やっぱり地下水路かよ
どうやら盗賊ギルドの建物には地下水路へ繋がる抜け道があったらしい。そこから逃げたんだ。おそらくオブルスも。
「……申し訳ございません。すべては自分の監督不行き届きです」
マズイな。ペデモント兵士長はオブルスの失踪にかなり動揺している。
士気にかかわる点も見過ごせないが、それよりどうやってフォローするかだ……。
真面目な彼に下手な慰めは、かえってダメージになりかねない。ここは見てわかるペナルティを与えて、心を持ち直してもらう他ないか。
「指揮を預かるぞ。兵士長は補佐だ」
「ハッ!」
少なくとも、別のことに集中していれば自分を責めずに済む。
オレの考えを聞いて兵士たちへ正確に伝える、これはなかなかの難易度だと思う。なにせ、軍事のド素人の指示を翻訳しなくてはならないのだから。
「罠の心配もあるが、まずは追跡か」
「すでに兵を向かわせております。いちど戻しますか?」
本当なら地下水路の図面でも見て作戦を練りたいところだが、時間を与えるのはよくない。それは逃げられたときに学習した。
「いや、そのまま追跡は続行しよう。というか、そもそも盗賊の尻尾は掴めているのか?」
「通路に転々と銀貨や銅貨が落ちていたそうでして」
オレらを誘き寄せるためのパンくずと見るか、よほど慌てて逃げたと素直に受け取ってよいものか、悩むな。
「陛下、追跡の一報が参りました」
「申しあげます!」
地下から戻った兵が敬礼をしてみせたあと語ったところによると、盗賊ギルドから追跡者に対しての妨害はなく、使われなくなった調整池をアジトに立てこもっているとのこと。
あまりに対応がよすぎる。
たとえオブルスが情報を漏らしていたとしても、盗賊ギルドの摘発は昨日の今日だ。
とすると元々、そこは資産の隠し場所だったのかもしれない。
「あちらからなにか言ってきているか?」
「ギルド長は『陛下との直接交渉を望む』と」
あかん。これ絶対に罠だ。どこまでが咄嗟のアドリブかはわからないけど。
「前々から、オレの情報は流されていたと見ておくべきだな」
「も、申し訳ありません」
「ペデモント兵士長を責めてるわけじゃない。兵士長、迅速に兵士たちの選別を頼む。なるべく角が立たないよう、過去に盗賊ギルドと接触があった者やオブルスと似た出自の者は今回の捕物から外してくれ」
「それは——」
「早とちりするな。罪を犯していない兵をオレは罰したりしない」
バレなければ罪ではない。あまり好きな言い回しではないが、今に限っては利用させてもらう。
どれだけ各勢力の手が兵士とその身内まで伸びているかわからない以上、いちいち罰していてはキリがないしな。
いわゆる『悪事を憎んで人を憎まず』といったところか。オレの場合は『構造を憎んで人を憎まず』となるのかな。
「近々、王国軍の法度も改める。それまでに後ろ暗いことがあれば、身の回りの整理をしておくようにも広めておいてくれ」
「ハッ。それでは兵の選別をはじめます」
思わぬ時間を食ってしまったが、囲んだ背後から撃たれるなんて事態に陥らなくて済みそうだ。
◇
盗賊ギルドの地下拠点は、出入り口にバリケードが敷かれていた。
いちおうの包囲は完了したんだが……。
「あの防柵、濡れているぞ」
「おそらく火属性魔法の対策でしょう」
まだ自分を責めているのか。
濡れた木は燃えづらい。こんなの誰でも知っていること。
だというのにペデモント兵士長は、オブルスが『オレの助言を漏らして敵対してきた』とでも思っていそうな表情をする。
「いい加減切り替えてくれ。兵士長の生真面目さだって、あちらには筒抜けなんだぞ」
「申し訳ありません」
……口で言ってどうこうなるものではないか。
オレも頭を切り替えて、盗賊ギルドの即席陣地に目を向ける。
ハッキリと奥まではわからないが、とにかく出入りのしづらさが気になる。
「オレらを釘付けにさせて、なにか他に手はあるんだろうか?」
「恐れながら」
「遠慮なく言ってくれ」
「陛下の甘さを突こうとしているのではないかと」
「……というと?」
「現に陛下は直接交渉に出向かれております」
「交渉はしないぞ」
捕物の現場を見ておきたかっただけだ。正確には、盗賊たちがどれくらいの力を持っているのか肌感で知りたかった。
「いま背後から攻められたら、我らは挟撃されてしまいます」
援軍を考えてなかったわけじゃない。却下したんた。盗賊ギルドを電撃的に包囲してから、まだ半日程度。
「さすがにこの短時間でそれなりの援軍を揃えるのは無理だろ」
「しかし……」
「そうだな。兵士長の言うことにも一理ある。では、対応できるように背後にも兵を配置しておこうか」
「ハッ!」
こうして万全の布陣で、狭い出入り口の包囲となった。
攻撃開始前に、いちおうの呼びかけはしておく。
「投降を希望するものは、両手を頭の後ろで組み、視線を下にして前へ出ろ。ちょくちょく呼びかけるつもりだから、そのとき申し出るように」
文句らしきガヤがバリケードの奥から聞こえたが、オレは無視した。
「兵士長、段取りどおり頼む」
「ハッ! 総員、水魔法並びに熱魔法の用意! 未修得の者は手拭いで仰ぐように!」
「「「応ッ‼︎」」」
それでは盗賊ギルドの諸君、いい汗を流してくれたまえ。
「放てーッ‼︎」
「「「〝水弾魔法〟」」」
地下水路内に兵士長の号令がこだますると、一斉に水弾がバリケードにぶつかり、爆ぜ散る。
つづけざま、
「「「〝着火魔法〟」」」
湿り気を増した木材は熱せられた。
するとモクモクと湯気が立ち昇り、
「「「オラオラオラオラぁあああーッ‼︎」」」
兵士たちはそれへ向けてバッサバサ。手縫いで仰ぎに仰ぐ。
魔法のリロード中の者も加わって、熱気は熱波へと変わった。
そう。オッサンといえばサウナ。オレも大好きだった。
いまはまだ暖気の段階だが、いずれ、盗賊ギルドの地下アジトは熱気の渦と化す。
さて、いったい何分持つのやら。いくら頑丈なファンタジー世界の住人でも、未体験のサウナはそうとうキツいはずだ。




