関係大ありなんだよ
「やはり、冒険者組合の解体が一番のネックになるか」
「相手はレガリスレクス王国のみならず、多くの国を跨ぐ組織ですので」
「ならば名ばかりにしてしまえばいい。そうだな、王国直轄機関『ダンジョン管理局』を立ち上げようか。その局長に組合長を据えたら、これまでどおり各所からの圧を肩代わりしてくれるだろう」
「なんとも気の毒な話ですな」
同情なんか欠片もない悪い顔で、へベス大臣は頷いた。
「他国への説明は大臣に任せていいか?」
「お任せを。盛大に『すべては大司教のしでかしたことが原因である』と書き連ねておきましょう」
このあたりは文脈さえ整えればなんとかなる。
己に利がないのに他国へ干渉したがる国などないのだから。ましてや魔王という直近の脅威があれば、なおさらだ。
「王妃をケガさせたことより、少年を死地に送ろうとした点を強調しておくといい。どこの王も後ろ暗さは感じてるはずだからな。おそらく問題にしたがらないはず」
「これまで誰も気にしておりませんでしたが」
「それは論点にあげてこなかったからだろ。民衆に『もし明日オマエの息子や娘が、夫が、教会により勇者と認定されたら?』と考えさせるだけでいいんだ」
大国が戦争をしていても、戦火の及ばぬ地域に住んでいる者は気にもしない。日々の生活を優先する。
これは想像力の欠如ではなく、見たくないから見ないんだ。危険を避けたがる人ならではの本能的な自衛とも言える。
「なるほど。たしかに大々的に我が国を批判すれば、多くの国民に考える機会を促してしまいますな」
「それ汲むかどうかは別としても、勇者制度を利用してきた国家は国民に考えさせて得はない。だから実害のないことだったら黙認するとみている」
「粒立てるべき点は理解しました」
さて、どうして大司教をどうこうする話が冒険者組合の解体となっているかといえば、
「これで、教会以外の勢力を招く目処が立ちましたな」
盗賊ギルドの公開裁判を行うため。
そこに各勢力の代表を招く。もちろん国民にも傍聴を認めるし、国民の一人として大司教が勝手に来るぶんには拒まない。
ぜひとも、本当に裁かれるのは自分だと知らずにノコノコと現れてほしいものだ。
「では、商工連盟の総裁を呼んでくれ」
「御意」
「ああ、場所は王様の私室だ。先日納めてくれた身体能力測定の道具の礼を個人的に言いたいと伝えれば」
「辞することはできないでしょうな」
◇
謁見の間ではなく王様の私室に招かれた商工連盟の総裁は、かなり警戒していた。
「職人というのは大したものだな。オレの描いた雑な図面からあれほどの物を用意してくれるのだから」
「恐悦至極にございます」
あまり勿体ぶるのも悪印象を与えそうなので、さっそく本題に入ってしまおう。
「盗賊ギルドの盗品についてだが」
総裁の眉が僅かにピクリと。
「こちらの想像を上回る被害届の数でな」
「盗難に遭った側にも、備えの不備など責任はございましょう。こちらから、古い話は諦めるよう伝えておくということで——」
「いやいや。盗まれた側が悪いなどと考えるのはよくないぞ、総裁」
「陛下は『王国の法を蔑ろにされるおつもりか』と仰りたいのですな」
そこまでは言っていないが、ナイスアイシスだへベス大臣。
「——そ、そのような意図で申したのではなく、お役人の方々のお手を煩わせてはならぬと考えた次第でして」
「そうかそうか。そのような気遣いあっての発言だったか。これ大臣、さっきのは言いがかりだぞ」
「ハッ。出過ぎたことを申しました。総裁におかれましても、お気を悪くせぬよう」
総裁は乾いた笑いで「とんでもありません」と済ませた。
そろそろ暖気も済んだ頃合いか。
「問題は別にある」
「……はて?」
心当たりはあるっぽいが、やはり老獪。簡単に尻尾は見せない。
きっと頭のなかでは、どう切り抜けるかの算段を立てているのかもな。
「総裁との仲だ。腹割って話そうではないか」
オレが王様と入れ替えられてからは初対面なので、どんな仲だったか知らないが、そう枕言葉を置いてズバリと——
「二つの意味で数字が合わないのだ」
「……」
「一つは押収品と追加された被害届のズレ。おかけで過去に遡り、新たに持ち込まれた帳簿と照らし合わせることになってな」
「……。記載に不備があったと」
「不備? ものは言いようだな。我が国ではそれを脱税と呼ぶ」
「税逃れなどけっして——」
「まぁ待て、結論を急ぐな総裁。オレは悪意があるかないかを重視している。悪質ならば罰を与えることになるが、故意でない誤りならそれ相応の償いで済ますつもりだ」
要するにオレの匙加減次第。
「…………なにを、お望みでしょうか?」
「さっきもいったとおり二つある」
「……」
