オマエら育ち盛りかよ
頭がクラクラする。
どうやらファンタジー世界であっても二十四時間戦うのはムチャらしい。
魔獣の群れが途切れると、途端に意識までプツリといきそうだ。
「申し上げます! 冒険者ならびに新規志願兵の集団が間もなく到着! 繰り返します!」
ホッ……。やっとか。
「兵士長!」
「「「ハッ」」」
「兵らに『まだ休むのを待ってくれ』と伝えてくれ」
揃って首を傾げられた。
疲れで頭がまわならないのか理解が遅くなっている? いや違う、いまのはオレの説明が悪いな。
「つまりだ、援軍が来たからといってすぐには寝つけないだろ。いつ魔獣の群れが押し寄せて包囲を突破されるかわからないんだから」
「なるほど。兵士の意識を『寝てはならない』にすり替えるのですね!」
なんとかペデモント兵士長は意図を汲んでくれた。他の兵士長らも、これを聞いて納得したようだ。
人間、眠らなきゃいけないと思うと疲れていてもなかなか寝つけないもの。だが、やっと寝られると思った矢先に起きていろと言われれば、スッと眠れたりする。
どれだけ効果があるかは不明だが、休息の一助となればと考えたんだ。
「加減は難しいぞ。あまり言いすぎると、注意散漫になってケガに繋がりかねない。援軍への引き継ぎを済ますまで士気を保たせるように」
「「「ハッ!」」」
ここで、援軍より先に新手がきた。
さっそく兵士長らは指示を実践。
「あと少しで休めるぞ!」
「もうひと踏ん張り、援軍はすぐそこだ!」
「総員、いまは堪えるとき! 力の限り——」
「「「魔法、放てぇええええーッ‼︎」」」
「「「応ッ‼︎」」」
若干効きすぎているのか攻撃のペースが早い。
なんとか冒険者と元盗賊たちが着くまでは、耐えてくれよ。
◇
「な、なんだこれ……」
ダンジョン入り口に殺到する魔獣の群れを前に、援軍の誰もが似たような呟きをこぼす。
そのなかに、
「おいおいマジかよ。王様は、こんなのを止めてたのか」
「オレではない。王国兵らだ」
見知った顔があったので話しかけた。
以前、ここで悪態をついた冒険者だ。
この若者がここにいるということは、彼は重犯罪を犯してなかったとなるわけか。よかった……。本当に個人的な感情だが、素直にそう思った。
「ゲッ、王様!」
「ゲッとはご挨拶だな。到着早々悪いが、オレらは疲れている。ずっとこれを抑えてきたからな。さっそく引き継ぎを済ませたい。局長を呼んできてくれ」
「組合長のことか?」
「ああ」
まだダンジョン管理局については、知れ渡ってないようだ。
普段から少人数で行動することが多い冒険者らの取りまとめは、かなりの苦労らしく、局長が顔を見せるまでに少し待たされた。
「遅くなりまして、申し訳ありません」
「それはいい。仕事の内容は理解しているな?」
「魔獣の討伐と認識しております」
それができるならやってもらいたいところなんだが。少々見積もりが甘い。
「数を見て考えてくれ。すぐにバテてしまっては、魔獣の群れに飲み込まれるぞ。あの規模が一度ではなく繰り返しだ。しかも同時に来ることもあった」
「……それは難儀ですね」
「足止めを主に考えてほしい。まだしばらくは兵士らを控えさせておくから、そのあいだに上手いこと冒険者たちの手綱を握ってくれ」
「やってみます」
やってみます、か。気負いすぎず、でも現実を直視した回答だ。
「王国兵、聞くのだ! 援軍の冒険者と新規志願兵の支度が整った。号令と共に交代! 号令と共に交代!」
「「「ぉおッ!」」」
