言葉を誤るなよ
組合長。オマエにはまだやってもらうことがあるんだから、うっかり強盗と関与があったような発言はしないでくれよ。
「下手な庇いだては互いのためにならないので、熟慮して、真実のみを答えるように」
オッサンの老婆心というのも妙な字面だが、オレは忠告をしておく。このあと下からの告発が待っているぞ、と。
「……ハァ。冒険者組合が護衛の依頼を受けていたことは事実です。また、盗賊ギルドに所属する者が冒険者組合に登録して冒険者をしていたことも」
「それは皆の知るところ。で?」
「申し上げたような背景から、冒険者組合に登録した者のあいだで情報が漏れていた可能性は否定できません」
ここらで止めておくか。
「よく話してくれた。では、冒険者組合に多数の門弟を送り出していた各流派の師範、ならびに盗賊ギルドの強盗に手を染めていない者らの話も聞いてみようか」
証言として語られていくのは、商人の荷まで含めた情報漏洩に止まらず、裏での結託まで。
「つまりは護衛料までとって強盗をしていたと⁉︎」
これに傍聴者は憤りを覚える者もいたが、そこまででもない様子の者が多数派。やはり裕福な商人は妬まれているのだろうか。
「あまりに認識が甘い。おっと、これは冒険者組合や商工連盟に向けたものではないぞ。傍聴席で耳を傾けるキミたちに言ったのだ」
オレは、強盗被害は物価に影響するという側面を伝えた。
備えをした時点で輸送コストは上がり、そのまま物価に反映される。被害があればその額も乗る。
「自分には関係ない品だとしても、値上がりというのは波及するものだ。なぁ総裁」
「はい。陛下の仰るとおりかと」
そう戦々恐々とするな、組合長。
魔獣退治の自作自演については、すでに片の付いた話で、オレは公言しないと約束しただろ。いや、してなかったか?
どちらにせよ、冒険者すべてを公衆の敵にするわけにはいかない。無関係の者もいるし、なにより取り込む王国軍側にもマイナスに働く。
「では、改めて冒険者組合と関与した者それぞれに沙汰を下そう」
自分たちの生活に直結する事案だと知るなり、傍聴者の温度感は急上昇。対して組合長の体温は急低下。
「まず、強盗に関わった盗賊と冒険者は、……全員を極刑とする」
重いな。気を抜くとゲロ吐きそうなほど。
会ったこともない人間の人生の終わりを、オレなんかが決めてしまったんだ。
もしかしたら、ダンジョンで悪態をついてきた若者たちだって含まれているかもしれないのに……。
判決に沸きたつ傍聴席が、ものすごく遠い。別世界の出来事のように見えた。
一瞬、無期懲役などの代案も浮かんだが、すぐに却下した。ムダ飯を食わせておくのも微妙だし、かといって強制労働などもっての外。
これは受刑者への同情ではなく、無賃金の労働者に生産を任せた場合、労働力確保のために目的が逆転しかねないからだ。
平たく言ってしまうと、罪の重さに関わらず強制労働の罰を乱発しかねない。なので却下。
オレはそこまで自分の理性を信用していない。
「併せて、冒険者組合ならびに下部組織にも重大な組織的過失がある。よって、すべて解体——」
「「「——ッ」」」
話が違う! そんな視線を待ち、オレはつづけた。
「国民感情を鑑み解体としたいところだが、無関係な構成員が大多数。しかし、このまま現状維持では悪しき体質の問題は払拭できない。たとえ罰を与えたとしてもな」
話の持っていき先が見えたのか、前のめりになった各流派師範たちは、あげかけた腰をイスに預け直した。
「よってレガリスレクス王国では、新たに『ダンジョン管理局』を設けることで対応する。傍聴する諸君らにも利がある話なので、よく聞いてくれ」
要点を絞り、伝えたところは——
ダンジョン管理局の設立以降は、すべての登録者にダンジョンの立ち入りを認めるものとする。
従来の冒険者組合など組織ごとへの認可ではなく、あくまで個人個人に対する許可とする。
要するに、ダンジョン基本法の対象を組織から個人に変えるための機関であると。
