曲がった腰が伸びるのかよ
「陛下、そろそろ」
「おっともうそんな時間か」
職人たちと新装備について話していたら、つい熱が入ってしまった。
オレが出した案に、ああでもないこうでもないと付け足したり削ったりを繰り返していたら、あっという間だった。
「ではいちど持ち帰り、次にお目にかかるまでに試作品をご用意いたします」
粗方の方針は決まったので、あとは商工連盟の総裁と職人頭たちに任せることに。
それを見送るなりへべス大臣は溢す。
「……余裕をもって予定を組んでおりましたのに」
「そう言うなよ大臣。オッサンだって男子。新しい装備と聞いて夢中になっちゃうこともあるさ」
「私にはわからない感覚ですな」
かくいう大臣、最近はますます肉体派となっていた。政務の暇を見つけては練兵場へ出向いて筋トレをしているんだ。
あれを腕立てなどと同じカテゴリーに入れていいのか微妙だが、こないだ見かけたときは、人の頭くらいある鉄球をメディシンボールのように扱っていた。
それを一部の兵士たちもマネしだしているので困りもの。
鉄球を手に『グラベル!』と石礫魔法を掛け声に、鉄球でバスケのパスみたいにしていたのだから、開いた口が塞がらない。
さておき、商工連盟につづいて謁見の間を訪れたのは、大神官。神殿の代表だ。
以前はやや強めに対応したが、できるだけ仲良くしておきたい友好的な勢力。なので先の提案どおり、現在は職業訓練や資格認定など担ってもらっている。
「よくきてくれた大神官。先日の将軍や総監、隊長の認定では世話になったな」
王国軍の再編においては、オレの権力だけでなく神殿より認定された権威も役に立つ。兵への説得力が変わるからだ。
「とんでもございません。お役に立てたのならなによりでございます」
「とはいっても、新たに試験を設けるのは大変だっただろう」
「陛下に強がりを申しても見抜かれてしまいますな。ええ、神殿が保有する書物を端から端までひっくり返しての大仕事でございました」
将軍などはそうなんども認定料を得られない高級職、割に合わなかったはず。
「お気遣いには及びません。盗賊スキルの認定や、魔法兵、盾兵などの等級認定は今後も多くの受験者が予想されますので」
「神職の者に『稼げ』というのは違うかもしれないが、かけてくれた労力には報いる。これからも励んでくれ」
スッと大神官は頭を下げる。
司教冠などの装飾がない質素な身なりだが、こういう所作に品が表れていた。
ちなみに、件の資格と等級が、勤続年数プラス勤務実績に合わせた給料に上乗せられる。
合格者の受験料諸々は王国持ち。あとから精算しているので、兵士たちのモチベーションも高く維持できていた。
いまのところは王国軍関係から。ゆくゆくは民間の職種まで幅広く手を広げてもらいたい。
資格というゴールがあることで、副次的に学びの質の向上も見込める。
◇
オレは、山麓の洞窟ダンジョンにきていた。今日はこないだの経験値稼ぎ兼リフレッシュとは違い、主に一般開放された第一層の視察が目的。
「お待ちしておりました」
出迎えてくれたのはルアーナス総監だ。
以前は海辺の塔ダンジョンを担当していた兵士長だったが、王国軍の再編に合わせて配置も変えた。
ぜひ、さまざまな知見を得て、軍の運営に役立ててもらいたい。
「本日は一般入場者への対応をご覧になれると伺っております」
「あと、時間に余裕があれば」
「ユエニスの様子ですね」
「ああ」
教会に勇者認定された少年——ユエニスくん。彼はその楔から解放されてなお、勇者であろうとした。
なのでオレは四年間、十六歳になるまで鍛えることを提案したんだ。それから半年ほど。ダンジョンに入り浸りつづけた彼が、どれほどになっているのかは気になるところ。
「では、ちょうど指導員が一般入場者を案内しますので」
「少し離れてついていくか」
「加わらないので?」
てっきり陛下なら混じりたがると思いましたが、みたいな顔で言われてしまった。
「オレがいたら気を遣うだろ。それでは視察にならない」
「たしかに、いつもより丁寧な案内をするかもしれません。だからそのようなお召し物なのですか?」
そう、使い古した王国兵でカモフラージュしてきた。
こないだはお忍びに困らされたが、今日はオレがお忍びする番。
「それがわかったなら、あまり仰々しい態度は取らないでくれ。バレてしまう」
こうして引率から距離を置いて、あとをついていくこととなった。
さて、指導員だが、わざわざ王国兵の人手を割くのは勿体ない。その時間があるのなら、少しでも攻略を進めてレベルアップしてもらいたい。
そこで、冒険者組合の下部組織である道場の高弟たちに、その役を振ることにしたんだ。
正直みくびっていた。
だが彼らは、ダンジョンで一生分の財を築いた成功者ではなく、過酷な労働環境を生き抜いたサバイバー。
そういう視点で見ると、とても慎重で、無理のない立ち回りを弁えているのがわかる。
一般入場者、即ちダンジョン初心者にレクチャーするのに打ってつけの人材とも言えよう。
「怪我をした入場者は?」
「現在のところ大きな事故の報告は受けておりません」
それでいい。あくまでお客さん扱いで、じっくりと経験値を稼いでもらえばいいんだ。
「見る限り、年齢の分布は報告どおりだな」
「はい。高齢層と若年層に偏っています」
働き盛りはそんな暇を取れないってことか。一番レベルアップしてもらいたい層なんだが、ままならないものだ。
「しかしいずれは」
「働き盛りがくると? どうして?」
「高齢層のレベルアップが原因になると思われます。実際に、養われる側だった高齢層が働きはじめて『おかげで余暇の時間を取れるようになった』と中年層の男が申しておりました」
すごいなレベルアップ。曲がった腰が伸びるのかよ。再生医療も真っ青な若返り効果じゃないか。
言われてみれば、男女問わず白髪頭なのに背筋がピンとしているお年寄りが多い。
「思ってもみなかった結果だ」
「またまたご謙遜を」
いや、本当だって。
にしても、これはますます魔道士結社の研究レポートが待ち遠しくなる。
結果次第では、年齢別の引率も考えないとか。あとは労働人口の爆増も視野に入れておかないとだ。
このあと数組のダンジョン案内を見て、予定を繰り上げた。
「たしかユエニスくんは第四層だったな」
「いえ。昨日、階層主の間を突破しました」
そうか、報告が行き違ったか。
申し訳なさそうにするルアーナス総監に、オレは「問題ない」と伝え、ひきつづきの案内を頼んだ。
いくらユエニスくんの同行者が道場主ばかりの精鋭揃いとはいえ、すごいものだな、勇者というのは……。




