第六話 その日
こんばんわ。
投稿です。
その日の朝。
「で、まだ起きてこないと?」
「はい」
「ゲンジロウ、たたき起こしてこい!」
「おそらく、皆さん寝ていますが」
寝坊である。
「負傷ではないのだな?」
ここは謁見の間。
主賓抜きで、昨日のメンバーが全員集合している。
「はい、最前線で戦われたソルティさまは傷を負いましたが、月夜の獣人族、大事ないと言われました」
「ソルティは魔将軍を追い返したとか?」
「はい」
しん、と静まる一同。
「主賓の二人は?」
問い詰める城主のドバシィ・リュウ侯爵。
「さすがにあの魔物の数、如何に称号持ちでもお疲れでは」
そう言うのがやっとのゲンジロウ。
「おいおい、指輪の交換で成立だぞ?ゲンジロウ、起こしてこい」
促す長兄のマル。
「お疲れ?どっちだ?戦いか?それとも子作りか?バイセンが間に合わなければ、あの女、俺がもらうぜ、いいだろ?父上!」
シュガーロッドがお気に入りの次兄。
弟から奪うつもりでいるのは、半ば本気である。
みな戦いで傷だらけで、魔物との交戦で興奮がまだ収まらない。
その時、バン!と扉が開いた。
「「遅参、ご容赦を!」」
入ってきたのは、これまた傷だらけの痣だらけの剣聖と弓聖。
最終的にはシュガーロッド、前線に立ち拳で魔物を粉砕し続けたのだ。
それ程までに魔物の数は多かった。
「ふふっ、ようやく来たか、おいバイセン、先代剣聖は戦場で傷一つ負わなかったらしいが?」
「はい、父上。私はまだまだ修行が足りませぬ」
(いいでしゅか姫しゃま、よい一夜でしゅた、と言うのでしゅよ?そして指輪の交換、それで成立でしゅ、余計なことはいっしゃい言ったらいけましぇん!)
(はい、分かっております、シュガー)
(咬まないでくだしゃいね?)
(……はい、分かっております、シュガー)
「さて、プリンセスシュガーロッド!」
「は、はい、お義父さま」
「おお、お父さまか、いい響きじゃ。魔物との戦い、見事であった。従者のソルティ・ドルティも聞きしに勝る活躍じゃったな」
「夫を支える、妻の勤めでございます」
「主を支える、メイドの勤めでしゅ」
「では、シュガーロッド、昨夜はどうであったか?」
「はい、よき一夜でした」
(言えた!)
「ほう、我が第3子バイセン、昨夜はどうであったか?」
「……はい、よき一夜でした」
「?」
城主であり父でもあるドバシィは、バイセンの表情を見逃さなかった。
(なんだぁ?悔しそうな表情だった?剣聖であろう?昨夜の魔物に強者でもいたか?それとも子作りでなにかあったのか?)
「どうしたバイセン?」
「いえ……」
「なにか不満か?この場は古より伝わる大事な場、言いたいことはちゃんと申せ」
「……しかし」
「何があった?」
「……昨夜、シュガーに後を取られました、それが悔しく」
「………………は?」
超疑問符の城主ドバシィ。
「ふふっ」
一瞬、ドヤ顔になるシュガーロッド。
「後を……取られたああああっ!?」
「はい、それだけではありません、あの絞め技(ソルティ直伝の『葛締め』です)は脅威でした……」
皆固まり、静まりかえる謁見の間。
目を見開き、謁見の間にいる全員がシュガーロッドを見た。
((((((バイセンにナニをしたのだ!?))))))
「剣聖になって、あのような経験、屈辱でしたが励みにもなります」
「屈辱?」←長兄
「励み?」←次兄
((((((ナニがあったぁああバイセン!まさか悪女の毒牙にっ!?))))))
ここで熱い視線に応えるように、シュガーロッドが口を開いた。
「私も、あのような経験は初めてでした」
((((((!?))))))
(おいおい!バイセンッ!いつの間にそんなことができるようになったのだ!?)←長兄
(おいおい、バイセンッ!4回目の女にそこまで言わす!?兄を越えたか!?)←次兄
「聞きますと、お父さまからの直伝の秘奥義とか、感服いたしました」
今度は周囲の視線が、城主ドバシィに集まる!
「父上、そのような技、是非私にもご伝授を」
「わ、私めにも!」
長兄と次兄が詰め寄る!
「な、なんのことだっ!?」
ここで凄まじい殺気の如き猛気を発している人物が一名。
(作者注:猛気とは、獰猛の猛に元気の気、荒れ狂う気を表した造語です)
ドバシィの妃、シューナー・リュウである。
(あなた……)
(な、何かな?シュ、シューナー?)
(私めはそのような秘奥義、受けておりませぬが?)
小声だが、ドバシィには雷鳴のように聞こえる。
(い、いや、ちょ、ちょっと待て!)
(秘奥義とは?……是非、今夜お手合わせを)
(はいぃ!?)