「一般の入場も可能となるぞ。その道案内や安全の確保も新たな王国兵の任務になるのかな」
傍聴席が喜色に染まった。
これまで既得権益と化していた『経験値獲得によるレベルアップ』が民衆に解放されたのだから、当然だ。
ぜひとも余暇の健康増進として活用してくれ。
国民の体力が均一的に水増しされるなら、それに応じて生産力も上がり、いいこと尽くめ。
治安維持の懸念は残るが、それはダンジョンを冒険者たちの好きにさせていたときと変わらない。王国兵がしっかりすればいいのだ。
立ち入れる階層の制限くらいはかけるかもしれないが、それは追々バランスを鑑みての話としよう。
「該当局の局長を、組合長に任せたいと思う——」
「ま、待ってください! それは実質的な冒険者組合の解体となるのでは⁉︎」
「あえて言及せずにおいたが、これは冒険者組合や関連組織にとっても救いの提案なのだぞ」
ここでオレは——
『一、王国兵は予告なく認可者に査察を行うことができる。
認可者が査察を拒否した場合、当該団体はもとより、ダンジョン侵入許可を受けたすべての関連団体に対し、国王は懲罰を科すことができる』
ダンジョン基本法を諳んじた。
「盗賊ギルドは査察を拒んだ。冒険者組合の下部組織でもあるのにな」
「盗みはダンジョンの外でのことでははありませんか!」
「そうは法度に書いていない。定められているのは『認可者に対しての査察』と『拒否した団体ならびに関連組織に対する権限の施行』だぞ。よって、今この場で冒険者組合に懲罰を与えることもできるし、ダンジョン立ち入りの認可を剥奪することもできる」
「はじめから陛下は……クッ。いえ、なんでもありません」
そうだ。冒険者組合の看板だけでも残しておくには、局長を兼任するしかない。
各流派の師範たちに目配せをすると、組合長を推す声があがる。
これまで自分を突き上げてきた者たちが、こぞって自分を推す状況に、とうとう組合長は折れた。
「で、先ほど組合長——もといダンジョン管理局局長が言っていた盗みについて、まだ検めるべき事案がある」
「……と言いますと?」
「これはオレの暗殺未遂にも関わってくる話なのだが」
丁寧に言葉を区切り、証言台へ目配せ。
「盗賊ギルドの資金洗浄を、教会が請け負っていた疑惑がある」
言うや否や、大司教の取り巻きが口汚くオレを罵ってきた。まず否定をすればいいものを。
「黙れ! 許可のない限り傍聴者に発言権はない。それとも教会は決まりごと一つ守れないのか? 自分たちは法より上に位置する特別な立場だとでも主張するつもりか?」
「……これお前」
傍聴席に腰掛けていた大司教が隣にいた者を肘でつつき、オレに詫びを入れさせた。
「以降、裁判中の許可なき発言は慎むように。それでは証言を聞かせてもらおう」
元盗賊たちは証言台に立ち、次々と教会との繋がりを暴露していった。
教会を通じ、盗品を貧民に施すという過程を経て、その多くを己の懐に戻していたこと。
件の工作に対して見返りを支払っていたこと。
謝礼が大司教に上納されていたこと。また、盗賊たちにも寄付という名の上納金の支払いを匂わせていたこと。
なかには、
「ほう。善意の寄付金を盗難されたと偽装したのか」
「はい陛下。俺らが盗んだ物を、あとで返してやって、寄付額を誤魔化すなんてこともしてました。たぶん懐に入れるためかと」
聞くに耐えない話ばかり。
だが、未だ大司教は涼しい顔を崩さず。
きっと頭のなかでは、トカゲの尻尾切りの算段でも立てている違いない。
「……あと、身売りですかね」
この一言で場の空気は凍りついた。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
次話から長めなエピソード(4000文字前後)が増えていきます。すべてではありませんが、二話分弱あるので「あれ?」とならないよう念のため、お知らせしました。
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枝垂みかん




