あんま闇々強調しないでよ……
オレが新たな魔法を覚えたことで、ダンジョンの巡回ルートが変わった。
基本は階層ボスに張りつきつつ、リポップ時間になったら隠し部屋に行くのが一番稼ぎがいいという答えに行きついた。
ちなみに、階層主の討伐履歴は日を跨ぐとリセットされる。
なので日になんども戦えないのが普通で、一度倒した冒険者パーティーが行き来しても二度目は現れない。
そこでオレは一人だけ兵士を追加編成してみたわけだ。
結果は期待どおり。その日に未討伐な兵士が階層主の間に入り込めば何度でも再出現した。
倒すまでの手順も効率化した。
まずは現れた途端に先制魔法攻撃。これはなんでもいい。ただの足止めだ。
つづいて本当に気は進まないが、
「ゔぉ……〝虚無魔法〟」
戦闘域の魔力を吸い尽くす魔法を、オレが。
「いよし! 陛下の闇属性魔法が効いているうちに倒しきるぞ。総員、かかれーいッ‼︎」
「「「応ッ‼︎ 陛下の闇が弱らせてるうちに!」」
あんまり闇々強調しないで。オジサンの恥ずかしいやつ、見ないでよ……。
まったく気乗りになれない闇魔法だが、巨大ストーンゴーレムには効き目抜群。石でできた人型ロボみたいな造りなので、魔力を抜いてやった途端に膝から自重でブッ壊れるんだ。
倒れたあともほぼ無抵抗。
ともなれば経験値稼ぎに組み込まない手はないわけだけど、それでもオレの、厨二病チックな響き対する抵抗はなくならない。
「まさか陛下が闇属性魔法の使い手になるとは、思いもよりませんでした」
「……おいそれ、褒めてるつもりか?」
オレにはカッコ笑か大量のW、もしくは『草』とか付いて聞こえたぞ。
「単一魔法で上級とされる意味をお考えくだされば、わたくしの言葉も正しく伝わるかと」
「…………。たしかに使いどころも難しい魔法だな」
強ければ強いほど余計に影響は大。
オレ程度のレベルでも、低血糖みたいな身体の重怠さに襲われるんだ。普段から身体能力を魔力に頼っている者ほど、虚無魔法が生みだす魔力ゼロ空間はキツイに違いない。
「逆を返すと、これに慣れた兵士を育てられれば最強軍団じゃないか」
「もしや陛下は、兵士たちに闇属性耐性が付くまでつづけられるおつもりなのですか?」
いや、ぜんぜんそんなつもりじゃないぞ。単に怠くなると知っていれば耐えられて、かつ普通に身体を鍛えておけば動けるという発想だったんだが……。
しかしあるんだな、レベル以外に耐性とかそういうのも。
「これは魔道士結社の秘技の一つではありますが」
との枕言葉のあと、マギアレフィカは属性攻撃に対する耐性をつける秘技をベラベラと教えてくれた。
といっても結局は『耐えた数』✕『素質』みたいな結論だったが。
そんなことを他の魔法でやったら、耐性がつく前に兵士の身体が保たないし、オレだって四六時中兵士の側で闇魔法なんか使っていたくないので、なおさら却下だ。
◇
——亡霊騎士が現れた。
立ち塞がった動く全身鎧の魔獣に、へべス大臣はデッカいスイカくらいの岩石を投げつける。
えいやと気合いの声を張り上げるのではなく、魔法を唱えて——
「〝石礫魔法〟」
すると岩石は急加速。
ゴンッと胴部に大きなヘコミをつくりつつ、対象は二歩三歩とノックバック。
さらに大臣は、
「ぬぉおおおおおーッ‼︎」
すかさず駆け寄り、膝を掬うようにして猛タックル。
アニメイテッドアーマーを転ばせると、そばに落ちた岩石を持ち上げ——
「〝石礫魔法〟」
全力垂直落下させて兜をグシャリ。
「ふむぅ。また割れてしまいましたか」
そりゃあ岩だもん、割れるだろ。
「これから鉄球を持ち歩けば」
「おお! さすがは陛下。素晴らしいご助言をありがとうございます」
…………。