「まだ気を抜くな。しばらくは後方で待機。いつでも援護できるように控えるように!」
本当は兵士長の役目なのに、オレが命令してしまった。
口にしたあとに気づくのだから、他人のことは言えない。オレもよほど疲れているらしい。
「よっしゃ出番か」
「たっぷり稼ぐぜ!」
「おうおう、七階層の鳥人神像までお出ましとはな」
「テメェら、王国兵に魔獣のあしらい方の手本ってやつを見せてやるぞ」
「「「応ッ‼︎」」」
冒険者らの士気は高い。
「真正面からやり合うなんて盗賊の流儀じゃないんだが」
「おいおい、俺らはもう盗賊じゃないだろ」
「なんにせよ、命あっての物種だ」
「だな。野郎ども、臆病に立ち回るぞ」
「「「応ッ‼︎」」」」
元盗賊——新規志願兵の士気も、悪くはない。
かなり慎重な様子で、この一点に限れば、オレの考え方と近いのかもしれない。
いつでもどうぞとダンジョン管理局局長の合図を受け、
「〝虚無魔法〟」
オレは合図の闇魔法を放った。
すると石像や銅像の動きが止まる。なかには自らの重さで崩れる魔獣もいた。
「噂には聞いてたが、クッ」
「怠ぃなぁ、こんちきしょうめッ」
「だがこりゃあ——」
「「「稼ぎ放題だぁああああーッ!」」」
気合いを入れた冒険者集団は、闇魔法により力を失った魔獣へ殺到。
その隙に、兵士長らは自軍を下げた。
「そろそろ陛下の闇魔法が尽きるぞ! 盾役、並んで前へ! 前衛、攻撃を絶え間なく! 後衛と遊撃は、同士討ちに注意しつつ包囲を抜けさせるな!」
局長の指示で冒険者たちは上手く立ち回ってみせた。さすがだ。
「クッソ。俺らが盾役かよ!」
「もう盗賊じゃねぇんだ。ボヤくんじゃねぇ!」
新規志願兵はもれなく盾役を担っていた。
「兵士長! いまのうちに兵士たちを休ませよう」
「「「ハッ」」」
オレもそろそろ休まないと……キツイ。
「「「陛下⁉︎」」」
「悪いけど先に休ませてもらうぞ。兵士長たちはすまないが」
「わかっております。我らは交代で、どのような事態にも対応できるように致しますので。陛下は早くお休みを」
「ありがとう……」
このあとどうやって天幕まで行ったのかは覚えてない。
そんなことは、悪夢のようなレベルアップ痛が忘れさせてしまったんだ。
………………。
…………。
……。
——カッと目覚めた。
かなりキツかったが、やたら漲るぞ。
いまのオレなら中国拳法の達人にも勝てる!
こんなセリフ言いたくなるほどの、パワーアップを果たした。
むくりと上体を起こしてLシット、からのプレス倒立。さらにハンドスプリングでバク宙で、直立。
「やはりレベルアップは凄まじいな」
寝起き早々に超高強度運動で立ち上がり、さっそく兵士たちの様子を確認しに行った。
オレ自身のレベルアップも嬉しいが、兵士諸君の成長も王様の楽しみなのだ。
すると、
「「「…………ハァ」」」
どうやら最悪の目覚めだったらしい。たぶん一気にレベルアップしたんだな。
きっといまのオレはニヤニヤしてる。
くふふっ。いっときでも苦しみを共有できるというのはいいものだ。それが成長に繋がるならなおのこと。
「なんだぁ。オマエら育ち盛りかよ。しかし、それだけレベルが上がったということ。喜びたまえ」
「「「……はい」」」
「それでは王国兵諸君、冒険者や新兵たちが草臥れる前に、交代してやれ」
「「「ハッ!」」」
援軍の到着により、休息とレベルアップを挟めるようになった。
魔獣の押し寄せがつづけばつづくほど、討伐効率は上がっていく好循環のはじまり。ともなれば、ここから先はボーナスステージみたいなものだ。




