まさかの魔王かよ……
中間管理職のオッサンだったオレが、RPG的なファンタジー異世界の王様になって、早くも一年が経つ……。
勇者制度に対するダメ出しからはじまり、ダンジョンの封鎖、盗賊ギルドの検挙、冒険者組合の実質的な解体、ダンジョン管理局の立ち上げ、そして公開裁判の場で大司教ならびに教会幹部を排除した。
また、商工連盟とはダンジョン産アイテムの直取引を、神殿とは職業訓練と資格取得での業務委託を。
本当にいろいろなことに手をつけた。
あと、お手つきも……。いやいや、第三王妃だからお手つきは違うか。
お世継ぎも大事な内政問題。オッサンの気恥ずかしさなんかで茶化していい話ではない。反省。
進展したこともあれば、未だに未解決だったり手付かずなことだってたくさんある。
されどまだ王様二年生。未だ日々学ぶことも多く、なかなか心休まる時間もなくて……。
つまり! 今のオレには軽いリフレッシュが必要なのだ。
よってこれは逃げではない。視察である。
などと、馬車に揺られながら言い訳を並べつづけて到着したのは海岸の塔ダンジョン。前に、魔女ネヴィアが盛大にやらかしてくれた場所だ。
ここの魔獣は生き物の形をしていないので、オレにとって精神的な負担が少なく、かつ闇魔法が他よりも有効なので経験値を稼ぎやすい。
馬車を降りるとすぐに出迎えが。
「陛下、お待ちしておりました」
「出迎え感謝する、ペデモント将軍」
「……未だ慣れませんな」
ポリポリ頬を掻くペデモントだが、彼は王国軍の拡大に伴い兵士長から将軍に昇格した。
ちなみに、他のリットラル、ルアーナス両兵士長も『総監』という方面軍司令官みたいな役職に出世。
その下には新たな兵士長が隊長と改名され、役に就いた。
これまでのように兵科の区別をしない混成集団ではなく、属性ごとの魔法兵や盾兵のように役割別の部隊とした。だから長を『隊長』としたのだ。
そのうち、あらゆる事態を想定したエリート集団の即応部隊も作ろうかとも考えている。
「いまのところ、海岸の塔ダンジョンが一番攻略が進んでいると聞いたが」
「現在、王国軍は第四層を攻略中です」
「けっして他と競わせたいわけではないので、浅い層での兵の育成や、第一層での市民のダンジョン体験も蔑ろにしないように」
こんなことペデモント将軍には言うまでもないこと。
だというのに彼は「ハッ!」と、どの兵士よりキビキビ応える。
「では案内を頼む」
◇
第四層の階層主は鋼鉄巨兵。巨大ブリキロボみたいな魔獣だ。
闇属性魔法での弱体化は有効だが、兵士たちだけで倒せるようになってもらわなくてはならない。
「しばらくオレは手を出さないので、諸君らで挑戦してくれ。もちろんムチャはするなよ」
「「「ハッ!」」」
この一年で、ピカピカ未使用みたいだった兵士たちの鎧も武器もボロボロだ。
これはメンテを怠ってではなく、使い込まれた感があっての印象だから強そうには見える。
だが、兵士と違って装備はレベルアップをしないからな……。
こんな危惧は、戦闘にも目に見える形で現れた。
兵士らが階層主の間に踏み込むと、土煙と共に現れる鋼鉄巨兵。
まずは王国軍お得意の先制攻撃で火と熱の魔法を集中砲火。
対象の中身が空洞だからか、二属性魔法の発動も相まって、炎が鎧を着ているような轟々の劫火に包まれる。
ここで兵たちは熱せられたところへ冷やすのではなく、いったん接近戦を仕掛けるのだ。
「脚部を打て!」
「「「応ッ‼︎」」」
鋼鉄巨兵の振り下ろしパンチを掻い潜り、兵士たちは脛や膝をメイスで打ちつけて反対側へ駆け抜けていく。
流曲線だった下腿は、みるみるうちにベッコベコの板金屋さん泣かせ状態。
あれでは自らの重さの負荷が偏り、立っているだけで脚にダメージが積み重なっていく。モノコック構造の敵に適した攻めだ。
そして盾に特化した兵士たちがフォローに入り、再び魔法攻撃の体制に戻る——のだが、
「隊長! 武器が破損しました!」
メイスだけでなく、盾兵の盾も壊れていた。
応急処置や予備に持ち替えて対応しているようだが、それでも心許ない。
やはり新装備の導入を急ぐべきか。
分かってはいたので、すでに商工連盟の総裁と話を進めていて、いまはオレの預けたアイディアを見た職人からの回答待ち。
現場の様子からして、多少要求スペックを下げてでも早めに取り掛かってもらった方がよさそうだ。
見るべきものは見たので、ここからはオレも、そばにいたペデモント将軍も経験値稼ぎに参戦した。
熱したところへの闇属性『虚無魔法』は相性が良く、鋼鉄巨兵は関節部を変形させられて動けなくなる。
あとは恒例のタコ殴り。さして時間はかからず倒せた。
サラサラと消えていったあとに、なにやらゴロッとした大きなインゴットが残っている。
「ドロップアイテム……。あれは銀か?」
「いえ、ハズレ銀です」
言われてみると輝きに品がないな。
そういえば、前に冒険者も似たようなことを言っていた。
「武器にするには脆く、炉に入れてもなかなか溶けないそうで、使い道はほとんどありません。しいて挙げますと、叩いて皿などの簡単な食器にできるとのことです。それも物に労力が見合わないので」
「ハズレ銀と」
ペデモント将軍の説明を聞いて、オレはある物を思い出した。その呼称と、実物を見て、より予想が補強された。
これはニクロムに似た金属ではないだろうか。
ニッケルとクロムを八対二で混ぜた合金。きっと令和の子たちは知らないだろう懐かしの電熱トースターやヒーターやらの、赤くなる部分。
少々飛躍した想像なのは認めよう。でも、ここがダンジョンからの報酬だという前提に立てば、有用なアイテムが手に入って然るべき。
仮にこれがニクロムに似た性質の金属ならば、かなり面白いことになる。
しかも『ハズレ銀』という認識だ。かなり安値で取り引きされているに違いない。くふふっ。
「……陛下⁇」
「なんでもない。心配をかけたな」
おおっといかんいかん。ニヤけてる場合じゃなかった。
まずはハズレ銀が合金元素として使えるのかを確かめなくては。それも秘密裏に。
このあともオレは、王国兵たちと共に滞在できる時間ギリギリまで経験値を稼いだ。
ドロップアイテムにハズレ銀という推定大当たりが出ることを祈りつつ。
そして、日暮れ前に城へと戻った。
さすがに大臣とキャンプした以前のように何日も城を空けていられないので、日帰りだ。
城門をくぐると、さっそくへベス大臣のお出迎え。
「おお大臣、実は面白い発見があってな——」
「その話はのちほど。いまは大至急お召し替えを」
「……? ずいぶんと待ち侘びた様子だが」
「ええ。非公式の来客がありまして」
急かされるまま着替えて、応接間へ向かった。
そこにいたのは招かざる客……。
「陛下。こ、こちらはゲヌ・フマノイデス首長国連邦の盟主に在らせられます」
とんでもない珍客だ。
どうりでへべス大臣が血相かえるわけだ。ここまで誰かをハッキリと言わなかった理由にも納得いった。おいそれと呼称を口に出せるものではない相手なのだから。
お忍びでレガリスレクス王国を訪れたゲストは、まさかの——魔王かよ。




