新素材を開発せよ
「さっきの言葉を鵜呑みにはできない」
「ですな」
魔王という固有名詞は出さず、へベス大臣と認識の擦り合わせを済ませた。
「それにしても、どうやってここまで来たんだろうな」
「相手が相手ですので……」
それくらいやってのけるか。
まさかテレポートみたいな魔法を使ったりはしないよな。ちゃんと裏口からでていったし、それはないと願いたい。
「陛下の不在中に『ゲヌ・フマノイデス首長国連邦の方からやってきた使者である』と、王への取り次ぎを願う書状を届けられまして」
まるで消火器詐欺みたいな定型文。
「で、先に大臣が会ってみたと」
「はい。追い返すこともできず……」
ムリもない。魔王が来ちゃったんだから。
仮にレガリスレクス王国の全戦力を掻き集めても、あれを倒すのはムリだ。手傷を負わせたがこっちは全滅しましたなんて目も当てられない。
「穏便に帰ってくれたし、よしとしておこう」
「……すみません」
「大臣のせいじゃない。しかしこうなってくると、余計に戦地からの報告が待ち遠しいな。魔女ネヴィアの追跡情報も」
「もしや陛下は、戦地の悪童集団と魔女を関連付けておられるのですか?」
「根拠はない。ただ、非常に厄介な組み合わせだと思っただけだ」
「たしかに。世を引っ掻きまわすのに、これほど適した組み合わせもありませんな」
ああ、ゾッとする。想像したくもない。
が、このことは頭の片隅に置いておき、あとは元盗賊ギルドの長であるラトロからの報告を待つしかないか。
◇
翌日——
商工連盟の総裁と職人頭が三名、謁見の間を訪れた。
「陛下のお話を伺い、冶金師、鍛治師、革細工師の代表を連れて参りました」
三人とも小柄だ……。
「それぞれに自己紹介を頼んでもいいか?」
「もちろんでございます」
「冶金師のルルギア、ノームです」
まず左端の、白髪で鼻が高い職人から応えた。見た目とは裏腹に声の感じからして若い。
つづいて真ん中の、聞かなくても種族のわかる髭面ゴリマッチョが野太い声で応える。
「ワシは鍛治師のファブリコ。ドワーフじゃ」
「革細工師をしております、ホビットのリアリアです」
最後の右端は、ぽっちゃり系の女子だった。
やっぱりファンタジー。職人はヒト種より亜人種が多いのだな。
このあたりの個人的な興味は置いておくとして、話を進めよう。
「して、オレが頼んだ装備は作れそうか?」
「職人同士でも試行錯誤を致しましたが……」
「単価が合わないと」
「申し訳ありません」
「いや、詫びる必要はないぞ」
我ながらムチャを言ったからな。当然の結果だ。
普通に考えてハニカム構造の盾とか複合装甲の鎧とか、その場の思いつきにしてもムチャ振りすぎるだろ。
いずれ近い物ができたら、そんな期待も込めての問い合わせだったんだけど……それにしてもだ。
「いちおう確認するが、作れないわけではないのだな?」
「ファブリコ、陛下にご説明を」
総裁は鍛治師の頭に任せた。
「ハニカムといったか、六角の仕切り板で細かく分けるのは、なかなか面白い案だ。じゃがな、ものには限度っちゅうもんがある。しかも受けることが前提の盾に使うっつうには手間がかかりすぎじゃ。王様は国を傾かせたいんかい?」
「こ、これファブリコ」
「いやいい。喋りやすい言葉で構わない。つまりはキミが言いたいのは、消耗品では採算が合わない造りということだな?」
「うむ」
手作業でも作れるって時点で、かなりの腕だぞ。
これは代案を出すのが楽しみだ。
「ルルギアだったか、キミはハズレ銀を扱ったことはあるか?」
次はこちらから、ノームの冶金師頭に話を振った。
すると少し言いづらそうに、
「あれは、鍛治師の見習いが扱うものでして……」
価値のない物だと応える。
「それ単体ではな。しかしだ、冶金師ならよく知っているだろう『金属に混ぜ物をすると新たな金属ができる』と。青銅しかり真鍮しかりだ」
「——まさか!」
「おそらく一割か二割でよい。鉄を鋳造できる熱を出せるなら溶かせる、はず」
これまで誰も試していないのが不思議なくらいだ。
固定観念が原因か? もしかすると試しはしたが最大の特性を確認できなかったのかもしれない。刃物にするにしても炭素鋼の方が優れているし。
「オレの予想どおりなら、鋼より鋭さの面では劣る」
「……やはり」
さすが専門家。ここまでは知っていたか。
「だがな、ハズレ銀を混ぜた鉄はほぼ手入れの要らぬ金属となるぞ」
「どういうことでしょうか?」
「簡単に言うと錆びにくくなる。併せて耐久性も増し、衝撃を受けても形を保つようになる、はず」
「ど、どこでよそのような知識を……」
くると思っていた質問だ。
「古い書物でな。おおっと、悪いが貸し出すことはできないぞ。言ったとおり項をめくるのにも細心の注意が必要な古いふる〜い本なのだ」
「そこより得た知識と照らし合わせた、推測ということでしょうか?」
「そのとおり」
オレの想像が当たって、ハズレ銀がニクロムに似た金属だった場合、クロムとニッケルを分離できたら理想的。しかし技術的に、あと千年はムリだろう。科学という名の魔法を用いない限りは。
ただ、溶かして鉄に混ぜ込むくらいなら今でもできる。
「確実にとは言い切れないが、それでも頼みたい。総裁」
「承知しております。皆、このことは口外せぬように。ハズレ銀の値があがっては、我らの利益が薄れてしまうゆえ」
「それとなく買い集めてくれ。一気に買っては値上がりしてしまう。王国軍がダンジョンで得たハズレ銀も保管しておくようにする」
「はい。もちろんにございます」
すべては新合金の開発が成功するという前提に立った投資だ。
だとしても集めたハズレ銀の値が下がるわけではない。思惑が外れたときは、ゆっくりと放出すればいいだけの話。それができる資金力が商工連盟にはある。
とはいえ金儲けはオマケだ。あくまで新素材の開発がメイン。
「では、鎧や盾の構造、主武装のメイスの造りについて改めてオレから提案をさせてくれ」
このあと、新装備についての現実的な代案を話していった。
職人頭たちの反応を見る限り、今回はオッケーが出そうだ。




