しばらく眺めていろよ
「静粛に、静粛に!」
一度は言ってみたかったセリフにつづけて、公開裁判の開廷を宣言した。
「それではへベス大臣、盗賊ギルドの罪状説明を」
「ハッ! 組織的窃盗集団、通称『盗賊ギルド』の罪は大きく四つ。そのうち当該組織に所属する者すべてが対象となります、二つの罪から」
大臣が読み上げた内容を要約すると——
一つ、組織的かつ常態化された窃盗行為。
一つ、王国兵に対する公務執行妨害。ダンジョン基本法に定められた査察の拒否ならびに武力行使による抵抗。
以上だ。
この国には明文化された法律などほぼないので、基本的に判例主義。よって『前はこう判決を下した』という前例が重視される。
しかし王様が出席する裁判だと、それを覆すことも可能。
要するに、やろうと思えばイチャモンでもなんでもつけて罪にできちゃう。なんとも恐ろしい話だ。
とはいえ、オレの知る人類史でも法の支配がまかり通っていた時期など極々短く、国際法に至っては機能しているのかどうかすら微妙だった……。
「いま挙げられた罪はここにいる誰もが知るところであろう。で、ギルド長はこの罪を認めるか? なにか言い分があれば発言を許すぞ」
せめて弁護をつけられないのならと、代表者本人の発言を許した。大臣曰く、かなりの異例らしい。
だからか傍聴席までざわつく。
「静粛に、静粛に!」
こんどはへベス大臣に定番のセリフを取られてしまった。
「発言の機会をいただき、ありがとうございます。我々盗賊ギルドは、長いあいだ盗みを働いてきました。主に商工連盟に属する金持ち相手にです」
実は、ここらへんはギルド長と打ち合わせ済み。彼だけ国外追放で手を打ってある。
どうやら極刑を覚悟していたようで、すんなりと受け入れてくれた。
「陛下におかれましては、我々が、盗品の一部を恵まれない子供たちに分けてきた点を考慮していただけないものかと……」
傍聴席に座る多くのは、王都住まいの一般市民。言ってしまえば被害者ではない。
ザマァを娯楽として観にきた者も少なくないだろう。悪趣味だとは思うが、それも否定できない人間の一側面。
だからか『金持ちから盗まれた金が貧しい子たちに使われていた』というエピソードは同情的に受け入れられた。
「しかし善意は一部であろう? それでは動機とはならない。ここは公平に、商工連盟総裁の意見も聞こうか」
「我々商工連盟の意見を代表して申し上げます。まず、一部とはいえ善意の行いには敬意を……」
真っ先にこれを言っておいてもらわないとな。あとで盗難品の返却要求を破棄してもらう段取りに矛盾が生じてしまう。
「しかしながら大きな商会ならまだしも、資金繰りの厳しい商家や職人たちは、盗難によって従業員や家族を路頭に迷わせることにもなっております。また、卸しをしている相手先にも多大な迷惑をかけることにもなりました。おいそれと許せる話ではありません」
上手いな。いまので傍聴席の一般市民に我が事と思わせたぞ。
両者の言い分を聞き終えた——いや、聞かせ終えたところで、
「それでは陛下」
へべス大臣が判決を促した。
オレは「うむ」と演壇に立ち、まだ余裕の面構えを保っている大司教をチラ見。それから沙汰を下す。
「事は商工連盟の者だけの被害ではない。ここにいるすべての国民に影響を及ぼす。よって、償いは皆に還元されるべきだと考え、盗賊ギルド関係者には、被害届の三倍額の賠償をもって罰とする」
また傍聴席がざわつく。
「聞け。この賠償金の用途について、商工連盟総裁から提案があるそうだ」
「恐れながら。国土の安全は我々の商売にも関わる大事ゆえ、もし賠償金の用途をレガリスレクス王国の治安に充てていただくお約束をしていただけるのならば、すべて返却要求を撤回いたします」
傍聴者の理解は半々と言ったところ。
だが、参考人席の冒険者組合組合長だけは、顔色がよろしくない。
