三人以上で対抗せよ!
やけに二属性魔法発動の手際がよくなっている。
……と、感心している場合じゃない。
盗賊ギルド側の後詰は、火だるまにされる前に水路にドボンドボン飛び込んでいく。
ペデモント兵士長の差配により挟撃の出鼻を挫いてやれた。
オレも目の前の敵に集中しないと。
「投降者で妙な動きをする者がいれば、容赦なく敵前に蹴り込んでやれ!」
こんな物騒なことを言えてしまうだなんて、オレもこの世界観に染まっているらしい。まさしく『朱に交われば赤くなる』だな。
せめて手を血で真っ赤に染めないように自重だけは忘れないよう心がけよう。
だからといって舐めプして兵を死なせるなど、もっての外だ。
「サウナで火照った身体に、キンキンの冷水を浴びせてやれ!」
「「「応ッ‼︎」」」
こちらは二属性魔法を発動させるわけにはいかない。氷柱で串刺しなんて見たくもないからな。
だから、
「「「〝水弾魔法〟」」」
相変わらずネイティブな響きの水弾をぶつけて、
「「「〝氷結魔法〟」」」
あとから冷やす。
「カカッ、効くかボケ」
「心地いいくらいだぜ!」
とのことなので、
「冷属性魔法修得者は、左右へ。他は必ず三人以上で対抗せよ!」
直接切り結ぶ兵士たちの左右から、
「「「〝氷結魔法〟」」」
「「「〝氷結魔法〟」」」
氷結の魔法を十字砲火みたいに連射。これなら王国兵が直に冷気を浴びることはない。
「初級魔法なんか効かねぇんだよ!」
単なる強がりには聞こえない。
魔法防御力のようなものがあるんだろうか。もしくはレベルによってなにかしらの耐性がつくのか。
個々人の差が激しいとは理解していたが、まともに食らって耐えるとは驚きだ。
いやむしろ、まともに魔法を当てたからかもしれない……。
だが次の手を考えるのも束の間。オレはもっと驚くことになる。
なんと、冷と冷の二属性魔法が発動したんだ。
「「「——ひえッ⁉︎」」」
魔法の名前は知らないが、初級の魔法とは明らかに規模が違う。
まるで氷河の洞窟。瞬く間に壁一面が凍りつき、スリップダメージを与えていく。
なかには、
「クソッ。靴が張りついてッ」
動けなくなる者もいた。
そうなれば、いまや王国兵士のメインウェポンであるメイスの餌食だ。
ダンジョン内での取り回しの良さから、正式に採用したのだ。
メイスは手入れもほとんどいらないし、下手くそでも殴れば効く扱いやすさ。
「頭を狙え‼︎」
「「「ハッ!」」」
「——や、やめッ」
こう聞こえた相手は必然的に腕で庇う。そこを殴りつけて武器を握れなくしてやれば、無力化は完了。
もしここでオレが『殺すな』などと言えば、つけ込まれてしまうだろう。だからこういうブラフも必要だと考えたわけだ。
本当はもっと穏便に済ませるつもりだったんだけどな。……ハァ。
それにしても、盗賊ひとりひとりの能力はオレの想像していた遥か上だ。
コイツらは戦闘のプロではなく、潜入のプロのはず。ダンジョンでは斥候の役割をしていたと聞く。
にもかかわらず、王国兵三名を相手取っても対等以上に渡りあえてしまうのだから恐れ入る。
もちろん冷気のダメージに蝕まれて、次第に弱ってはいく。
こんなことを頭の片隅で考えていられるくらいに、オレらは優勢を保っている。
後ろを振り返れば、水路はモグラ叩き状態。
アップアプと水面に顔を出せば、即座に火の玉が襲うという地獄絵図と化していた。
なんとか盗賊が岸につくと、メイス攻撃でボコボコにされたのちに拘束。
奇跡的にと言っていいのかはわからないが、見ている限り、死者はゼロで済みそうだ。怪我人は山のように出してしまったが……。
