少しは取り繕えよ
盗賊ギルドの処遇についてオレの腹案を話すと、へべス大臣は露骨に顔をしかめた。
「一切の責任をギルド長にのみ負わせて、他は無罪放免。これでは捕らえた意味がないでしょう」
「全員斬首にしろとでも言うつもりか?」
「ハァ……」
そもそも牢屋が足りないから、縛りあげて練兵場に転がしてあるんだ。
「ひとりひとり裁判してたら何年かかるかわからんぞ。そんなことにリソースを割くつもりもないし、タダ飯を食わしておくつもりもない」
「しかし放免するだけでは、教会や冒険者組合に取り込まれるだけですぞ」
「そこでだ!」
まだなにも言っていないのに、へべス大臣は嫌そうな顔を見せる。
だが構わずオレはつづけた。内心、
「——盗賊を王国兵にですと⁉︎」
こういう表情を期待して。
「ああ。もちろん許すのは窃盗まで。重犯罪者には然るべき罰を与える」
「まだカラクリがありそうですな」
「わかるか?」
「お顔に書いてありますので」
オレの考えは至って単純。
目に余る犯罪者は除いて、窃盗を稼業としていただけのヤツには然るべき賠償を求めてお終いにする。
「つまり身体で払ってもらうんだ」
「陛下、聞こえが悪うございます」
「王国兵として、汗水垂らして盗んだ額を返してもらうと言えばいいのか」
「……指揮系統などの課題が山積みとなりますな」
完全に否定はしないが、乗り気でもない。
だがな、そんなへべス大臣に対する切り札は、いつもオレの手の内にあるのだ。
「どう思う? 第三王妃の意見を聞かせてくれないか」
「ヘーカってば、ガチでダンジョンを攻略しちゃうつもりじゃーん。ヤッバぁあ〜」
「——プ、プエルラーレ⁉︎」
オマエの末娘はいつでもどこでも見張っているんだぞ。驚いたか。
「狙いはそれだけだと思うか?」
「ええ〜、あたし難しいことわかんなーい。でもでもきっと他にも、賠償金の取りっぱぐれがないとか、回収の手間が省けるとか、教会に対する当てつけとか。もっといろんな狙いがあったりして〜」
「賠償金は給料からの天引きにするつもりだ」
「たしかに役人にとっても手続きを含め、回収の手間が省けますな」
教会に対する当てつけまでは考えていなかったが、言われてみればあり得ない話でもないか。
「教会は、盗賊ギルドも兵士も唆してヘーカを暗殺しようとしたんでしょ〜。なのに盗賊を取り込まれちゃったら、めっちゃ悔しい悔しいじゃーん」
「まだオブルスの証言を得ただけ。そうと決めつけるのは早計だぞ」
「てひひっ。ヘーカ、悪いこと考えてる顔してる〜」
なんたる言い草か。
「オレは司法取引を持ちかけるだけだ」
「なにそれなにそれ〜?」
「ざっくり言ってしまうと『素直に白状すれば刑罰を軽くしてやる』みたいな、犯罪者との交渉のことだ」
「ひっど〜い。ヘーカ仲間を売らせるつもりだ〜」
「心外だな。取り調べの前に、高く情報を売る機会を与えてやるんだ。互いに利のある話だろ」
ここでへべス大臣は、まだ述べていないオレの意図に思い至ったらしい。
「それは盗賊ギルドに限ったお話でしょうか?」
「ペデモント兵士長にな『後ろ暗いことがあれば、いまのうちに身の回りの整理をしておけ』と兵士らに広めておくよう伝えた。オレが手を伸ばす前なら不問にするともな」
「——王国兵も対象ですか⁉︎」
「いいや役人もだ」
「スッゴーイ! 王国のお仕事する人ぜんぶに密告させるなんて、ヘーカエグすぎ〜」
密告とか言わないでくれ。オレはそういう類の独裁者じゃない。告発に近い性質でやるつもりなんだ。
むろん、インセンティブで釣ることにはなるが……。
