でも、それでも言ってやるよ
オレと大臣も濃密な一週間を過ごしたが、プエルラーレもかなりの激務だったそうだ。
まずは役人たちの対応。
これは通常業務ではなく、彼らの、内部通報制度を利用したいという相談に応じて。
以前、大臣の娘や孫の多くが官吏に嫁いでいると聞いた。
となると、その配偶者はプエルラーレにとっても親戚筋にあたるわけで、伝手を辿って『少しでも温情を』となるのはありそうな話だ。
義父であり上司でもあるへべス大臣には言い出せなくとも、王妃であるプエルラーレになら言いやすいという心情も理解できなくはない。
自白にきた者もいれば、部下を庇いたい一心でという者もいたそうだ。
このあたりはオレも大臣も想像の範疇だった。
つづいて、冒険者組合の下部組織との接触について。
これはプエルラーレから少しでも情報を引き出そうとしたにすぎないので、後回し。
他にもいろいろしていたらしいが、いまはハラワタが煮えくりかえっていて、まともに聞いていられない。
「なぜユエニスくんがこんなふうになっていて、プエルラーレはケガをしたんだ!」
「ヘーカ声デカっ」
けっして大きなケガではない。転んで膝を擦りむいたとかその程度。
だがだ、教会の大司教がいた席でとなれば、話は変わってくる。
「パパも顔怖いってば〜」
と、いつもの調子でプエルラーレがおっとり語ったところによると——
盗賊ギルドの処遇について探りを入れにきた大司教とそのお供が、会談中に激怒したのが事の発端。
理由はプエルラーレがユエニスくんを護衛兼給仕役としたから。
早々にお引き取りを願うつもりの行為を、相手が挑発と受け取ったのだろう。
結果、大司教は『教会が導いた勇者である』と主張のもと、強引にユエニスくん連れていこうとした。
それを実行したのは屈強なお供だったらしく、プエルラーレは引き止めた末に派手に転んでしまった。こういう顛末だそうだ。
「大司教ゲーカ、めっちゃネチネチ『国王陛下が暗殺されかけたと聞きましたが』とか『姿を暗ますほど怯えておいでとは嘆かわしい』とか、煽りまくってきて〜。マジあったまキちゃってー」
だからといってわざと怒らせた点はプエルラーレにも非はある。だが、だからって転ばせるほどの乱暴にしたのは見過ごせない。
「も、申し訳ありません!」
ユエニスくんを強引に連れていこうとしたことは、なおさらだ。
「キミは悪くない。謝るべきは教会と大司教だ」
「えっとぉ、ごめんねヘーカぁ。上手いこと話を転がすつもりが、あたしの方が転けちゃうとか、……てへへ、ぜんぜん笑えな〜い」
たしかに笑えないな。
「お城のなかで王妃が暴力ふるわれたなんて、外聞悪すぎだよねぇ。ホントごめん……」
おそらく王様が嘗めらていると下々に映る。それを気にしているんだろう。
だが、そんなことはどうだっていい!
「よくぞ身体を張ってくれた」
「……え?」
「プエルラーレはユエニスくんを守るために自ら動いたんだ。その勇気をオレは素晴らしいことだと思う。だから、よくやってくれたと言った」
本音を言えば、衛兵を呼ぶとか他にやりようがあったのは事実。
だが、そんなのはあとになってなんとでも言えること。とっさに人を庇えるなんてスゴイじゃないか。
「「陛下……」」
オレの言葉に対して、二種類の真逆な温度感が重なった。
一つはプエルラーレのウルッとした湿りと熱を帯びた声。
もう一つは触れると火傷、
「まさか見過ごすおつもりではありますまいな」
絶対零度の大臣の声。
ずっと見ないようにしてたけど、やっぱりめちゃくちゃキレてる。ブチキレた昼行燈とか怖すぎだろ。
「大臣、落ち着け——」
「ハ?」
「と言われても無理なのはわかってるけど、いったんオレの話を聞けって」
「なにもしないと?」
「そんなことはない。厳重な抗議をさせてもらうぞ」
「抗議ですと?」
ますます大臣の眉間の皺が深くなった。
ダンジョンキャンプで丸みが減ったからか余計にピリつきがダイレクトに顔に表れて、怒りがビンビン伝わってくる。
「ああ抗議だ。教会は『少年を拐おうとして、それを止めた第三王妃にケガを負わせた』と、大々的に公表してやる」
「……ヌルい、とは思いませんかな」
「思わないな。大事な娘にケガをさせられた憤りはわかる。しかしへべス大臣、落ち着け」
「落ち着いてなどおれません——」
「オレは落ち着けと言った! 王様が、命令形でだ‼︎」
オレは机を叩いて強く言う。こんなのパワハラ認定待ったなしだが、それでも言った。
「オマエまさか、オレが怒ってないとでも思ってるのか?」
「…………」
「いいか、今回の件は仕組みの問題じゃない。明確に拉致しようとして、結果、庇ったプエルラーレ第三王妃はケガを負わされた。つまり悪意をもった行為であり、命じた人物がいる。それは誰か!」
「……大司教ですな」
「そうだ。手下も許せんが、それもまとめて大司教の罪だ。となれば、可能な限り最悪の形で償ってもらいたいものだよなぁ」
「だから冷静になれと仰られたので?」
「ああ、そうだ」
徹底的にやってやる。
「へべス大臣も腹を括れ。もう教会と関係なんかどうだっていい。大司教を社会的に潰すぞ」
「惨めな末路が罰というわけですな」
オレの本音を漏らすことを危機管理意識が、言葉狩りセンサーが待ったをかける。でも、それでも言ってやるよ。
「女子供に手をあげるヤツは許さん」
「御意」
オレは、キョトンとするプエルラーレに声をかける。
「エリテマソーラに癒してもらえ」
「……いや、ちょっと擦りむいただけだし」
「跡になったらどうする。オレは気にしないけど、それを見てのちのちオマエが嫌な気分になるだろ。だから、なっ」
「うん! ヘーカありがとっ」
ユエニスくんにもアフターケアを。
「というわけでキミはなに一つ悪くない。だから気に病まないように。怖い思いをさせてしまったな。今日は早めに休みなさい」
「……はい」
オレの私室に残るは怒れるオッサン二人。
さぁて、ここからは作戦会議といこうか。大司教には手加減一切なしのザマァを食らわせてやる。




