どれだけ話を盛ったんだよ
事前レクチャーによれば、ドゥカート公国もプリンキパート諸侯国もレス・プブリカ共和国も、現在では中央集権化された国家らしい。
かつては公爵が建てた国、諸侯から信任を受けた侯王が納めた国、世襲される執政が治める国……。
どれも度重なる政変に魔王の脅威が加わり、国体は名ばかりで、強権が働く統治体制に落ち着いたのだそうだ。
さておき、今回のお客さんは国を代表する使者ではなく、それぞれの地に根を張る教会からやってきた神父たち。司教以上の幹部はいない。
「で、大臣。その者たちはなんと? いや、先にネヴィア追跡の報告を受けた方がよさそうだな」
「では追跡に携わった者を」
「頼む。場所は謁見の間ではなく、応接間で」
「御意」
それから長い長い報告を聞くことなった。
魔女ネヴィアがあちこちに足取りを残していたのが原因だ。
あるときは教会関係者と接触して、またあるときは多くの冒険者を連れてダンジョンへ入り、またあるときは上級官僚や元首とも関わりをもったりと、神出鬼没。
なぜそんなことができたのかといえば、ネヴィアには『乗り移り』があるから。
そのたびに抜け殻を残していく。かつては別の人が宿っていた肉体を。
その亡き骸と事前に深く関わった人物を追っていくことで、ネヴィアの動向を掴んでいったのだそうだ。
「なぜネヴィアは痕跡を消さないのかな?」
「……わかりません。もしかしたら手間を惜しんだのかと」
隠すまでしなくても見つからないよう工夫するだけで、かなりの時間稼ぎになるはず。
なのにあえて追っ手の目につくところに抜け殻を残していくのは……。
ここで撹乱と考えてしまうのは、追う側であるこちらの立場に立ちすぎか。
いったんは事実だけをなぞるべきだ。
「気づかれたのかもしれません。こちらが教会関係者に接触されたところで、足取りはプツリと途絶えました」
申し訳ありませんと詫びる者たちに労いの言葉をかけて、ゆっくり休めと下がってもらった。
それを見送るなり、へベス大臣が口を開く。
「狙いの深いところまでは読めませんが」
「他国の教会から神父たちをレガリスレクス王国へ誘導したのは、ネヴィアの目論見どおりだったんだろうな」
とても無関係とは思えない。
レガリスレクス王国は、途方もなく面倒な外交問題を送りつけられたのだから。
「本音を言えばお帰り願いたいところだけど」
「はるばる訪れた者らをですか? どうやって入手したのか、彼らは出国許可まで持っているのですぞ」
「だよなぁ」
きっと追い返したら追い返したで、面倒が待っている。
だったら少しでも事情を知っていた方がマシ。
という判断で、神父らを代表する者を三名、応接間に招いた。
謁見の間だと公式な発言になりかねないので『先にお話を聞かせてね』という意味で。
「レガリスレクス王国国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しくお過ごしのことと、心よりお慶び申しあげます」
どこをどう見たらオレがご機嫌に見えるのやら。
いちいち挨拶の定型句にツッコミ入れてもしかたないんだが。
「公式に会う前に、腹を割って砕けた話をしようという意図だ。楽にしてくれて構わない」
オレの相変わらずのスタンスに、へベス大臣はため息を一つ溢すことで互いのあいだに一線を引く。
「現在、各国の教会は割れております」
神父の一人が単刀直入に、物騒な話題から切り出した。
つづきを促すと、レガリスレクス王国での顛末を広めている者がいるらしい。こちらが説明した内容に脚色を加えて。
「陛下は、レガリスレクス王国の教会を管轄する大司教と司教らを厳しく裁いたのだか……」
国外追放としたと答えたいところだが、城の牢で暗殺されたあっては素直に教えるわけにもいかない。
だが、このあたりを知っていて他国で噂を広めたとなると、ほぼ魔女ネヴィアの仕業だと断定できる。
無理筋の容疑者をあげたら、いまもネヴィア追跡中の元盗賊ギルド長であるラトロや、魔王との戦い最前線へ向かっているオブルスもいる。
だが、彼らに教会関係者らをそそのかすのは、まず無理だろう。
「その者は、貝の小物を持っていなかったか。癖のように手遊びしていたりは?」
「陛下もご存知な方なのですね」
やはりか。
どうもネヴィアは聖女を名乗っていない様子。
「もしや王国から遣わされた——」
「いいや違う違う。キミたちがどこまでを聞いているか知らないが、レガリスレクス王国では、ソイツはダンジョンを利用した破壊工作を働いた重罪者だ」
やはりこちらが送った手紙の内容は、世間には伏せられていたか。
あと、魔女が暗躍したのも間違いないようだ。
「で、我が国で起きた教会幹部らの追放劇を耳にして、なぜキミたちはここまで来ようと思ったのだ?」
「大司教の追放より、勇者制度の廃止に心を打たれまして」
「私もです! 陛下は『少年に世界の命運を託すなど言語道断』と仰せになったとか」
「大司教の悪事を糾弾し、勇者制度を痛烈に批判された話を聞き、居ても立っても居られず、こうして押しかけた次第です」
そんなキラキラした目を向けてくれるな。
魔女め、どれだけ話を盛ったんだよ。
「それで、キミたちはオレに会うことが目的だったのか?」
念のため、ガラッと空席となったレガリスレクス王国の幹部の座を狙っていないか確かめておく。
すると、
「我々を亡命させてはいただけないでしょうか?」
ここで『教会が割ている』という話に戻った。
勇者制度廃止派は比較的若い神父が多く、既得権益層である大司教や司教ら幹部は既定路線を崩されたくない。
結果、改革と政治闘争によって、彼ら廃止派は居場所を失いかけているのだとか。為政者としても勇者制度は都合がいいから、なおのことだ。
どこからどこまでが魔女ネヴィアの筋書きかわからないけど、とにかく厄介なことになってきた。
ここで他国や教会との軋轢を避けるために受け入れを拒めば、オレのやった大司教追放が、単に私利私欲に走っただけとされかねない。
なんなら期待を裏切られたコイツらが吹聴する可能性だってある……かぁ。
「すまんが、亡命は受け入れられない」
「「「——そんな!」」」
まったく。オレが快く受け入れるとでも吹き込まれたのか?
「ただし、一時的な保護なら他国にも説明できる。期限は、キミらが帰れる状況になるまで。言っておくがレガリスレクス王国での活動は一切認めない」
「「「ぉおおっ」」」
「陛下の寛大なご配慮に感謝申し上げます」
「もう一度言っておくが、一時的だぞ一時的。あと神父としての活動もダメだからな」
「はい。もちろんでごさいます」
クッソ。魔女め、とんでもない厄介事を送りつけてくれたな。
この苦悩を分かち合ってくれるであろうへベス大臣に目を向けると、めちゃくちゃ渋い顔をしていた。




