公開裁判を開廷せよ!
冒険者組合の下部組織である剣術流派や槍術流派の師範たちとの話は、割とすんなり済んだ。
彼らの言い分をまとめると、
『自分たちは冒険者組合組合長による専横によって非常に肩身が狭く、また魔獣駆除の依頼も激減して資金面でも困っている』
金の話ばかりを主張してきた。王妃のケガの件に触れることはなくだ。
もちろんこちらから話を振れば、知らないと答え、口を揃えて『教会がやったのでは?』と憶測をさも事実かのように語っていく。
もっと厳のような武術家たちを想像していたのだが、ガッカリさせられた。
「まさか冒険者として到達点の一つが、修練場の指導者となることとはな」
世知辛い。これが各流派の師範たちと話したオレの印象。
しかし考えてみれば当然のことで、多くのアスリートは引退後、タレント業をはじめるか指導者としてのセカンドキャリアを進む。
若干オレのイメージが先行している感はあるが、そこまで間違ってもいないだろう。
なかには夢見る若者を食い物にするような育成機関もあるかもしれない。いずれメスを入れてみる必要がありそうだ。
その際は、出身者のその後や年収の中央値を調べて、成果ごとに国家公認を与える形をとるべきか。
このあたりは伏せたが、
「冒険者組合を廃し、王国がダンジョン管理局の設立を考えていることは充分に匂わせられたな」
「はい。どの流派の師範も、育成そっちのけで金勘定に没頭しているようでしたので」
「機を見るに敏か。とはいえ、組織において資金繰りは煩わしくも最重要」
おそらく各流派の師範たちは、門弟集めとその維持の苦労がなくなる国家公認インストラクターとしての未来を想い描いたに違いない。
有能ならばそれでもありだが、あの感じだとたぶん全員はムリだろう。
「すべてはダンジョン管理局ができてからのこと。なにも言質は取られておりません」
「基準を満たしてくれるなら、喜んで採用するさ」
なんにせよ利は示した。これで冒険者組合を内側から揺さぶれる。
盗賊たちの採用面接兼事情聴取も裏で着々と進められていた。
まだ公開裁判の前なので賠償額は未確定だが、寄せられる情報を基に、のちの減額は先に伝えてある。
未だオレはこの世界の貨幣観をフワッとしか掴めてないので、そのあたりの塩梅はへベス大臣に丸投げ——もとい、一任した。
併せて、本人以外の密告も受け付けた。
これは凶悪な犯罪に限ってであり、主に相手を負傷させる強盗などだ。
一人の証言では当てにならないので、複数の証言と組み合わせて。
どうやら盗賊ギルドのなかでも、恐喝や押し入り強盗のような行いは白い目で見られるらしく、思っていたより証言は偏った。
また、技能が高い者は一目置かれるようで、そのあたりも素直に話してくれた。
ここらへんは、明らかなデマを流した者に重い罪を与えたことで、一罰百戒的な効果もあってだろう。
「教会との黒い繋がりについては?」
「確度の高い話をまとめております」
「できれば一人がすべてを語るのではなく、複数の証言から一本の線に繋がるようにもっていけたら、説得力は増すはずだ」
我ながら、とても裁判などと呼べたものではないな。
「公平さは皆無で、結論ありき。そもそも弁護が不在」
「……。割り切るしかありませんな。そもそもそういうものですぞ。陛下の暗殺を唆すような連中を野放しにしておくわけにはまいりません」
そうは言うが大臣オマエ、オレの暗殺未遂を聞いたときは顔色一つ変えなかったよな。
「で、オブルスは喋るようになったのか?」
「ペデモント兵士長の話によると、受け答えはするそうですが……」
「やはり証言台に立つのはムリか」
ここまで任せきりにしていたけど、一回オレが会ってみるのもいいかもしれない。
「地下牢だったな。よし向かおう」
「王たる者、そうホイホイと玉座を立たれるものではありませんぞ」
「なら罪人を謁見の間に呼ぶか」
「……ハァ。参りましょう」
