ちゃんと測ってくれよ
神父たちを下がらせたあと、オレとへべス大臣はしばらくため息だけで会話した。書類仕事の手は止めずに。
「ハァ……。神父らの衣食住の手配も終えましたので、私は少し気分を変えてこようかと」
「どこへ?」
「練兵場に」
まぁへべス大臣が行くなら、あそこだよな。
「オレも行く」
「では参りましょう」
あとはセレモニー的に神父たちと謁見すれば、いちおうのケリはつくところまで進めて、オレらは練兵場へ。
◇
この時間は兵士より一般利用者の姿が目立つ。
というのも、ダンジョン管理局に登録した者は、定期的にここで身体測定を受けることを義務づけたからだ。
認可更新の際に必須としたから、ほぼすべてのダンジョン入場者からデータを集められる。
その記録を担うのは、マギアレフィカ第二王妃と魔道士結社より派遣された魔道士たち。
主席導師は『算数に長けた者を』というオレのリクエストに応えて、優秀な人材を送ってくれた。
「これは陛下」
「仕事の手を止めさせてすまないな。オレと大臣は、あれをやりにきただけだから」
出迎えようとしたマギアレフィカや他の者たちに気にしないでくれと、目的を指さす。
一見すると革製ウォーターバック。しかし上部には伸びる管があり、打撃の威力が溢れた水の量で測れるというオレのアイディア商品。
なかなかの企画だと思うんだが、残念ながら使っているのは練兵場でだけ。とても普及しているとはいえない。
「拝見させていただいても?」
「それは構わないが、変わらないと思うぞ」
ここ半年、へベス大臣はちょいちょいと、オレはさっぱり。これがレベルアップの現状だ。
「いえ、気づいておられないだけの可能性もありますので」
「成長幅が狭くなっているかもしれないってことか」
「はい」
こっちはガッカリしてみせたのに、マギアレフィカは淡々と応える。
こんなふうに、いつもどおりといえばいつもどおりのコミュニケーションをとっていると——
ダムッッッ‼︎
鈍いこもった音が。
へべス大臣が「〝グラベール〟‼︎」と、石礫の魔法を唱えながらウォーターバックに激しくタックル。
「ふぅ。我ながらなかなか」
そして満足げに額を拭うんだ。
「なぁマギアレフィカ、あれはどうなんだ?」
「おそらくへべス大臣は、自身を質量体に見立てて体当たりをされたのかと」
それは見たらわかる。
オレが言いたいのは、石礫魔法の石の部分はともかく『礫はどこ行った?』だ。
「非常に興味深い魔法運用です。けれど、魔獣相手にはオススメはできません」
「だろうな」
ぶつかったのがウォーターバックだったからいいものの、もし固い魔獣なら自分へのダメージが半端ない。
「装備で対策しておくべきでしょう」
その手があったか。
……いいや、ダメだ。
「固くすればするほど、内部への衝撃はダイレクトになってしまうぞ。あんな攻撃をしていては身がもたない」
「防具は柔らかい方がよいと?」
「両方を兼ね備えるのがベスト。いま、そういう防具を開発中だ」
「それは楽しみです」
とても年頃の娘とは思えない返しだが、本音なんだろう。微かに口許が綻んでいる。
「さて、オレも叩いてみるとしよう」
手に取ったのはスリコギみたいな短い棍棒。王笏をイメージして。
兵士の装備が整ったら、次は伸縮式警棒みたいな感じに王笏を作ってもらうのもいいな。
などと雑念があったからだろうか。違うな、これがオレの実力だ。
「陛下、チョロっとです」
「いやいや、ちゃんと測ってくれよ。なんのための目盛りだ」
「一センティメトロンと半分。重さにしますと、一リブラと半分でした」
……だいたい五百CCくらい、前と変わらずか。
へべス大臣のと比べてるとだいぶ見劣りするな。
「やはりレベルアップしてないんだろうな」
「他も計測してみないと断言できませんが、おそらくは」
そうかの一言でため息を飲み込み、練兵場の様子へ目をやった。
「にしても賑わっている」
「見てわかる成長は嬉しいものなのでしょう。規定より多く通う者もおります」
「レベルアップを可視化したら、そうもなるか」
「おかげで成長記録は集まる一方です。それはもう、考察する暇もないほど」
データは詳細に越したことはないが、処理できない量となると、それはそれで考えものだな。
この様子だと、集計して折れ線グラフにするなんて無理そうだ。だったら……。
「たぶん散布図が扱いやすいと思うんだけど、横軸をどうするかが悩みどころ」
このボヤキを聞きつけたマギアレフィカにどんな図かを説明した。
仮に横軸を時間として、縦軸は結果。これを点で打つことによりレベルアップによる成長推移の傾向が見えてくる。
「では、横軸をダンジョンの入場回数とします」
「それなら、被験者の計測頻度を調整しなくても済むな」
これで体力的なところはオッケーか。
「魔法は環境的な要因も多そうだから、別の方法がいいぞ」
「そうなると、個人ごとの具な記録をまとめなければなりませんね」
「項目を設ければいい。入場回数、魔法の習得未習得と種類、大まかな生活環境、あとはどのダンジョンに入ったのか、とかか」
「とてもでありませんが……」
「しばらくは体力だけに専念してくれ。ただ、集められるだけデータは取っておいた方がいい。のちのち役に立つ」
それもこれも、処理ができてこそなんだが。
「第一層のみの開放としているから、じきに落ち着くと思うぞ」
「はい。では、散布図というものからはじめてみます」
「ああ。ただ、延々と点を打ってると世界がドットに見えるようになるから、ほどほどにな」
被験者五十名程度でも音をあげた学生時代を思い出した。手作業で散布図とか、オレはかなりのムチャを言ってしまったのかもしれない……。