(お・て・あ・わ・せ・を!)
静かな雷鳴が轟き渡る……。
青ざめるドバシィ・リュウ。
「……」←ソルティ、演算中。
チン。
答えが出たようである。
「私直伝の『葛締め』を、外したということでしゅか?」
「ああ、父上からの直伝、『桃皮剥ぎ』でな」
ここでようやく、周囲が収まった。
「……その方ら、いったい、ナニをしておるのだっ!」
父、激怒。
「それは剣聖と弓聖ですから鍛練です、組み手です」
そう、この二人は技や術の鍛練が優先順位一位なのだ。
ちょい、ちょい、と手招きする城主でもあり父親でもあるドバシィ。
「ちょっと来い」
「はい?」
(このバカ者!初夜でする組み手が違うだるぉおおおがああっ!)
(し、しかし父上、私と同等に戦える相手はそうはいません、つい、嬉しくなり)
(別の意味で、嬉しいコトしろよぉおおおお!このバカ息子!)
(で、うまくいったのか?)
(いえ、魔物の襲来でまだなにも)
(ナニしてんだ!カクが本気で狙っているぞ!しっかりしろ!お前は夫になるのだぞ!その次は父だ!)
「え?」
「いいか、この北の辺境、氷の魔力の影響で子ができぬ者も多くいる。祖父や、曾祖父になる者など稀だ」
「5人いた子も3人になりました」
「……母上……」
(ソルティ?)
(男子ばかり5人、馬車の中でお話ししましたが、お忘でしゅれでしゅか?)
(……寝ていたようです)
(そういうところでしゅ、姫しゃまの悪いところは!……長男は3歳の時病気で、次男は12歳の時魔物に襲われて)
(そうだったのですね)
子ども好きのドバシィとシューナー。
女の子が欲しい、と頑張ったが産まれてくる子は全部男の子だった。
元気に育て!と頑張ったが、最初の子どもは病気で二人目は魔物の侵攻でなくした。
この荒れた辺境、悪女と言われるくらい図太い嫁がいい、そう言ったのはシューナーである。
「シュガーロッド」
「は、はいお義母さま」
「女の子を望みます」
「え?」
「元気な子であれば、なによりですが、あなたの義母として女の子を希望します」
「え?で、ですが」
(ソルティ、こ、こ、これはとんでもない無茶振りでは?)
(取敢えず、お返事するでしゅ!)
(……なんて言えばいいのです?)
咄嗟に出た言葉は「努力します」だった。
「よい返事じゃ、まぁ私達の努力の結果は5人。今は目の前にいる3人ですが。みな自慢のいい子ばかり……あなた方の努力が、報われることを祈ります……ゲンジロウ」
無言で頷くゲンジロウ。
「では、指輪の交換を」
「「はい」」
綺麗にシンクロし、何だか嬉しい二人。
バイセンが取り出した指輪は銀色で至ってシンプルな指輪だった。
「これは、私が剣聖になった時、父上から頂いた指輪だ。父上は先々代国王から頂いている。魔将軍を倒した褒美だそうだ。これを君に」
「では私の指輪はこれです」
それは紅玉が埋め込まれた金の指輪だ。
「これは私が弓聖を取った時に、お爺さまから頂いた指輪です」
「お爺さま?たしか聖槍の?」
「はい、先代王の弟です」
お互いの大事な指輪は交換され、無事式は終った。
「これで正式な夫婦だ、お互いをよく支え合うように」
そう言って、城主ドバシィは席をたった。
次に席を立ったのは長兄のマルだ。
「では義妹よ、弟をよろしく」
次は次兄のカク。
「バイセンが気に入らなければ、指輪返して俺の所に来い」
「返すつもりは、ありませんよ」
「はぁ?チッ、剣聖は取られるし、嫁まで取られたかぁ」
「カクにぃ、剣聖は争ったが、嫁は断ったんだろ?」
「そういうことに、しといてやるよ」
それでも食い下がるカク。
キラリと指輪を見せる。
「この指輪、欲しくないか?これは俺が剣聖を取り損ねたとき、母上から頂いた指輪だ」
「「!」」
驚く兄弟。
「この指輪は、父上が初めて母上に贈った竜の牙で作られた力の指輪だ、いつでも用意しておくぜ」
どうやらこの世界、お互いの大事な指輪を交換し合う風習があるようだ。
そしてシューナーが席を立った。
「やっと私に、娘ができました、嬉しい限です」
その言葉を聞き、自覚が生れるシュガーロッド。
それは、なにか不思議な感覚であった。
(私は、ここの家族の一員になったんだ!とうとう4回目にして……やっと人妻になった!もう私はこの人の奥さんなんだ!)
ちょいちょい、と手招きするシューナー。
「?」
(なんでしょう?ソルティ?)
(内密なお話しでは?)
ソルティにも手招きする。
((?))
「近う」
((はい、なんでしょう?))