この一週間のダンジョンキャンプで、へべス大臣はすっかり脳筋キャラと化してしまった。
プエルラーレに文句を言われるぅ……心配はないか。あのコならケラケラ笑って済ませそうだ。
「さて、帰るぞ」
「そうですな。急いで鉄球を持ってこなければなりません」
「大臣にまでそういうボケをかまされると、話が進まなくなる。オレらの休暇は終わり。仕事しに城へ戻るんだ」
「……御意」
まったく。歳を重ねてからスポーツをはじめると凝り性になってしまいがちで困る。ここまで大臣が魔獣狩りにハマるとは思ってもみなかったぞ。
なにより目立っていたぽっこり腹も二重アゴもなくなり、若干、垂れ目がセクシーなイケオジ風になっているのがムカつく。
オレはといえば、恥ずかしい魔法を覚えただけ。四日目の夜以降レベルアップはなし。
階層ボス戦では闇魔法のあとオレもタコ殴りに参加したというのに、レベル三止まり。
「陛下の魔法もですが、へべス大臣の魔法も面白いですね」
オレの魔法はぜんぜん面白くないぞっ。
「本来は——〝石礫魔法〟」
マギアレフィカはスッと指を立て、壁を指差す。
すると、どこからともなく現れた石礫がガツガツガツッとぶつかり、壁の一部を崩した。
「魔法により生み出した重さをぶつける魔法なのですよ」
「なるほど魔力の質量弾なのだな。……ん? すると大臣の魔法は別物だろ」
「ええ。とても面白い使い方でした」
そのユニークさについてマギアレフィカの考察を聞きたいところだが、それより気になることがある。
「壁に穴を空けてしまったけど、放っておいても大丈夫なのか?」
「はい。ここはダンジョンですので」
答えになってない。
「時間経過で元に戻るのは隠し部屋だけではない、という意味です」
「なるほど」
下を見れば、すでに壁の破片が消えており空いた穴も塞がっていた。
いつか爆薬でも作れたら『塔のダンジョンを倒してやれば一気に経験値稼ぎができる』などと考えてたが、ムリそうだな。崩れたそばから修復してしまうのだろう。
とすると、洞窟ダンジョンの壁を崩してショートカットも、やめておいた方がよさそうだ。壁のなかに埋まってしまうなんてシャレにならないもんな。
まだ気になったので、海岸の塔ダンジョンの外に出てから、マギアレフィカが壊した部分を確かめてみた。
ふむ。やはり周りとの境すら残らないのか。
それでも違いを見つけようと下から順に観察していくと、かなり上の方に穴があった。経年劣化で崩れた一部みたいな壁穴だ。
「あれは三階なので、わたくしが空けた穴ではありませんよ」
「ということは最初からある穴か」
もしくは直らないようにダンジョンを壊す方法があるか、だが。
「年季が入った外観も、勝手に直るなんて不思議現象を聞いたあとだと嘘っぽく見える」
まるで『そういうものなので』と擬態しているみたいだ。
「ダンジョンに人間が入る利点はあるのかな?」
「経験値を得られることや、希少な品や鉱石が手に入ります」
いまのはオレが悪い。どうとでもともとれる悪文ってやつだ。
「人間側ではなく、ダンジョン側の利点を言っている」
「……考えてもみませんでした」
「想像だけで話してもしかたないか。いろいろと落ち着いたら、じっくり調べてみよう」
「わたくしがお供しても?」
「そしてもらったほうが皆は安心するだろうな」
こうして王様のダンジョン修行編は幕を閉じ、オレらは城へと戻ることとなった。
そして、王城に着くなり真っ先に出迎えたのは、プエルラーレのイタズラっぽいニタニタでもエリテマソーラの不適な微笑みでもなく——
「陛下、申し訳ありませんでした!」
半べそのユエニスくんだった。
いったいなにがあった⁇




