時間稼ぎにしかならないのかよ
「ハァハァ……、ようやく打ち止めか」
「「「ハァ〜……」」」
なんとか魔獣の群れを食い止めた。
だが、たぶんまだまだくる。
「陛下、群れには二階層の悪魔像までおりました。その他見慣れぬ魔獣も多く……」
「上層の魔獣は階層主が止めるのではなかったのか?」
だから高層の手に負えない魔獣が地上に溢れることはない。こういう仕組みだと聞いていた。
「いいや、通過のたびに誰かが階層主を抑えればいいのか」
「もしくは数かと」
個々では通過できない階層主でも、数の暴力で押し切った……か。まさか魔獣にオレらと同じことをされてしまうとはな。
しかし、どうして元勇者パーティーの連中は命懸けのマラソンなんかできる?
ダンジョン入り口まで逃げ切れても、そこはゴールではなく詰みなんだぞ。
王国兵が待ち構えているから、魔獣をなすりつけて自分だけは助かるなんてこともできない。
いっしょにすり潰されるか、追ってきた魔獣にやられるかの二択なのに。
まさか! 聖女にはマインドコントロールする魔法があったり……は、ないな。あるならさっきオレに使ってお終いだ。
どんなペテンで『走るニンジン』をさせたのかは、聖女ネヴィアを捕らえたあと聞くしかないか。
あれこれ考察するより、いまは——
「リットラル兵士長、伝令を遣わせてくれ」
いつまでつづくかわからないスタンピードに、思いつく限りの備えをしておかなければ。
城で事態の対応に当たっている大臣へ当てての伝言は、三つ。
まず、海岸の塔ダンジョン周辺住民への避難勧告。
あとの二つは、どちらも増援の依頼。
いまもって宙ぶらりんのままの元盗賊ギルド所属で、王国兵に転職予定の者たちを寄越してもらう。
そして冒険者組合にも……。
「冒険者を。よろしいのですか?」
「賭けだけどな。もし指揮に差し支えるようなら、ここで仕留め切れなかった魔獣を討伐させる。その場合、オレらの助けにはならない。それでも村々への被害は防げるだろ」
かなり痛い出費になりそうだが、背に腹は変えられない。
「具申します。裏切られる可能性を考慮してください。ここには陛下もいらっしゃるのです」
「……完全にゼロとは言えない。でも、殺到する魔獣を見ても同じか?」
いくらなんでも、さすがに保身くらいは考えるだろ。
王様をやっつけた、が、自分たちも魔獣にやられました。こんなの望まないはずだ。
「それでは冒険者は到着次第、ダンジョン入り口の封鎖の任に当たらせ、その後に割り振りと致します」
「共通の脅威を目の前にすれば、手を取り合えるものだと信じたいな」
このあと、兵士長らにはまだまだ持久戦がつづくと伝えて、ローテーションを組むように命じた。
◇
程よい塩梅でこちらを試すような試験ではない。
やっと魔獣の群れを倒し切ったと思ったところで——新手が。
「ムリはするな! 包囲から抜けさせなければ後続はつかえる。徹底して足止めすることだけを考えるんだ‼︎」
「「「応ッ」」」
なるべく叱咤激励の範囲に留めた。
もしオレが命令に聞こえるようなことを言えば、兵士長よりも上位者からの声となり、現場を掻き乱してしまうからだ。
押し寄せる魔獣のなかには、青銅巨人や人面獅子像など、これまで見たこともない強敵が混じりはじめていた。
デカいぶん、入り口を抜けるのは少数ずつなのは救いだが、一度でも突破を許してしまったら抑えようがない。
「せめて睡眠が取れたらいいんだが……」
そうすれば兵士たちはレベルアップする。間違いなく。とんでもない数の魔獣を倒したきたのだから。
しかし、いつ包囲を破られるかわからない状況。いかにローテーションを組んだところでグッスリ眠れるわけもなく……。
ダンジョンの外側からは、入り口の奥にどれだけ魔獣が控えているのか見えない。
そういう意味でも兵士たちは疲労を溜めていく。
休息を入れているとはいえ、もうじき丸一日。限界は近いはず。
絶え間ない緊張のせいか、だんだんと二属性魔法の発動も減ってきていた。
城へ早馬を走らせてだいぶ経つが、取り急ぎの増援を編成して送るまで、最低でもあと一日は必要か。
「リットラル兵士長、ペデモント兵士長、ルイーナス兵士長。闇魔法を使う。そのあいだに少しでも兵を休ませろ!」
「「「ハッ‼︎」」」」
なるべくダンジョンの入り口がギュウ詰め状態になるタイミングを狙い、オレは虚無魔法を使った。
放たれた黒い塊は先頭の青銅巨人にあたり、地面に転がる。
するとドッと襲いくる虚脱感。
「一、二、三、四……」
いつまで保つか、持続時間を知りたい。
この魔法は周囲の魔力を吸い尽くすのだから、集まった魔獣の数やその強大さによってもバラツキが生じる。
それでも瞬く間に蒸発して効果切れなんてことにはならないはず。
なのであまり意味はないと思うが目安にはなる。ただ、ほんの僅かなあいだだけでも『いまは大丈夫』という安心があるだけで、兵士らは息をつけるはず。
「三百、三百一、三百二……兵士長、そろそろだ!」
やはりこれまでより短い。五分強。カップラーメンを作って食べて舌を火傷するくらいの時間稼ぎにしかならないのかよ。
まいったな。試してはいないが、体感で、日に十も二十も放てる魔法ではないのに。
「総員、攻撃再開よーい!」
黒い塊が黒いモヤになり、消えた——
「「「火と熱、魔法、放てッ‼︎」」」
号令と共に、ダンジョン入り口の魔獣たちを炎が包む。
ほんの僅かなリラックスをローテーションに組み込んだことが、二属性魔法の発動率を押し戻したんだ。
盗賊ギルドからの転職組と冒険者たちが到着するまで、およそ一日。その間、兵士らの息はオレが闇属性魔法で繋ぐ。




