これが冒険者の実力かよ
最上階の魔獣だけあって、そのスケールにはオシッコちびりそうになるが、デカいぶんだけ魔力なしでは自らの重さに耐えられまい!
「虚無魔法」
勝ちを確信して放った黒い球体は、上位ヒドラ粘土像へ届く前に——蒸発した。
焦って失敗したのか⁉︎
気を取り直して再び闇魔法を放つも、結果は変わらず。
「陛下! お下がりを!」
「どこへ下がれというんだ!」
——ええい。パニくるな、オレ!
「すまん。包囲を広げて、ここに足止めすることを考えよう」
「「「ハッ!」」」
直ちに、王国軍と援軍は魔獣のサイズに合わせた間合いで陣容を組み直した。
それからペデモント兵士長が指揮をとる。
「前足、こちらから見て右を狙え! 火と熱、魔法よーい。放てぇえええーッ‼︎」
上手い! 九つの頭があるぶん前脚へかかる負荷は大きいはず。足止めという初期目的を正確に遂行する一手だ。
ローテーションなしの総動員で、火球魔法と着火魔法がこれでもかとブチ込まれる。
こうなると当然、二足属性魔法の発動率も増す。
ガガガッと上位ヒドラ粘土像の左脚には、火線が集中して、着弾とともに激しい火炎に包まれた。
が——
「食う、だと⁉︎」
焼けたのは表面だけ。パラパラと崩れた表面を竜頭が端から食っていく。みるみる元どおりに再生してしまった。
「粘土、だったら! 水属性魔法用意ッ‼︎ 放て放てッ!」
つづいてリットラル兵士長が水弾魔法を指示。
たしかに濡れたら粘土は緩くなる……。だが、当てども当てどもまるで湿った様子がない。
——マズイ! 頭の一つが鎌首をもたげたぞ。
「総員回避、回避ぃいいいーッ‼︎」
なにをと告げる間もなく、カッと開かれた口から水鉄砲のお返しが!
水圧が地面を深く抉った。
湿った土砂がボタボタ落ちる。
どうやら直撃は避けられたようだ。
しかし無傷ではなかった。飛沫を浴びた兵士の皮鎧がズタズタにされている。
さっき食った自分の破片を混ぜてきたのか。まるでウォーターカッターじゃないか。
デカいのに知恵も働くなんて、反則だろ。
「負傷者を後方へ。手の空いた者は時間を稼げ!」
ルアーナス兵士長がメイスを握り、前へ。いや、
「左右、後方、とにかく死角を探せ!」
側方や後方へ回り込み、気を散らせようとした。
しかし、相手は同時に九方向を視界に収められる。視力なのかピット器官なのかは不明だけど、かなり高い精度で敵を認識できるに違いない。
やはり結果は、頭突きに吹き飛ばされる兵が続出。
それでも、無数のメイスをめり込ませることには成功した。大したダメージしか見込めないが、僅でも削ったは削った。
兵士らが再び距離を取ろうとした矢先、めり込んだメイスはズプズプと粘土に埋まっていく。
「ぬ、抜けない!」
「ひえッ‼︎」
「——すぐ離せ! 取り込まれるぞ!」
オレは悪い予想をそのまま叫んだ。
おかげで身体ごといかれた者はおらず。しかし殴りつけたメイスは奪われ、腕を負傷する者が多数出てしまった。
「総員、くるぞ!」
「「「……⁇」」」
「メイスだメイス‼︎ どの首からかはわからんが、絶対くる!」
完全な勘だけど、さっきの水弾へのカウンターから、やりかねないと予想した。
えてして嫌な予想ほど当たるもの——ほらきた!
「「「退避ーッ‼︎」」」
ドドドッと足元から鈍い音が響き、地面にはメイスの剣山ができあがる。
でも、そこへ縫い付けられる兵士が出なかったのには、ホッとした。
どうしたものか……。どんな攻撃も倍になって返ってくる。
対策を考えれば考えるほど、オレはネガティブな思考に囚われていく。
そんな弱気を隠そうと必死になっていると、
「冒険者! 腕の見せどころだぞ!」
局長が鼓舞した。
「先輩方に、俺らの有能さを見せつける機会だ!」
「「「応ッ!」」」
元盗賊たちも呼応した。
局長の指示のもと、それぞれがそれぞれの役目を果たす。
大盾を持つ者は後送中の負傷者を守り、身軽な者は敵のヘイトを稼ぎ注意を引く。
また火力に富んだ者は、渾身の一撃を入れて、強力な魔法を命中させていく。
それらはすべて一つの目的に向かって。どんどん上位ヒドラ粘土像との間合いは縮まる。
見ていてヒヤリとする場面も増え、ときおり負傷者も出しながら。
「左右、入れ替え! デカい図体を駆け上がれ!」
局長がなにを狙っていたのか理解できたのは——
ドスンッッッ!
