ベタなエピローグだよ
棒で皮袋をペシペシと叩いている甘ギャルふう第三王妃の姿は、見ていて微笑ましくもあった。
だが、拗れた距離感を踏まえたオレの脳内では——
プエルラーレが現れた。
プエルラーレはとても機嫌が悪い。
王様は混乱した。
このような脳内メッセージが浮かびあがる。
よくよく考えたら、彼女とは肉体のうえでは夫婦という関係。略して肉体関係。ああ、途端にいかがわしくなってしまった。意味も真逆だし。
ダメだ、今はまともに向き合えそうにない。
となれば、ここは戦略的撤退。回れ右だ——
「ふーん。そうやって逃げるんだー」
王様は逃げ出した。
しかし回り込まれた。
拗ねたプエルラーレからは逃げられない。
王様はダルマさんが転んだ状態で硬直した。
ええい‼︎ 現実逃避したいからって脳内ゲームごっこに逃げるんじゃない、オレ、踏みとどまれ!
でも慎重に、地雷だけは踏まないように、それとなくを心がけて……。
「実はプエルラーレに似合いそうな——」
「あんな豪華なネックレス、あたしには似合わないもんねー」
いきなりドカンかよ。
「ち、違うぞ」
「んん〜? なにが違うのぉ」
やばい自ら袋小路に飛び込んでしまった。
「あたし三番目だしー、エリテマソーラお姉さまみたいに色っぽくないしー、どっかに伝手があるわけでもないしー」
「そ、そういうことではないぞ」
「どういうことではないの〜?」
参った。序列など気にしたことないけど、簡単に否定はできない。お世継ぎ問題とかそういうゴタゴタの種になるからだ。
オレに関して言えば、それ以前。未だにその手の接触すらなしなんだけどさ。
「プエルラーレは頑張ってくれてるじゃないか。オレは日々、ものすごく感謝しているんだぞ」
「ふーん」
さまざまな意図の込められた『ふーん』だ。
クッ、オレではすべてを解読できそうにない。
と、そこへ——
「おや、プエルラーレもいっしょだったのか」
へべス大臣の登場。なにやら小包みを持っているようだが。
問題はそっちじゃない。あまり気にしないようにしていたけど、仮にも義父。不仲をみせるのは非常によろしくない。
「ふーんだ。ヘーカはパパと仲良くしてればー。いいもーん、もうそういう目で見られてても、違うよって言ってあげないんだから」
だ、誰がだ! 誰が未だにそんな誤解を引きずっている!
へべス大臣が痩せて若干イケオジになったからか? それが疑惑の火種を燃え上がらせたのか⁉︎
どうでもいいけど大臣もなんか言えよ。拗ねてるプエルラーレも可愛いなぁ、じゃないっつうの。
オマエは蚊帳の外だからニコニコ見ていられるかもしれないがな、こっちはどうしていいものやらなんだぞ。
「そうそう陛下、こちらを。商工連盟の総裁からの届け物です」
それを早く言えよ! などとツッコミしてる場合じゃない。
よしよし、ようやく出来あがったか。
こんな物で窮地を脱することができるかは不明だが、食うがいいプエルラーレ——オレの誠意を。
「ん? あたしに?」
「ああ。これはダンジョンで手に入れた物ではないけど、プエルラーレに持っていてほしいんだ」
大臣から受け取った小包みを開け、緩衝材のなかから取り出した銀細工を手渡した。
「棒のペンダントヘッド⁇ 変わった意匠だけど……」
「真ん中に穴が空いてるだろ、そこから思いっきり息を吹き込んでみてくれ」
コクッと頷くと、プエルラーレはカプリと端を咥え——
ピィイイイイイイイイイイーッ‼︎
「んな! なにこれ〜⁉︎」
「ホイッスルだ。危ないときは、それを吹き鳴らすように」
「……そ、そしたらヘーカが助けにきてくれるぅ、みたいなぁ?」
「誰かが来る」
プエルラーレのモジモジがピタリと止まった。いかん、正直に答えすぎたか。
「も、もちろんオレも聞こえるところにいれたら駆けつける。だからイタズラで鳴らすんじゃないぞ」
「てひひ。は〜い」
ホッ……。なんとか機嫌が治ったようだ。
普段から身につけていられるよう、かなりデザインは凝ってもらったからな。気に入ってもらえてなによりなにより。
おかげでオレの歳費はスッカラカラカン。落ち着いたら、ダンジョンで小遣い稼ぎをしてこないとだ。
まぁ、喜んでくれたならそれでよし。これにてミッションコンプリート!
◇
——その晩のことだ。
オレが寝息を立てはじめる間際、控えめに部屋のドアが開いた。両開きの片側だけ。
つづく、ふぁさり、柔らかい衣擦れの音。
「ねぇ、ヘーカ起きてる〜?」
「……寝てる」
「起きてるじゃーん」
こんな夜更けになんのようだ、と身体を起こすと、そこには——生まれたままのシルエットがはっきりわかるプエルラーレがいた。
「あ、あられもない‼︎ 年頃の娘がなんて格好を! よりにもよって単身男性の部屋に押しかけるなんて、どど、どういうつもりだっ」
「いや、あたしヘーカの妻だし」
そういやそうだった。
「でも、てへっ。照れちゃってるヘーカもなんかいいかも〜」
「お、おい待て。オレらにそういうのはまだ早いと思うぞ。なっ」
ベッドに手をつき、にじりよるプエルラーレ。揶揄ってるわけではないらしい。
だ、誰かオレにホイッスルをくれ! ピーッてされる前にピーッて吹くから!
「オ、オッサンをおちょくるのもいい加減に……って聞けよオイ! 待て待て、待てだプエルラーレ。頼むから待てってばぁぁぁ〜ッ!」
あー、あー、あー……。
——セルフレイティング——
——セルフレイティング——
——セルフレイティング——
そして一夜が明け——ちゅんちゅん朝ちゅん。
「おはよ、ヘーカっ」
「あ、ああ」
「んじゃ、あたし行くね〜。またあとで、てっ、あいたたッ。てへへ〜っ」
ふぅ……。
太陽ってオレンジ色してたのか。
「魔法、使えなくなってないよな?」
などと古のネットミームを持ち出して現実逃避。違うか、オレは余韻に浸っているんだな。
まだ心地よい重怠さは残るが、切り替えて、身なりを整え部屋を出る。と——
タイミング的に一番会いたくない人物がいた。
「だ——、大臣!」
「……。昨晩はお楽しみでしたね」
さんざんRPG的なお約束にダメ出ししてきたオレだが、これにはなにも言い返せなかった。
第一章はここまでとなります。お読みいただきまして、ありがとうございます。
本作、多くの方に読んでいただいておいて、いまさらなのですが、
『無双もしなければ失敗もする。こんなWEB小説らしからぬ現実路線なオッサンが主人公で、読んでくれる方はいるのだろうか?』
と、不安を覚えながら書きすすめました。
なので第一章完結まで読んでいただけたことを、心より嬉しく思っております。
さて、第二章ですが、
王国内の話から国外へと広がっていきます。
9/15現在、ストックは5話のみ。ただいま執筆中です。
少しでも「つづきが気になる」「おもしろい」など興味をもっていただけたのなら、ぜひとも【ブクマ】【★★★★★】【レビュー】で応援してくださいませ。
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枝垂みかん




