デカさでくるのかよ
援軍到着により一回ぶんのローテーションが増えた。それだけで、かなり楽になった。
加えて兵士たちのレベルアップ。
「「「放てーッ‼︎」」」
「「「火球魔法」」」
射速が増して火の玉が楕円体になっている。
さらに、ときおり発生する火と火の二属性魔法がとんでもない。
「——火球連射魔法だと⁉︎」
「知っているのか局長!」
「はい。別称『実りなき努力』とも呼ばれています。多くの者にとって火の下級魔法は初歩であり通過点、それ以上を会得できなければ魔法を頼らなくなります。もしくは魔道士のような趣味人か……」
「要するに、最下級止まりの不得意者が、使いつづけることによって会得できる魔法ってことだな」
「ですが、ご覧のとおり火球の数が増えるのみ。二属というだけの上級魔法ですので」
つまりは下手の横好きみたいな話か。それ、別称ではなく蔑称だぞ。
だが見ろどうだ、他の属性との組み合わせより、火と火の組み合わせの発動率の高さたるや。
「「「放て放て放てぇえええーッ」」」
「「「火球魔法」」」
以前はポンポンと飛んでいっていた火の玉が、いまではズダダダダッとマシンガンみたいな火線を描いている。
それ即ち——
「「「着火魔法」」」
熱属性魔法とのタイミングも合いやすくなるということ。
巻き起こる火炎は石像銅像の巨体を包み、渦を巻く。
「わっはっは! これぞまさしく火力。数の暴力だ」
「……へ、陛下?」
「すまん。ちょっと火を見てテンションが上がってしまった」
我ながら放火魔みたいな言い草だったが、王国兵の初期を知っているだけに感慨深くて、ついな。
加熱が済めば、次は、
「「「水と冷、魔法よーい。放てーいッ‼︎」」」
「「「水弾魔法」」」
「「「氷結魔法」」」
カンカン真っ赤に熱された石像銅像の魔獣に、冷や水をぶっかける。
すると、ジュッワワワッと大量の蒸気があがり、ピキピキパキパキと表面が剥がれ————破裂。
こっちまで破片が飛んでくるほど、激しくバラッバラに。
あっちにその気はなくても同士討ちになっていて、なかには大型の魔獣の残骸に押し潰れている小型魔獣もいた。
そして魔法を使った兵士らが息継ぎするあいだ、未修得の兵士たちが弱った魔獣に殺到。
手にしたメイスでガンガン脆くなった敵を砕いていくのだ。
◇
順調だ。もうそろそろ魔獣の群れが押し寄せるのも二十回近い。
海岸の塔ダンジョンの傍に寄せられた元勇者パーティーの亡き骸が、数え石となっていた……。
だが、このままで済むのだろうか?
聖女ネヴィアの飄々と悪びれない様子を思い出すと、不安になってくる。
「具申します。魔獣の群れが打ち止めとなりましたら、一両日様子を見たのち、聖女ネヴィア捕獲にダンジョンへ侵入を試みてはどうかと」
「私も同意見です」
リットラル、ルアーナス両兵士長の意見はこうだ。
対してペデモント兵士長は、オレと同じく慎重になっているらしい。口にはしないが顔色から察して。
「ここは相手の立場に立って……、いや、オレたちにとっての最悪の事態を挙げてみよう」
どう嵌めるかを考えたら、自分にとって都合のいい想像をしがち。
そこで逆に、これはされたくないな、という展開を想定してみればいいのだ。
嫌な想像はオレの得意とするところ。というか、現実はだいたいそれを超えてくる。
「包囲を突破されることでしょうか」
「リットラル兵士長に同意します」
この二人仲いいな。
「自分なら、陛下を狙うでしょう」
「——ッ。ペデモント兵士長、なんてことを!」
「そうですよ。我ら王国兵がそばにいるのですから」
「……自分は、陛下の近くにいたのに未然に防げませんでした」
「「…………」」
こないだの盗賊ギルド検挙のときの話か。
「こちらを掻き乱すという点では、オレを狙うのは有効だな。失敗に終わったとしても守りにかなりのリソースを割くハメになり、かつ動揺も誘える」
でもその程度か?
オレが長考にどっぷり浸かりかけた、そのとき——入り口から先へ斥候に入っていた兵士が駆け戻ってきた。
「元勇者パーティーらしき者が単独で、来ます!」
単独だと⁉︎ 魔獣に追われてではなく⁇
撃退の構えをとり、包囲は崩さず様子を見る。
待つことしばし……。
息を乱した戦士ふうの男がダンジョンから飛び出してきた。
そいつはオレらを見るなり足を止め、ヒラヒラ両手を挙げた。
公開裁判のとき真っ先に乱暴を働いていたヤツだ。
まだ油断はできない。相手は元勇者パーティー、下手に近寄れば簡単に返り討ちに遭うかもしれないのだ。
ここはいったん闇魔法で無効化するか。
だが、オレの決断を先回りするように男は話しかけてきた。
「また会ったなぁ、王様」
「オマエで最後か?」
「ああ、俺が継走の締めだ。いやぁ草臥れたぜ」
てっきりMPKマラソンだと思っていたが、いったいなんのリレーだ?