「新規の情報には金も払う。捕らえた盗賊ならば、賠償金からの減額に応じる形になる」
「みんなに早い者勝ち密告競争させて、情報を売ったらヘーカを裏切れなくなっちゃうわけか〜」
「……だいたい合ってるが、せめて内部通報と呼んでくれ」
大半は自首に近い形になるだろうから、厳密には内部通報ではないのだが、自分を通報してもらうと解釈すればいいだけのこと。
それに、プエルラーレの言うとおり決別や禊ぎ的な意味合いもある。
「どうだ大臣」
「どうもこうもごさいませんな。誰も彼もが猜疑心に囚われて、おかしくなりますぞ」
「だったら役人はあとでいい。盗賊ギルドと王国軍から進めよう」
「手続きをしていれば、自ずと陛下のお考えも役人たちに伝わっていくと?」
「後ろ暗い繋がりがあり、かつ手を切りたいのに切れないのなら、その者にとって救いを差し伸べることにはならないか」
しばしの沈黙のあと、へべス大臣はイスを立つと大仰にも臣下の礼をとった。
「御意」
役人と各勢力との癒着。これだってレガリスレクス王国を蝕む大きな病巣だもんな。
きっと大臣にも、なにか思うところがあったのだろう。
「ヘーカぁ、ありがとねっ。パパものすっごく嬉しそ〜う」
「ほう、そうなのか」
どんな顔してるか想像つかないな。せっかくの機会なので『面をあげろ』と言ってみようとした、矢先、
「では私はさっそく取り掛かりますので」
へべス大臣は俯いたまま早口に言い放ち、スタスタ去ってしまった。
◇
謁見の間にて——
捕物の疲れも取れたころ、ペデモント兵士長より、盗賊ギルドと地下アジトからの押収物一覧が提出された。
「……やはり書類関係は処分されていたか」
それぞれの組織を分けて考えること自体が誤りだったんだ。組織はそれでいいとしても、人は違う。
盗賊ギルドに所属している教会の信者、もしくは他の組織との利害関係者がいても不思議ではない。オブルスがいい例だろう。
「どさくさに紛れて積極的な隠蔽をした者もいるのかもな」
「おそらくは……」
教会の不正疑惑と併せて、商工連盟の弱みまで握ってやろうと目論んだのは欲張りすぎだったか。
「押収に関わった者には、内容を口外しないよう通達しておくように」
「ハッ! 念押ししておきます」
すでに箝口令をしいてあるか。やるな兵士長。
これでブラフくらいにはなるだろう。
王国は証拠を掴めなかったが、せめて相手の側にもこちらが証拠を持っているかの確証がない状態は維持したい。
「のちほど役人より説明があると思いますが……」
とペデモント兵士長が切り出したのは、タイムリーもタイムリーな非常に興味深い話だった。
「なに? 申告内容と合わないだって」
「はい。税について自分は詳しく存じておりませんが、役人が言うには、押収物と被害届けが合わないと申しておりました。至るところで数字の食い違いがあるとも。しかしすでに使い込まれたぶんもあるので、正確なところは未だとのことでした」
ははぁ〜ん。たぶん盗まれたと虚偽申告して脱税したパターンだな、これ。
ならば、いろいろハッキリする前に動いてしまうか。
「へべス大臣」
「商工連盟の総裁を呼べばよろしいのですか?」
「いいやぁ。ここは『押収物に心当たりがある者は証拠と共に名乗りでろ』と大々的に触れを出そう」
「ハァ……。未だ教会との揉めごとが片付いていないのに、手を広げてどうするのです」
「違うぞ。教会とのゴタついているからこそ、仲良くするための先手を打つんだ」
こちらが迷惑を被ったと言う形でな。
さて、ノコノコと帳簿をもってやってくる商人や職人はどれだけいることやら。