「ギルド長を抑えたぞ! 我らの勝利だッ‼︎」
「「「おぉおおーッ‼︎」
ペデモント兵士長の叫びに兵士たちが呼応して、形勢は決まった。
続々と武器を放り投げて投降していく盗賊たち。
皆が皆、頭の後ろで手を組んで屈んでいるので、誰が誰かはわからない。
「陛下、お下がりください」
「まだ戦意をみせるというなら、投降した者すべてが道連れになるぞ」
さすがにそこまではしないだろうとオレはタカを括っていた。
盗賊たちの前で、ギルド長にのみ罪の責任を負わせて、改心しそうなヤツらは取り込もうなどと算段を立てていたんだ。
そのためにも、ここで兵士の後ろで命令しているだけではダメだとも考えていた。こんなものは蛮勇でしかないと知らずに。
「魔王、覚悟ッ‼︎」
鋭い叫びとともに、蹲っていた一人がオレに凶刃を向けた。
「陛下‼︎」
それは咄嗟に立ち塞がったペデモント兵士長へ。
それは無防備に両手を広げた脇腹に深々と。
それは不幸にも鎧の継ぎ目を貫いた。
「——そ、そんな、ペドモンド兵士長。自分は、自分は……」
短剣を取り落としたところへ、兵らが殺到して取り押さえた。
ここでようやく誰の刃だったか気づく。
「クッ……。オブルスか……」
「兵士長喋らないで! だ、誰か、兵士長を!」
「ど……、どうして相談してくれなかった……」
上司ならそう思うよな。
「教会の人たちが国王は魔王だって言ってて、盗賊ギルドの人たちも捕まえられて、ダンジョンを独り占めして! それに魔王を倒したら僕を勇者にしてくれるって言われて……。そんなことより兵士長、腹、腹の傷がッ‼︎」
ぜんぶ喋ってくれたぞ。それだけオブルスが動揺しているということか。
別に自白を待っていたわけではなく、オレ自身も冷静さを失っていたんだ。
だが、いつまでも呆けてはいられない。
「水の魔法を連射だ。掛け声をだして、息を合わせるんだぞ」
これだけで兵士たちに意図が伝わった。
狙いはもちろん、水と水の二属性魔法『治癒再生魔法』だ。
しかし、繰り返せど繰り返せどなかなか上手くいかず、激しい水音が立つばかり。
やはり兵士長の号令が必要なのか?
皆、真剣な表情で魔法をなんどもなんども。なのに不発。
水属性を未修得の兵は、固唾を呑んで見守る。その隙に動こうとする盗賊には容赦ない一撃をお見舞いして。
「どうせ祈るのなら手を打ち鳴らせ! 拍は一二三四ではなく、一々二々三々四々だ!」
これは単なる思いつき。ただ、細かくリズムを刻んだ方が正確になると聞いたことを思い出したんだ。
もちろんオレも手を叩く。
そして——
「「「〝水弾魔法〟」」」
無数に重なる水の魔法が重なった。
これまでも回復魔法が偶発することはあり、その対象はランダムだった。
だが今回は、
「「「おおお! 兵士長が!」」」
兵士たちの意思が一つになった結果だ。
「へ、兵士長……。よかったぁ」
「ハァ。ちっともよくはない」
淡い光に包まれているにしては神秘の欠片もない苦々しい口調で、ペデモント兵士長は起き上がった。
一瞬、兵に押さえつけられたオブルスに目をやり、それからオレのもとへ。
「陛下……」
「まだ休んでいろ」
「しかし——」
「オブルスの沙汰は追って下す。兵士長の証言も加味するので、少しでも心象がマシになるよう弁護を考えておくように」
「ありがと、ぅゔ、ありがとうございます……っ、っっ……」
「兵士長、汗を拭え」
オレは使っていない手拭いを渡してやった。
部下思いもほどほどに、という言葉を飲み込んで。




