おいおい楽勝かよ
第四層最奥につくと——
ちょうどユエニスくんと道場主八名のパーティーに、兵士が一名加わり、階層主の間に踏み込むところだった。
兵士は踏み込むなり退いた。
「おいまさか、四層の階層主で経験値を稼いでいるのか⁉︎」
気を散らさないよう声を抑えたつもりが、思っていたより大きくなってしまった。
すると、こちらに気づいたユエニスくんがニッコリ会釈。
たしか山麓の洞窟ダンジョン第四層の階層主は、大型鷲頭獅子だったはず——
「いや前、前! じゃなくてユエニスくん後ろ!」
突如として現れた大型グリフォンは、少年から大人になりつつある勇者を大きな影で覆った。
サイズがバグってる。遅いくるライオンの腕は、爪というよりパワーショベル!
それをユエニスくんは難なく躱し、行きがけの駄賃とばかりに、彼の背丈とは不釣り合いな分厚い大剣で斬りつけた。
その無謀に見える立ち回りを、道場主たちがフォローする。
以降はしっかり安全マージンをとりつつ、手早く無力化ていく。
具体的には、まず脚を狙い、飛んで逃げようとしたところを翼を槍で攻撃して阻止。
大型グリフォンの苦し紛れな反撃は大盾で往なし、体勢が崩れたところへ——
「〝聖光魔法〟」
ユエニスくんが光を帯びた大剣で致命的な一撃を入れる。あとは削り切るだけとなった。だいたいこんな流れ……。
ややあって、サラサラと散りゆく大型グリフォンを背景に、見事な連携を見せた道場主たちがこちらへ一礼した。
おいおい、楽勝かよ。コイツら強すぎやしないか。
「なぁルアーナス総監。これを見た兵士は自信喪失してしまわないか?」
「そのあたりは……、我々や兵士長たちが励ましますので。それに、かつて盗賊だった者だけでなく、近ごろでは元冒険者も入隊しておりますから」
「理不尽なほどの力量差は理解していると」
「はい」
ちゃんと王国軍の幹部たちは弁えていたか。そのうえで、数で押す運用を磨いているんだ。余計な心配をしてしまったな。
だが反省すると同時に、新装備に刷新したときが楽しみになる。
個人ではなく、全体的に各個が何割か増しになるのだから、軍としての戦力強化は凄まじいはず。
「陛下」
ルイーナス総監と話していると、ユエニスくんが改めて挨拶にきた。
「順調なようだな。予想以上だった」
「でしたら——」
「待て待て。まだ魔王には遠く及ばない。聞くところによると、魔王は上位九頭竜粘土像を単独で、なんなく倒すそうだ」
これはこないだ会ったときの肌感だが、目安にはなる。
「……そうですか」
「キミの努力はオレも理解している。とてつもない速さで成長している才能もな」
なにより、すぐに第五層へ行くのではなく、四層のボスで効率的にレベル上げしている進捗さには好感を覚えた。
「だからこそ、あと三年半、みっちり鍛えてもらいたい」
「はい!」
正直それで魔王に届くとは思えないが、だとしても生存率はかなり増すだろう。
ユエニスくんの後ろに控えた道場主の面々に目をやると、なにか言いたそうにしていた。
「困ったことや足りない物があれば言ってくれ」
「いえ、そうではなく……」
彼らは礼を言いたかったようだ。
聞くと、勇者パーティーに選ばれるのは冒険者にとって誉れらしく、かつては教会の信者ばかりが選ばれていた。
だから歳を重ねた今、いっときでも勇者と同行できるのが嬉しいとのこと。
この言葉に嘘はないようで、以前の銭ゲバな目つきは澄んだものに変わっていた。
立場が人を作るとは、まさにこの状態だ。良い意味でも悪い意味でも。
「しかし我らが同行できるのもあと僅か……」
「差し出がましいのを承知で申せば、王国兵のなかで見どころのある若者を選抜してはどうかと」
なるほど。エリート集団の相応部隊はオレも考えていた。一考してみるのもありかもしれない。
「キミたちの意見はよくわかった。近いうちに、王国軍の幹部と話してみよう」
このあとも第四層のボス戦を見て、視察を終えた。
やはり勇者認定されるだけあって、すごい才能だ。
ただ、こんなポテンシャルを秘めた子であっても生存率は低いのだから、魔王と国境を面する土地の危険度はとんでもないな。
しかし、それだけでもない気がする。
ここで思い出したのは、元勇者パーティーという生存者たちだ。
なぜ勇者だけが帰ってこない?
さっき話題にあがった、パーティーメンバーの構成に教会が関与していたという話からも、嫌な想像をしてしまう。
もう我が国では起こり得ないこと。ただ、教会は他国では健在で、根を張っていない国の方が少ないくらいだ。
さすがに内政干渉になってしまうので、レガリスレクス王国以外のことには首を突っ込めない……。
ここで『ままならないな』と感じるのは、王様二年生には過ぎた傲慢さだろうか。
◇
城へ戻ると、魔女ネヴィア追跡隊からの報せが届いていた。
交代要員と入れ替わりで帰還した元盗賊の王国兵たちが控え室にいるとのこと。
「控え室?」
「人数が多く、そちらで陛下のお戻りを待たせております」
「報告は全員でなくていいだろうに」
「いえ、それが……」
つい最近、似たような展開があったな。あのときは悪質なドッキリを仕掛けられたような気分にさせられたが。
「主だったところを挙げますと、ドゥカート公国、プリンキパート諸侯国、レス・プブリカ共和国より——」
「使者か?」
てっきり各国が勇者を送らないことに対して物申しにきた、もしくは探りを入れにきたのかと思った。
だが違った。
「いいえ。それぞれの国より教会関係者がみえております」
もっと面倒な客だった。
よりにもやって魔女ネヴィア追跡の報せと同時というのが、これまた……。