絡まった九つの首が地面を打ったときだった。それぞれの制御が独立しているのが仇となったようだ。
「どうだい見たか王国兵!」
「これが冒険者の実力よ!」
「一番近くで身体張ったのは、俺ら盗賊だろが!」
「俺らはもう盗賊じゃねぇ!」
こんなことをやってのける連中だったのか……。
正直、驚いた。
王国兵からも歓声が沸く。
これが冒険者の実力かよ。スゴイものだな。
とても練度なんて言葉で言い表せるレベルではない。もちろんレベルの高さでもない。
それぞれが、その場その場で自分が生き残ることに必死になった結果なのだろう。
「——陛下! まだです!」
ペデモント兵士長の鋭い叫びに、勝利を目前にした空気は霧散した。
見れば、また食ってる。解くのではなく、こんどは自分の首を九つすべて別々に、首を食って食われて喰らい合っている……。
そしてはじめに地面に落ちた首は他の八本に貪られ、その繰り返しで、元どおりになってしまったんだ。あっという間のできごとだった。
あれだけの犠牲を払い、懸命に冒険者や新兵たちが作った勝機だったのに。いや、勝ち筋ですらなかったのかもしれない。
「消耗させてはいます!」
「そうです! ペデモント兵士長の言うとおりです!」
「いつまで上位九頭竜粘土像の魔力つづくかはわかりませんけど」
「こらルアーナス兵士長! 弱気なことを言うな!」
兵が諦めてないのに王様が先に諦めてどうすると言うのだ。まったく、オレはダメな王様だな。
とはいえ、ここまでの戦法を見て、とても効果的だったとは思えない。
なにか持続的かつこちらの負担少なくダメージを与えられる手はないものか……。
「よし、ここは基本にかえろう」
魔法は組み合わせかた次第。
「いったんオレが指揮を預かる。兵士長たちは伝達と助言を頼む!」
「「「ハッ!」」」
「水弾をブチ込め!」
「「「総員、水属性魔法よーい。放てーいッ‼︎」」」
さっき手痛いしっぺ返しを食らったばかりなのに、疑いもせず従ってくれるのはありがたい。
どこを狙っても当たるとばかりに、王国兵が、いいや冒険者集団からも水弾の魔法が放たれた。
第一の目的は、水と水の二属性『治癒再生』の発動で、少しでも負傷者の回復をはかる。まずは戦力の立て直しだ。
そして第二の目的——
「吐き出す前に、たっぷり吸った水を吐く前に凍らせてやれ!」
「「「冷属性魔法よーい。放てぇえええーッ‼︎」」」
「狙いは口、もしくは首の付け根!」
「「「目標、口、または首の付け根ッ‼︎」」」
氷結魔法となると王国兵の会得者はガクンと減る。しかし、それを冒険者たちがフォローした。
「喉を詰まらせてやるんだ!」
「「「〝氷結魔法〟」」」
冷気によって凍らす。それも狙っているが、期待しているのは——
「「「こないだのやつか!」」」
「「「氷河洞魔法だと⁉︎」」」
元盗賊が慄き、局長が叫ぶ!
そう。冷と冷の二属性魔法。
これで水分は喉に張り付く。いずれは詰まる。
「水と冷の攻撃はそのまま! 手が空いてる者は左脚の付け根に集中放火!」
「「「水と冷属性魔法、攻撃続行! こちらを優先! その他の火と熱の魔法習得者は標的の脚、付け根、向かって右、向かって右に、魔法放てーいッ‼︎」」」
なぞなぞ『下は大火事、上は氷水』これなぁんだ? 答えは上位ヒドラ粘土像の惨状……なんてな。
よしよし、だんだんとオレにも余裕が戻ってきたぞ。
暴れる首を練達した冒険者が抑え、突進も盗賊たちのヘイトコントロールにより方向を逸らし、包囲の輪から抜け出せないようにしている。
あとは、ある程度の勢いがついたら、それを持続できるようにローテーションへ移行すれば……勝てる!




