にしているので消えないところでしょうか」
そのあたりのファンタジー的な自然メカニズムはオレの領分じゃない。いずれ余裕ができたときにでも専門家が調べればいいとして、
「炭にするにはもってこいだな」
これで燃料問題は、挿し木でもして魔法でドーンと大きくしてやれば解決か。と思いきや、
「わたくしはやりませんよ」
「そこをなんとか」
「イヤです」
「でもエリテマソーラはオレの役に立とうと思ったって」
「ええ言いましたよ。して、これは役に立つ情報ではありませんでした?」
めちゃくちゃ拒否された。
「はぁ。少しは外聞を気にしてくださいな。陛下の開明的なところを好ましく思っておりますよ。ですけれど、第一王妃であるわたくしが木こりの真似事をしていては、民草にどのような噂をされることか」
ご、ご尤も。
ただ木こりというより、魔法による大規模な木材生産……。でもダメか。
「たしかに沽券に関わるな」
これはオレにはほとんどない感性だが、無視はできない。
「いいえ。沽券よりも『第三王妃を寵愛するあまり、第一王妃を遠のけた』という王宮の醜聞が広まりかねません」
「うぅわ。ありそう」
噂好きな女官から役人や兵士へ、そこから酒場に話は持ち込まれ、実しやかに語られていく。尾鰭背鰭をつけて……。
最悪、神殿の心象を悪くしかねない。
「もしかしてエリテマソーラが夜中にオレの部屋を訪れるのも、そういうのを気にしてなのか?」
「さぁて、どうでなのでしょう」
はぐらかされてしまった。含みがあるようでいて答えるまでもないこと、とでも言いたそうな口ぶりで。
こうなったら、荊棘魔法の習得者を募るしかないな。
マギアレフィカ第二王妃がダンジョン入場者のレベルアップ記録をつけてるし、該当者に個別に頼めばいい。
問題は、王国兵の様子を見る限り、木属性の魔法ってレアな魔法ってところなんだけど……。




