あっけらかんと言ってくれるなよ
「いよいよ王様のダンジョン修行編がスタートか」
「ん? なんの話ですかな?」
「こっちの話だ」
今回の同行者はへべス大臣と、護衛兼インストラクターにマギアレフィカ第二王妃の二名。
三人仲良く馬車に揺られ、海岸の塔ダンジョンに向かっている。
「マギアレフィカにも冒険者をしていた時代があったのか?」
「いいえ。陛下がダンジョン基本法が定められる前は誰でも立ち入りできましたので、わたくしは独りで探索をしておりました」
ソロでレベル上げか。スゴイな。
それともう一つわかった。
「やはり、今回の規制は魔道士結社にも不満があるんだろ」
「ないわけがないかと」
……だよな。
「いまのところは『冒険者組合が独占している』と広めておりますので、憤りはそちらへ向かっております。ですが、王国兵が二層三層へと進むようになりますと」
「——批判をこちらへ逸らされかねない、か」
「はい。たとえば剣術流派にも属する冒険者の口から、商工連盟と懇意にしている冒険者の口から……」
人の口に戸は立てられぬってやつだ。
「いけませんぞ陛下」
「なにが?」
「せっかくプエルラーレがくれた休暇に仕事の話をしているなど、あってはなりません」
へべス大臣は切り替えが早いな。
「オレとしては、城に王様も大臣も第二王妃もおらず、居残りは第三王妃のプエルラーレだけという状況が気になってならないんだが」
「エリテマソーラ第一王妃は……来客対応などなさらないでしょうな。しかしプエルラーレに任せておけばよいのです。あれは賢い娘ですので」
それには同意するけど、その賢さが仇となることもある。
「さあ、海岸の塔ダンジョンに着きましたぞ」
「へべス大臣の仰りようもご尤もかと。雑念を抱いたままですと、要らぬケガを負いかねませんよ」
そのとおりだ。危険な場所に立ち入るんだから、集中しないと。
それに、オレの視点でしか見つけられないダンジョンの利点もあるかもしれない。ここは大臣に倣ってオレも切り替えよう。
◇
隠し部屋の再出現時間となればそちらで稼ぎ、道中に湧く魔獣を狩りつつ、ボス部屋に向かう。
それを一巡二巡と繰り返したところで、ふと気づいた。
「あまり経路がよくない」
オレのボヤキに、海岸の塔ダンジョンを担当するリットラル兵士長が過敏な反応をした。
「べつに責めてないからな。ただ、改良の余地ありと指摘しただけだぞ。で、一層の地図はあるか?」
「ハッ! どうぞ」
これは期待利益を最大化する経路を見つけ出す問題だ。
リポップまでの時間と各所で変動する所要時間も設定されているのだから、題して『変動要素ありありな巡回セールスマン問題』とでも呼べばいいか。
「こことここ、こっちを回ってからの方が早いだろ」
「はあ」
「で、ここの隠し部屋は報酬が良さげだから、リポップと同時に潰す。なんなら、ここでの待ち時間を休憩に当ててもいいんじゃないか」
「……は、はあ」
リポップは倒してからの時間経過ではなく定時、だから魔獣が外に溢れるなんて事態も起こるわけだ。
「リポップの待ち時間をズラせない以上、これがほぼ最適に近い経路となる」
……はず。
オレもこんなの紙で解いたの学生時代以来だから、あまり自信がない。
「近いところで道すじを結び直すと、短い時間で回れるようになるのですね」
「現実問題、魔獣の強さやこちらの戦力で所要時間は変わる。だからリットラル兵士長、いろいろと試してみてだ。不都合があれば都度修正すればいい」
「ハッ!」
で、実際に回ってみたら——
「ハヒ、ハヒッ、ハヒッ……。もうムリ、ムリでございます」
へべス大臣が速攻バテた。
「ポイポイ石を投げてただけだろ」
「ハァハァ、あ、歩きっぱなしが、キツくて……」
「兵士たちの勤務状況を知るよい機会となったな」
「これが一週間……ですか……」
そんな恨めしそうな目を向けないでくれ。
元はといえば、オマエが末娘に乗せられなければよかっただけの話なんだぞ。
「ほら立て。次の魔獣は後ろで見てるだけでいいから、座り込むな。士気にかかわる」
マギアレフィカが教えても、大臣は初級魔法すら覚えられなかった。
兵士のなかにも魔法がてんでダメな者もいるから、このあたりは適正なんだろうか?
かくいうオレだって、レベルアップしたのに火の玉魔法以外は習得できていない。
「世界の存様を決めつけている者ほど、魔法とは縁遠くなりますので」
という理由だそうだ。
「固定観念が邪魔してるという理解でいいのか?」
「いいえ。観念ではなく、純粋になにを想うのか、となります」
似ているようで似ていない。とりあえず、考えてどうにかなる話でもないようだ。
「ただ、陛下のなされた結果と結果の因果を利用する方法は素晴らしい発想だと思いますよ」
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる的な二属性魔法のことを言ってるのか?
「わたくしは、地下水路での蒸し焼きのことを言っております」
水と熱の魔法を組み合わせたサウナ責めのことか。
物理現象を意識すれば結果のみに焦点を当てる魔法は覚束ず、逆も然り。
どおりで二属性魔法が上級とされるわけだ。まともな思考をしていたら個人が同時には難しい。そう、個人では……。
「やっぱり分業が有効なわけだ。今後、士官には物理を必修にするのもありっぽいな」
とりあえずの結論——オレも大臣も魔法には向いてない。
「そろそろです陛下。次の階層主の部屋ですが……」
「リットラル兵士長、次はオレも参加するぞ。なるべく邪魔にならないよう立ち回るから、そう心配しないでくれ」
「はあ。なるべくマギアレフィカ第二王妃のお近くから離れないようお願いします」
あっけらかんと言ってくれるなよ。
王妃に護衛される王様か……。なんだかモヤるな。
チラッとヘバッたへべス大臣を見て癒される。こういうオレの小物さにも、モヤッとしてしまう。