(バイセンのこと、よろしくお願い致します)
(!……こ、こちらこそ、お義母さま……)
「リン、城内の案内を」
「はい、シューナーさま。では若奥様こちらへ、武器庫や厨房へ案内します」
そう言って進み出るメイド長のリン。
若奥さま……若奥様さま……若奥さま……。
(なんて不思議な響き!4回目ですが若奥さまだなんて、なんか申し訳ないわ……)
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
新たな生活が始まった。
指輪の交換が無事におわる、それはウンタラ地方の大地と大空、祖霊に祝福された証。
これにて正式に夫婦と見なされ、新しい生活が始まる。
しかし、この二人は政略結婚。
大地や大空、祖霊の祝福無し、と判断されても結婚するしかないのだ。
要は、儀式は建前である。
「ですが、皆さまに祝福されていた気がします」
「気ではなく、ここの砦の皆しゃまは、ちゃんと迎入れてくださっていましゅ」
「嬉しい限です……」
城塞内の案内が一通り終り、自室で寛ぐシュガーロッド。
二日目なのにもうここは自分の部屋、何年も住んでいるかのようなリラックスぶりである。
「取敢えず、これを姫しゃま!」
ドサドサッとテーブルに積まれる本。
「……なんですの?この本」
「本格的な、真面目なHな本でしゅ」
「は?」
「妊活の参考書と問題集でしゅ」
「……!」
「……読書タイムでしゅ」
「……いや、その……赤ちゃんができる行程は知っていますけど……」
「読み聞かせがいいでしゅか?」
「じ、自分で読みます!」
「ご要望があれば、取り寄せもいたしましゅが?」
「要望!?……と、とくにありません!し、しかし、さ、参考書は分かりますが、問題集とは?」
「さぁ?読めば分かると思いましゅ」
「ソ、ソルティは読まないのですか?」
「ソルティはBLしか読みましぇん」
「BL?BLとは?」
「姫しゃまには、ちょっと早いかも、でしゅ」
「そ、そうなのですか?い、いろいろな本があるのですね」
「姫しゃま、ではじっくりお読みくだしゃい。ソルティは夜まで出ましゅ」
「でる?」
「城の周囲を綺麗にしてきましゅね」
「掃除ですか?」
「はい、姫しゃまとバイセンしゃまの夜の邪魔をしないように、城塞都市ウンタラ周辺の魔物達を皆殺しにしてきましゅ」
「ちちち、ちよっと待ってくださあい!ソルティ!」
「?」
「む、無闇に殺してはいけません!害のない魔物だっています!」
「そうでしゅか?では追い払うように心掛けましゅ」
「そうしてください」
しかし、ソルティの奮闘虚しく、この夜二人は結ばれなかった。
ベッドの上でしくしく泣き出すシュガーロッド。
「ごめんなさい、申し訳ないです」
「謝ることはないよ、お腹が痛いのだろう?俺は男だからその痛さが分からないが、暖かくして休むといいと聞く、ああ、腰が痛いとも聞いたが?」
「……はい」
(まだ先のはずなのに、なんではじまったの……生理……)
そっと腰に手を当てるバイセン。
「!」
「俺はヒーラーでもあるからな、どう?暖かい?」
「……はい」
「このまま眠ってもいいよ」
「そ、それは……」
しかし、バイセンの手の心地よさに、ネコのように眼を細めるシュガーロッド。
「長旅や、戦いの疲れもあるだろう、ゆっくり休もう」
(この人は……なんて優しい人なのだ、私には勿体ない夫だ……無理矢理しようとする夫だっていたのに)
それは2番目の夫、シュガーロッドに骨を折られた、あいつだ。
結局、こいつは骨折で、思いを遂げるとこはできなかった。
バイセンとシュガーロッドの二人は、一つのベッドでゆっくり朝まで眠った。
いや、眠ったのはシュガーロッドだけである。
それは、心地よい眠りであったようだ。
バイセンは、というと……徹夜である。
(お、女の人が横にいるのに、こんな状態で眠れるわけがないだろおおお!)
妻という存在をどう扱っていいのか、まったく分からないバイセン。
恋人、お付き合い、デート、思い出作り、全てブッ飛ばしての政略結婚。
スヤスヤ眠っているシュガーロッドを横に、剣聖バイセンは途方に暮れた。
次回、初ちゅー……お楽しみに。
次回 第七話 サブタイトルは 湖畔にて です。
残り二話になりました。
面白いですか?このお話。
毎回ご愛読ありがとうございます。
次回予告
「湖を見に行かないか?」
それはデートの誘い。
まだ、手と腰しか触っていない妻。
日常でも距離を縮めないと、と思い、思いついたのがピクニックである。
「まぁ湖の視察も兼ねてだが」
そう、視察は口実である。
バイセンの妄想計画では、シュガーロッドと二人で一頭の馬に騎乗し湖へ、である。
そして湖で……ごにょごにょ……である!
さて、うまくいかな?この計画。




