礼くらい言わせてくれよ
「人道的な措置として、諸君らの身の安全が確保されるまで、レガリスレクス王国での生活を保障しよう」
これで神父たちとの謁見も済み、このあと、各国へ事情を認めた書面を送った。
ざっくりまとめると——
こちらは非常に困惑しています。
かといって困っている神父たちを追い返すこともできず。これはそちらの内政問題であり、教会内部の問題でもあるので、なるべく早めになんとかしてね。
みたいな内容をだ。
王国内の教育機関となりつつある教会と接触させたくないので、だいぶ離れた場所に居留地を用意した。
もちろん『あらぬ誤解を生む可能性があるぞ』と『それは互いに不幸な結果を招く』と、保護した神父らに教会には近づくなと言い含めもした。
以上で、この件は先方のターン。しばらくは相手の出方待ち。
◇
王様になってからいろんなところを視察したが、なにげに生産施設だけは行く機会がなかった。
考えてみれば、現代人の魂が宿る王様なら真っ先に向かうべき場所だよな。
というわけで、待ちに待った新素材と新装備の目処がたったとの報せを受け、今日は工房区の見学へ。
「ここが……」
石造りの工房内には、初歩的だが工業の香りがした。
炭と煤、焼けた土、それらに油が混じった匂い。
「陛下、ようこそお越しくださいました。むさ苦しいところで大変恐縮ではございますが——」
「いやいや、割と好きな雰囲気だぞ。それに、どの設備もよく使い込まれていて、工夫の積み重ねが表れているようではないか」
メインナビゲーターは商工連盟の総裁。そうしたい気持ちはわかるが、いきなり遜る挨拶はいただけない。
ここで作業に従事する職人たちの耳もあるんだ。彼らの誇りを傷つけるような言い回しをしては今後に差し支えてしまう。
かといって俄か知識で褒めても見透かされる。だから本音を言った。
「やはり冶金師はノームが多いのだな」
「ええ。設備諸々の大きさもあるので……」
なるほど。職業選択の自由がないだけかと思ってたけど、設備という参入障壁があるのか。
総裁は口を濁したが、技術の秘匿や種族間の文化の違いなどもあるのだろう。
そう待つこともなく、職人頭のルルギアがやってきた。
「ようこそ陛下。ご案内します」
さっそく炉と完成品を見せてもらう。
「こちらの炉で精錬した鉄とハズレ銀を混ぜ、新合金の偽銀を作ります」
「アフトギウムか」
「ええ。偽物の銀を意味しています」
合金元素がバレバレだが、作った彼らがそう呼ぶのなら、呼称を変えるのもいまさらだな。
「配合比を見つけるのは苦労しただろう」
「できたアフトギウムを用途ごとに振り分けるのなら楽だったんですけど……」
そう。オレは一つ追加の注文をしたのだ。武器も防具も同じ配合にしてくれと。理由は、圧倒的に生産速度が優れるから。
だが、攻撃を受ける盾と打撃を与えるメイス、それぞれの理想的な耐久性や靱性は違う。
鎧のプレートも含めたそれらすべてを賄える配合非を見つけてくれと、かなりのムチャ振りを承知で頼んでみた。
結果、
「二十対三の割合が可もなく不可もなくとなりました。濡らして放置を繰り返しても、ほとんど錆びは浮かず、陛下がお求めの素材になったかと」
量産向きの新合金——アフトギウムの完成となった。
「あとの叩くのか型に流すのかで、かなり調整は利くと思いますよ」
「よくやってくれた」
これには総裁もニッコリ。笑顔の裏ではきっと新たな投資先として、いかに素早く資金を投入するか算段でも立てているんだろう。
つづいて、少し歩いて鍛治師の工房へ。
「おう王様かい。ようきたな」
カキンカキンと金床が響く。そんななかでも聞こえる大きな声で、ドワーフの職人頭——ファブリコがオレらを出迎えた。
「これファブリコ!」
「総裁、構わん。説明内容に集中してもらいたい」
