よかったら使ってくれよ
この世界、商工連盟というグローバルな組織もあるので、国際基準の度量衡もあるんじゃないかと睨んでいた。
聞いてみたら、あった。
だいたい一メートルが一メトロンで、およそ一センチメートルは一センティメトロン。
長さはまだ馴染みやすい。しかし問題は重さの方で、『リブラ』という単位のみなんだ。
原器を持ってみた感じ缶ビールくらいだったので、一キログラムあたりおよそ三リブラと覚えておく。
一瞬、王様の強権で変えてしまおうかとも思ったが、オレが慣れる方が低コストだと諦めた。
さて、練兵場についたので、さっそくレベルアップの成果を測ってみよう。
「ヘーカヘーカ、どうして手に白い粉つけてるの?」
「それはな」
まずは垂直跳び。オレは壁沿いに立ち、全力ジャンプ——う、ぅおっとと!
「マジかぁ」
あらかじめ刻んでおいた目盛りをみると、六七センチ……。あまり詳しくないけど、これってプロのバスケ選手並みじゃないだろうか。
「へえー。そうやって脚の力を測るのか〜」
「力にもいろいろあるが、これは瞬発力かな」
「他にはなにがあるのぉ?」
「長いあいだ動く持久走とか、いろいろだ」
繰り返すが、オレは運動に詳しくない。
せっかくの福利厚生で通いはじめたスポーツジムだって、トレーニングウェアを買い揃えた時点で会費だけ貢ぎつづける幽霊会員。それくらいには運動不足だった。
「前回は、こっちぃ?」
「ああ。前はりんご二個分くらいしか跳べなかった」
これだけでレベルアップの凄まじさがわかるというもの。
「次は〜?」
「というかプエルラーレ。王妃がこんなところにいるのは、外聞的にどうなんだ?」
「ヘーカも練兵場にいるし、べつによくなーい」
本人がいいと言うなら、まぁいいか。
「次は砲丸投げだ」
「この鉄の玉を投げるのー?」
「おい! それは十キロ——じゃなくて三十リブラもあるんだ。下手に持ち上げようとしたらケガするぞ」
「ふえ〜ん。おも〜い。ぜんぜん動かなーい」
ちょっと安心した。
マギアレフィカ第二王妃の例もある。しれっとオーバースローしかねないと危惧していたが、プエルラーレは体力的には普通の女の子のようだ。
「ホッ……と」
掴みづらい球体を肩口まで持っていき、投てきサークルに立つ。
「危ないから少し離れていてくれ」
「おおーう。そんな重い玉を投げちゃうんだ〜」
そうだ。レベルアップ前は二メートルに届かなかった——だが今回は!
「だっしゃらぁあああああーッ‼︎」
砲丸はポーンと飛んでいき、ドスンッ。
「スゴイスゴーイ。九メトロンも飛んだ〜」
「ふぅ。十メトロンに届かなかったか」
とスカしてしまったけど、ものすごい進歩だ。
「ねーねーヘーカぁ、これもしゅんぱつ力?」
「たぶんな。垂直跳びとの違いは、自分を動かす力か物を動かす力か、だと思う」
わかりやすく重量挙げなどを採用するか悩んだ。
しかし、器具を用意するのが面倒だったのと、なんとなく戦闘の役に立ちそうな測定にしたかったという理由で、垂直跳びと砲丸投げを選んだのだ。
「最後のは面白いぞ」
「ええー、見たい見た〜い」
一見すると吊るされたサンドバッグ。だが皮袋の中身は水だ。
絞られた上部には管が通されていて、下に置かれた木桶に繋がっている。
「叩いて溢れた水で、攻撃の力を測るのか〜」
先に答えを言われてしまったが、内側に目盛りが彫った木桶を見れば、打撃による衝撃を定量的に測れるというわけだ。
いちいち水を戻すのは面倒だけど……、
「えーい」
って言ってるそばから。プエルラーレが可愛いグーでパンチした。
チョロっとだけ水が溢れて木桶に溜まる。
「気をつけないと手首を痛めるぞ」
「えーんええ〜ん。痛いよぉ」
擦りむいてないようだし、拳が少し赤いだけ。このぶんなら大丈夫だろ。
ちょうどそこへ、
「あら、面白いことをしているのですね」
エリテマソーラ第一王妃がやってきた。
珍しく、マギアレフィカ第二王妃もいっしょだ。
王妃なら女官をぞろぞろと引き連れていそうなものだが、二人だけ。これはオレの固定観念というやつなのか?
「ネックレスを調べ終えたので、その報告に参りました」
「こなたは神殿からの続報を伝えに」
レベルアップに浮かれていたけど、常にいろいろなことが同時進行で進んでいく。
パソコンでチョチョイと工程表をいじれるわけでもないので、スケジュールの把握には苦労する。うっかり忘れてることもたくさんありそうだ。
「プエルラーレ、こちらにいらっしゃいな。赤くなった手を癒してあげましょう」
「はーい。エリテマソーラお姉さま〜」
そういえば三人揃ったのを目にするのは初めてだ。思っていたより良好な関係らしい。
エリテマソーラは差し出したプエルラーレの手をとると——
「〝治癒魔法〟」
おそらく水と水の二属性魔法!
プエルラーレの身体が淡い光に包まれ、手の赤さが消えた。
気を取り直して身体能力測定のつづきを、といきたいところだが、
「二人の報告を聞こう」
レベルアップの確認より王様の役目が優先だ。
「手短に済みそうなので、わたくしからでよろしいでしょうか?」
「ええ。こなたの話は、他者の耳がない私室に場所を移してからとしますので」
「ありがとうございます」
マギアレフィカらしく非常に端的に、ネックレスの調査結果を『火属性魔法の威力やや上昇』と教えてくれた。
「報告は以上ですので、わたくしはこれにて。ネックレスは国庫に戻しておきます」
わざわざ言うってことは、やっぱりそういうことなんだろうな。
「マギアレフィカは火の魔法を使えるんだろ」
「……はい」
「こないだ見た腕前だと足しにもならなそうだが、よかったら使ってくれよ。黒いローブの邪魔にはならないデザインだと思うし。ああ、ちゃんと埋め合わせはオレの自由に使える歳費で賄っておくから法度破りではないぞ」
「……。はい」
城の中でも被りっぱなしのトンガリ帽子のツバに触れると、ポツリと答え、マギアレフィカは地面を滑べるように去っていった。
「ヘーカやる〜う」
「早口でなければ、なおよしでしたのに」
プエルラーレから脇をツンツンされ、エリテマソーラからはダメ出しをされた。
どうにも居た堪れない。ここは本題に逃げるに限る。
「この場で話して当たり障りないところだけでも聞かせてくれないか」
「冒険者組合の下部組織、盗賊ギルドに教会が接触しているそうですよ」
「——ッ⁉︎ 急いでオレの部屋に行こう」
冒険者組合を目立たせて教会の矛先を逸そうと考えていたんだが、思わぬ形で動きをみせた。