アンカーであるコイツが運んできたバトンとは?
「よく見ろ、どれだけの魔獣を誘き寄せても対処できる陣容だとは思わないか」
「ククッ。これっぽっちも思わねぇな。まぁいいや、そのあたりはあとでのお楽しみってことで」
勝手に納得して薄ら笑いを浮かべた。
「しっかしいいのか王様ぁ。普通ここは『聖女はどこだ!』とか『聖女の目的はなんだ!』とか聞く場面だろうが、ァア?」
「では聞かせてもらおう。オマエらはどんな口車に乗せられてこんなことをした? どれだけ聖女ネヴィアに傾倒していても自殺行為なことくらいわかるはずだ」
ポカンとされた。だがすぐに「プッ」吹き出した。
「ア〜ア、ホンットムカつく野郎だ。この期に及んで他人の心配とはな。余裕こきやがって、反吐が出るぜ。俺が会った王様のなかでも極めつけに善人ぶってて、気に食わねぇや!」
「答えになっていないぞ」
「ハハッ。じゃあ答えてやるよ。なかにはションベンくせぇ小娘に血迷ってテメェを差し出すバカもいた。王様んところの役人がそうだ。だが俺らは違う」
テメェを差し出す? 妙な言い回しだな。
内容もさることながら、コイツの勿体つける口ぶりは、時間稼ぎのためかそういう性格なのか? まるで判別つかない。
「俺らはムチャする対価に、ネヴィアと『次の』をもらう契約をしたんだ」
「……次の⁉︎」
返答はなく、代わりにニヤリと口の端を釣り上げられた。
それが雄弁に語っているようにも見えた。オレには身に覚えがある。だから余計にそう映ったのかもしれない。
次の、のあとに省かれたセリフが『身体』と連想してしまった。
かなり衝撃的な話だが、いますぐ確かめようがない。
掘り下げて動揺させられるくらいなら、もっと別に聞いておくべきことがある。
「オマエは継走と言っていたが」
「それな。知ってるか王様、ダンジョンの魔獣が外に出てこない仕組みを」
「実際に魔獣の被害は出ていたぞ」
「ハンッ。そんなの第一層の雑魚だけだろ。ありゃあ弱っちいのが逃げてるんだよ。俺が言ってるのは、もっと上の層の話だ」
階層主が阻止していると聞いたが、違うのか?
「魔獣はな、増えすぎてお互いに邪魔になると同士討ちして数を減らすんだ。それを毎日毎日やってる」
「なぜそんなことを……」
「んなこと知るかよ。知りたきゃあテメェで聞いてきな。魔獣が喋るかは知らんけど、ハハッ」
二つの意味での問いの片方はあっさり流されてしまう。だが勘のいいやつらしく、つづきがあった。
「で、どうして話してやったかについては、ここ数日の苦労を知ってもらいたくて、かな」
まったくもって話が見えない。
他にも聞きたいことはあるが、悠長に話してなどいないで、魔獣が押し寄せる前に拘束してしまうべきだ。
「おおっと、気が早いのは感心できねぇぞ。聞けよ、最重要情報だ。まさか俺らの狙いが、魔獣を大勢引っ張ること、だとは思ってねぇよなぁ」
数ではないとすると、まさか⁉︎
「あの入り口をくぐれるか心配だが、まぁブッ壊すんだろうから関係ねぇか。ククッ、そうだよ。ここまで最上層の魔獣を引っ張ってきてやったんだ。そういやネヴィアは『強大な魔獣によって王国軍はなすすべなく壊滅。そして多くの村々も王都もめちゃくちゃに。その危機に、勇者と冒険者たちが立ち上がり、魔獣の魔の手から民を救う。これは叙事詩の再現ですわ』なぁんて夢見心地に語ってたぜ」
それほどの魔獣なのか……。
だからこれまでと登場までのパターンが違う?
「ダンジョンをブチ破りながら進んでくるからな。だが、もうじきだぜ。つうか、そっちにいるのは冒険者と盗賊だろ。なんで王様の手下なんかやってるんだよ。お前らの自由を奪った元凶はこいつなんだぞ」
一瞬、援軍のあいだに緊張感が走るも、
「冒険者はダンジョン管理局の許可のもと活動をつづけられる! 盗賊は王国兵に再就職したばかりだ! 戯言はやめてもらうか!」
局長の一喝で鎮まった。
助かった。オレが言うより効果的だ。
「そうかよ。クソッタレめ」
男の捨て台詞じみた言葉につづいて、ダンジョンから巨大な竜の頭が覗く。
「——ド、ドラゴン⁉︎」
それが一つ、二つ、三つとなった時点で——入り口が爆ぜ飛んだ。
のっそりと姿を現したのは、竜の首を九つもつ粘土像の魔獣……。ガラガラと、ダンジョンの外壁を直っていくそばから破壊しつつ。
「カッハハハハ! おいお前ら見ろよ! 最上層の魔獣、上位九頭竜粘土像だぜ。お前らみたいなクソ雑魚じゃあ一生お目にかかれない大も————ぬぺ」
男はプチッと潰され、セリフは途切れた。
数に数で対抗してきたのかと思いきや、クッソ、デカさでくるのかよ。