「ありがたい申し出であるな。しかしだ、となると取りっぱぐれがあっては総裁との約束を破ることになりかねん……」
ほんのりと棚ぼた的に自分たちのために大金が使われるとわかりはじめると、傍聴者の熱の向きが変わる。
「では償いも兼ねて、盗賊ギルドに所属していた者たちには王国兵として働いてもらうこととしよう。その給金から賠償金を天引きすれば、必ず国庫に収めることとなる」
「多くの市民に利のある善きお裁きかと」
率先して総裁が拍手すると、他の参考人も傍聴席も、大司教とその取り巻きを除いた皆が賛同の拍手をした。
なんだかこの光景、独裁政権の議会みたいで一抹の不安を覚えるが……。まぁよしとしておこう。
「さて、へべス大臣。盗賊ギルドの罪のうち残り二つを」
つづいて挙げられたのは——
一つ、押し入りや追い剥ぎなどの強盗。これには野盗行為も含まれる。
一つ、資金洗浄や国王暗殺未遂など、教会との黒い繋がり。
以上だ。
これにはさっそく大司教の取り巻きらが声を荒げたが、傍聴者に発言権はないので「黙れ」で終わらせた。
それでも大司教は帰るわけにはいかない。本人不在で裁判を進められる方が、よほど困るだろうからな。
安心しろ。オマエらの出番はまだ先、しばらくはそこで眺めていろ。
「まず、強盗に関わった者だが……、極刑だ」
これに傍聴席は沸く。
それを黙らせるようにオレはつづけた。
もしかしたら、これはオレ自身の声の震えを隠すための強い口調だったのかもしれない。
「ただし! 公開では実施しない」
王様がフランクだと国民も嘗めてかかる。それをオレはいい事だと思うので、ヤジに耳を傾けた。
若干の曲解も入るが、それらを要約すると『楽しみを奪うな』となるのだろうか……ハァ。
「被害者の救済と罪人に与える罰は、別と考えるべきだ。皆の気持ちもわかる。被害に遭った者は納得いかないことも理解できる。だがだ、本当にいいのだろうか?」
なにが⁇ と言わんがばかりの表情が並んだ。
怒る者もいれば、ポカンと意図を汲み取れない者、ごく僅かだが聞く耳を持つ者も。
「キミたちの心情と裁きを直結させると、きっとオレは人気取りのために嫌われ者には厳しくあたることになると思うぞ。それがデマを吹き込まれた結果、周りから好かれていないというだけの理由で罪以上の罰を受けることになりかねない。皆、ぜひ我が事として考えてくれ」
ここでオレは具体例をいくつか挙げていく。
夫婦間や色恋沙汰のいざこざ。
金銭の貸し借りによる揉め事。
こういった場合にも『周りの勝手な認識で罰され方が変わる可能性があるぞ』と。
「納得する必要はない。キミたちの心の内にまで干渉する権利はオレにないのだから」
これまでにない種類のざわつき……。
あまりに王様らしからぬことを言ったからか、オレには宇宙人でも見たような目つきが向けられた。
ま、だろうな。
法体系が整った現代社会でも量刑と感情を分けて考えられる人は少ない。
かくいうオレだってニュースを観て『またヌルい判決下しやがって』と憤ることはあった。理性的な判断など容易にはできないさ。
「ここで、いちおう当事者の話を聞いておきたい。冒険者組合組合長、意見を」
「——なッ⁉︎ なぜ私が当事者なのですか!」
「護衛の依頼で冒険者は儲けていただろ。野盗集団の討伐などもあったな」
ここまで言えば、冒険者組合と盗賊ギルドのマッチポンプを疑う目は増える。
さっきまでオレに向けられた不可解そうな視線が、一斉に組合長に集まった。
「ほら組合長、黙っていると要らぬ誤解を招くぞ」
「ぼッ、ぼぼ冒険者と盗賊がグルになってなど……あ、あはは、有り得ませんなぁ」
声も手指も震えて、自白も同然。
悪いが裏はとってある。
参考人たちの顔ぶれ、それと証言台の控え席に座る盗賊たちの顔色を見て、組合長の青ざめはますます深まった。