行ってみるとお手本みたいな地下牢。こうとしか説明できないほどの地下の牢屋。
コツコツ靴の音を響かせて進んでいくと、鉄格子越しに、オブルスのやつれた姿が見えた。
「出されたメシくらい食ったらどうだ」
「……陛下、ですか」
「ご挨拶だな」
「……すみません」
「それはオレに刃を向けたことに対しての詫びか?」
「いいえ」
即答っぷりにもオブルスの頑なさが表れている。
わかりきったウィークポイントはあるんだ。キミの妹の立場を、などと弱みをチラつかせてやれば簡単に口を割るはず。
わざわざこちらがなにかをしなくても、親族が国王暗殺に関わったなどと周囲に知られれば居場所はなくなる。オレの人気は絶賛上昇傾向だから、なおさらだ。
ただ、こんなことを思いつく自分の黒さに腹が立つから絶対に採用しないが。
「オマエの生命の使い道は、それでいいのか」
「生命の……使い道?」
「ああそうだ。人間誰しも人生をチップにすれば、かなり大それたことができるものだ」
「自分は、恩人を助けることすらできませんでしたよ」
「本当にそうか? 他の牢を見てみろ。繋がれた盗賊ギルドの者は多くないはずだけどな」
いるのはギルド長と、強盗傷害をした者らだけ。
「多くの盗賊は改心して、これからは王国兵として働いてもらうことになった」
「——ッ⁉︎」
「ハッキリさせておくが、オブルスの働きかけではなく、はじめからそう決めていたんだ」
あえて余計なことを言った。
ここで『キミの頑張りは報われた』と欺くのは簡単かつ合理的。だけど、オレは若者をいいように扱う人間になりたくはない。
単なる苦い経験をしたオッサンの取るに足らない意地だ。
「おそらくキミは、オレの想像もつかない苦労を重ねてきたんだろう」
「……なんです、急に」
王様にわかるわけないだろ、とでも言わんがばかりに睨まれた。やっと話を聞いてくれる気になったみたいだ。
ぜひとも生の感情をぶつけてくれ。ぜんぶ受け止めてやるから。
「すごいじゃないか。キミは不遇の身から王国兵になった。立派に働き、税を納め、国家国民の役にも立っている」
「——やめてください!」
「いいや、やめない。オレは頭にキてるんだ」
「なんて嫌味な。極刑でもなんでもすればいいじゃないですか。牢に繋いだ相手を一方的に嬲るなんて、それが王様のなさりようなんですね」
言葉に棘まで生えてきた。
オブルスの思考を誘導したくなる気持ちを抑えて、オレはつづける。
「おいおい、見くびってくれるな。オマエなんかに腹を立てるものか」
「……ッ」
「オレが気に食わないのはな、オマエの生命の使い道をオマエ自身が決めていないことだ。人を利用して使い捨てる、そういうマネが一番許せない」
こんなもの同情でも共感でもない。昔の自分を重ねて、理不尽に対してめちゃくちゃをしてやりたいだけ。そういう黒い感情だ。
「陛下はなにを仰って……」
ごめんな。オッサンの一人語りを聞かせちゃって。
「オレのために働けなんて言わない。でも、ペデモント兵士長には報いてやれ。あと、同じ境遇の者を救うことを考えるべきだ」
「なんて無責任な!」
「……だな。王様がしっかりしてないから、こんなことになる。オレが悪い。認めるよ」
「そうやって陛下は! 陛下にそう言われてしまったら、自分は誰を恨めばいいのですか……ッ」
そうか。オブルスは完全に教会の口車に乗せられたわけじゃなかったのか。
誰にでも鬱屈した気持ちはある。そういった弱さに漬け込まれたんだな。
「オレを恨めばいい。オレに文句を言えばいい。そういうのも王様の役目だ」
「……クッソ。簡単に言うなよ、クソ、クソッ……ッ……遅いんだよ、クソッ」
オブルスは力なく床を叩く。拳が擦りむけても、ずっと……。
すごく、痛そうだった。
結局、オブルスが証言台に立つかは不明。立たせる予定は組んだが、喋るかは別問題のまま。
——そして公開裁判当日。
発言権のない傍聴席の一角には、ぞろぞろとお供を連れた大司教の姿があった。