「盗品返還での誤った届け出については、総裁に、原因である盗賊ギルドの公開裁判において意見陳述してもらうことで水に流そう」
本人にそのつもりはないだろうが、長い長い沈黙。ようやく口を開くと、
「私の意見でよろしいのですか?」
こちらの意図を汲んだ答えが返ってきた。
「ああ。嘘をつかなければそれでいい。あと、神殿からも魔道士結社からも冒険者組合からも代表を招き、それぞれに意見してもらう予定だ」
「狙いは……失礼。教会は招かないのですか?」
「総裁も知っているだろ。オレと大司教は仲違い中でな。あちらから来たいというなら拒みはしないが、こちらからお願いしてきてもらうのも、断られた場合を考えるとなぁ」
「ご厚情感謝致します。商人たちには以後、自重するよう申し伝えておきます」
こらこら勝手に終わらそうとするな。耳の痛い話はこれからだぞ。
「まだ言い足りない。誤った税申告についてがまだだ」
「おおっと、そうでございました」
白々しいヤツめ。でもこれくらいでないと、海千山千の商人を束ねられないか。
「結論から言うと、商工連盟の好意してダンジョン由来の品の査定表を提出してもらおうか」
「——そ、それはいかに陛下のご下命といえど! 査定表と税とは関わりなく存じますが」
「いやいや、それが大ありなんだよ。なぁ大臣」
「はい陛下。ダンジョン基本法の発布以降、拾得物に税をかけているのは総裁も知るところかと」
「もちろんでございます。ですが——」
「冒険者による脱税を問題としておりましてな」
総裁の反論を遮り、へべス大臣はキッパリと。
「拾得物の申告を、冒険者が誤魔化していると、そういうお話でございましょうか。それは由々しきこと。しかし我ら商工連盟には——」
「言ったろ、関係大ありだって」
売る売らない買う買わないは、商人の自由。
なので相場を知らぬ王国からダンジョン由来の品を安く買い叩くというのも、罪ではない。アコギな商売しやがってと思う程度。
だが、納税となると話は別。
拾得物の一部を納めるのは、ダンジョン基本法に明記した義務であり、それをチョロまかすのは脱税だ。
こういうわかりきった話をしたうえで、オレは総裁に提案した。
「これまでは冒険者組合が仲介に入っていた。その冒険者組合だって、上前を跳ねられていたに違いない。もしそれを無くせるとしたら?」
「——まさか! っと、失礼をば」
「いいや構わない。総裁が興奮するのもわかるぞ。これからは直にダンジョン由来の品を取り引きできるのだからな」
冒険者組合を解体するまでは読んでないかもしれないが、オレが『拾得物すべてを納付させたのちに税引き額を返却』くらいはやると思わせられたはず。
つまり今回だけは商人たちの脱税を見逃してやるから、代わりに査定表をよこせ、と要求しているわけだ。
「陛下は我ら商工連盟に、誠意の証として査定表を求めておられるのですね」
「諸君らを疑ってなんかいないさ。ただ、より高価に取り引きされている品を優先的に集めたいと考えただけだ。商工連盟の総裁から提出してもらった方が、互いのためにならない過度な競争を抑えられるとも考えた」
もし拒めば、極一部の商人に話を持ちかけるぞ。
こういう脅しを含ませて、後半はなるべくゆっくり話した。品物の供給源を抑えたうえで安値競争をさせるぞと。
ただ前半は、そうなってしまえばレガリアレクス王国から商人たちが遠のくので『そのあたりはわかってますよ』って前提を添えるつもりで言った。
「あいや、おみそれしました。よもやここまで陛下が商いにお詳しいとは……」
そりゃあ、オレは業態を変えまくる激動の時代を生き抜いた中間管理職だったからな。採用教育から原料調達や企画販売までなんでもやってきたさ。
「御前を辞しましたら直ちに、査定表を提出させていただきます」
「総裁の英断に感謝する。それと、身体能力測定の道具を追加で注文してもいいか?」
「それは願ってもないお話ですが……」
「かなり兵士が増える予定なのでな」
「——ッ。聞かなかったことに致しましょう」
「いやいや、ぜひとも商売の役に立ててくれ。これでも、多少は顧客の調査の重要性を理解しているつもりだ。この情報は、オレからのほんの細やかな誠意の証だと思ってくれ」
深々と頭をさげて、総裁は私室をあとにした。
査定表も大きな収穫だが、これで以降の納税も以前よりはマシなものになるだろう。
「さて大臣。次は、プエルラーレ第三王妃と接触した冒険者組合の下部組織の者らを呼び出せ。口実は『オマエらと会ったあと第三王妃がケガをしていた。本人は事情を話だからない。なにか知らないか?』とな」
残るは、冒険者組合をバラバラにするだけ。
それで大司教を丸裸にできる。




