盗賊ギルドを検挙せよ!
早朝——
ダンジョン封鎖に必要な最低限を残し、集められるだけ集めた兵力で、盗賊ギルドの本拠地を包囲した。
もし地下や下水道に拠点を構えられていたら面倒だったのだが、王都の街中に堂々と。看板まで掲げているから恐れ入る。
個人的には世界一カッコいい下水道じゃなくて少し残念に思ったけど、普通に考えて、あんな不衛生なところで生活できるわけがないか。
「それにしても羽振りがいいんだな」
盗賊ギルドの立派さは周りの建物と比べても群を抜く。
このことからも派手に奪ってチョロッと施すというスタンスが透けて見えた。
「投降の呼びかけに対する返事は?」
「まだです」
「正午までだと通告してくれ」
「ハッ!」
現場指揮は、山麓の洞窟ダンジョンを担当するペデモント兵士長。
彼のそばには、こないだアクセサリー試着の身代わりを申し出た青年兵士が助手としてついている。
その青年兵士が、緊張した面持ちでオレに話しかけてきた。
「あ、あの、本当に盗賊ギルドを捕まえるのですか?」
なにごとかと思えば、そんなことか。
「反対か?」
「反対です」
「——こらオブルス!」
「まぁ待てペデモント兵士長。まずは彼の言い分を聞こう」
オレの見落としという線だってあるんだ。
「自分と妹は早くに親を失い、盗賊ギルドからの施しで育ちました。盗賊ギルドは泥棒でもありますが、義賊です! だいたい盗みに遭うのは、私腹を肥やす商工連盟の金持ちばかりなのですよ!」
こういう生い立ちの人がいるのは想定していた。
若いオブルスにどう説明したものかと悩む。
道理で説くか、法的に諭すか、立場で話すか……。
どの切り口から入っても、彼と妹さんが乗り越えてきた苦労を否定しかねない。
「キミの言い分もわかる」
「では——」
「聞け。まずは王として詫びよう。すまなかった」
オレが深々と頭を下げると、ペデモント兵士長のみならず周りの兵士たちにも動揺が走った。
一番面食らったのは言うまでもなく、オブルスだ。
「へ、陛下、頭を……、その、困ります」
「富の再分配は国家が担うべき重要な役割だ。それを蔑ろにしてきたから、キミのように苦労する子がいる。それをオレは是正したい」
「ならば盗賊ギルドは——」
「待て、結論を急ぐな。恩義を感じる気持ちも理解できるし、もしオレがキミの立場なら庇おうとするだろう」
なので最初に王様の立場で謝ったんだ。
モノの見え方は立ち位置によって変わる。持てる者と持たざる者が正しく相互理解するなんてほぼ不可能。いや、不自然と言った方がいいか。雇用関係がいい例だ。だからこそ契約や法律が必要なんだ。
「窃盗は罪だ。善い悪いではなく、罪だ。わかるか?」
「自分にはちょっと……」
「そうか。貧しい者に施しをするのは、善いことだ。これはわかるだろ」
「はい」
「ならば問おう。法の範囲内で稼ぐことは、罪か?」
「商人はたくさん金を持っているのに——」
「善悪を問うてはいない。罪かと聞いている。ヒントは『法の範囲内で』だぞ」
回答は沈黙。
正解でもなんでもない。おそらく不満の表れだ。
「善行は褒めろ、罪は裁け。別物として考えるべきだとオレは言った。理解してくれるか?」
「でも商人は自分たちになにもしてくれなかった! なけなしの金を払おうとしても、パンを売ってくれなかった!」
よほど汚れた格好で店に行ったのだろう。
この場合、どちらの言い分もわからなくないが、彼の心境を慮ると商人側の事情を説明をするのは憚られる。
「ならば、あえて論点を変えようか。いまキミは食い扶持をくれた盗賊ギルドを庇っている。窃盗をした犯罪者をだ。そこでキミの意見。盗品から施しをもらうのはキミ兄妹らが生きるために必要だったので、盗賊のやったことは見逃せとなるわけだ」
兵士らは露骨に聞き耳を立てている。
もしかしたら、兵のなかにもオブルス兄妹と同じ境遇だった者がいるかもしれないな。
「では現在、キミの食い扶持は?」
「王国兵です。給金を頂いてます」
「そうだ。その給金の出所は?」
「陛下……いえ、民が納める税です」
「そのとおり。少し嫌なことを言うが、怒らずに聞いてくれ」
もうオレとオブルスの会話ではなく、兵士らに向けた演説に近くなっている。
「最も多くの税を納めているのは、商工連盟に所属する商人や職人たちだ。全体の半分以上を少数の納税者が占めていると言っても過言ではない。これを諸君ら兵士による治安維持費に充てたり、貧しい子供への保護に使ったり、公共財を提供したりする。この富の再分配と活用こそ国の果たすべき役目——」
いったん強く言葉を区切る。
「では諸君ら王国兵に課される役目は?」
「「「…………」」」
答えは出たな。
真正面からの説得ではなかったが、今やるべきことは理解してもらえたと思う。
「それにな、盗難に遭った財は差し引かれて計上されるんだぞ。つまり、盗賊ギルドが盗まなければ、国の予算として使えていた金でもある……」
とまで言ってしまうと不正確で恣意的がすぎるか。
これまでそれが機能していなかったからこそ、義賊が蔓延ったという側面もあるんだが、心を鬼にして、ここでは正確さよりわかりやすさを優先した。
話をややこしくする経理の話も省く。
構造的に、商工連盟の脱税に盗賊ギルドが加担している可能性だって否定できない。というか十中八九やってるだろうとオレは睨んでいる。
尤もらしい推測は置いておくとして、集まりすぎた注目をどう締めくくるか……。
いまはとにかくモチベーションアップが肝心。アゲアゲのブチあげにするインパクトに全振りすべき——
「より多く! 公平に! 効率的に! そのための国であり法だ。そして諸君らは国法と秩序の番人である!」
「「「ハッ‼︎」」」
なんとか兵士たちの士気があがったところで、正午、突入の時刻となった。
だが、盗賊ギルドに抵抗はない。
というより、もぬけの殻……。
「まいった、書類関係も始末済みとはな。投降までの時間を与えたのが仇となったか」
そして、いつの間にかオブルス青年も姿を眩ませていた。