まるでナイトクラブみたいに互いの肩に顎を乗せる距離感で、声を張っての意思疎通。
「おう、オメェら手ぇ止めろ!」
「「「へい‼︎」」」
急に静かになると、耳がキーンとする。
「まずはメイスだ」
さっそく見せられたのは、王国兵のメインウェポンであるメイス。
「柄は鍛造して、頭は鋳造した」
「ヘッドは星形多面体か」
「おうよ。ブッ壊れやすい部分だからな。ガンガン使ってもすぐ修理できる。注文どおりにやったぜ」
メンテナンス性まで考えてとは、恐れ入る。
擦り減ったり潰れた突起も、少ない手間で直せるし、鍛えたシャフト部分は繰り返し使える。
なんてお財布に優しい武器だ。見た目は凶悪だが。
「メイスはそうでもねぇ。大仕事だったのはこっちだ」
つづいて説明してくれたのは、盾以外の防具類。
兜、胴、小手、あとブーツとケープ。
それぞれの基本構造は、革に金属メッシュを貼ったものだ。
「叩いて棒状にしたあと、なんども穴を潜らせてやると頑丈な鋼線になる」
「それを網目状に編むのだな?」
「そっからの仕事はリアリアんところに任せてるぞ。ワシらでこさえるのは、鋼線と防御板と鋲まで」
そう。兜と胴と小手には、要所要所に防御プレートを貼るのだ。それも規格を揃えて型抜きした、手のひらより小さな六角形の板を。
「ふむふむ。コストと整備性を追求した、職人技と効率化の融合とも言える装備だな」
「それ、褒めてるのかい?」
「もちろんだとも」
これ以上なくな。
動きやすさプラス防御を考えた作りのこれらは、衝撃、斬撃、刺突すべてに対応できる防具と言えよう。
「だったら気が早いってやつだぜ、王様」
「ほう。それほどか?」
「ああ、こいつが一番苦労した」
と、鍛治師の職人頭ファブリコが自信満々に、ドワーフらしい低身長ながら肉厚な身体で構えてみせたのが——
「見事な曲線だ」
「だろ。なんど曲げを変えたか覚えてねぇくらいだ」
これは魔法習得できない者らのために用意した専用装備。
盾に特化した兵科ができたので、考えた。一番負傷率が高い役割なので少しでも和らげたいと。
「ぜひともビーム薙刀をセットで持たせたくなる形状……」
「なんだいそれ?」
「気にするな、こっちの話だ」
上下に角張った縦長のラウンドシールド。その流曲線が攻撃を受け流すわけだが、最大の特徴は形ではない。秘密は内部にある。
「型にしてからの焼き入れと焼き戻しには、難儀したぜ」
「オレも持ってみていいか?」
「ああ。見た目ほどは重くないぞ」
だから逆に気をつけろと渡された盾。
たしかに分厚い外観から想像する重量ではない。
というのもこの盾、湾曲した外面と持ち手のついた内側が別れている。では、中は空かと言えば、違う。板バネを仕込んであるのだ。
なので形状は受け流しに特化し、かつ流しきれなかった衝撃を板バネが緩和するという仕組み。
さらにはリベット留めの際に軟鉄のワッシャーまで噛ませるこだわりよう。
単価はメイス十本分以上。でも、兵士らの生命には変えられない。
「素晴らしい仕事をしてくれた」
「べつにワシらが考えたわけじゃあねぇ。王様が作れっつったもんを作ったまでよ」
「なにを言う。この盾によって兵士の負傷率が下がるんだ。礼くらい言わせてくれよ」
「礼っつうなら一つ相談があるんだが、いいかい?」
やはり単価が合わないとか、そんな話だろうか?
「これファブリコ。その件はこちらでなんとかすると言ったであろう」
「いや、聞こう。総裁の手に収まる範疇だとは思うが、念のためな」
こんなやり取りも経て、ドワーフの職人頭が口にしたのは切実な内容だった。
「じきに炭が足りなくなる」
燃料か……。
値上がりもさることながら、供給が追いつかなくなってきている。そういう話だった。
そりゃあ王国兵の装備を一新するんだから、そうもなるよな。
さてさて、どうしたものか。




