第三話 出会い
投稿です。
「姫さま、あれが城塞都市ウンタラです、ごらんになられますか?」
御者のジューウンが馬車を止める。
「あれがそうですか?遠くに見えますが、大きいのですね」
「はい、数万人の戦士達が暮らしている場所です」
「北の要とか聞きましたが」
「はい、まさにその通りです」
お付きのメイド、ソルティ・ドルティは着替えを済ませ武装解除し、丸くなってシュガーロッドの横で寝ている。
獣人族は基本夜型、日中は寝ていることが多いのだ。
コトコトガッタン。
馬車が城塞都市ウンタラに近づいていく。
人通りが多くなり、ついに馬車は止まる。
「列んでいるようですなぁ」
「なにかあるのでしょうか?」
「……」
(あなたの結婚式のパレードでは?)
という言葉を、ごっくん、と呑込むジューウン。
「聞いてみましょうか?」
「結婚式のパレードでは?」
ジューウンは呑込んだ言葉を吐き出した。
「あ」
「誤解を招くのは、そういうところですぞ、姫さま」
「あ、ジューウン、姫しゃまって言った」
「起きましたか、ソルティ」
「ごまかしゅな、城に入るまでは、お嬢しゃまと呼ぶように言ったのはジューウンではないか!」
「はは、そうでしたな」
「あの、お散歩してきてもよろしいでしょうか?」
「どうしゅた?ケツでも痛くなったのか?」
「……ソルティ、おしりと言ってください、恥ずかしいです」
「長旅でしたからね、あまり遠くには行かないで下さい」
そう言って、さりげなくシュガーロッドの服装チェツクをするジューウン。
(華美ではないし、装飾品もなし。バレることはないでしょう。噂では傾国の悪女、姫さまがシュガーロッドと分かったらどなるか)
まぁ消えるように逃げるだろうなぁ、と思うジューウン。
魔力も武技もほぼ敵無し。
本気で暴れたら、誰も止められないのでは?
それが、本国で問題になったのだ。
強くて優しい第三プリンセスシュガーロッド。
聖槍の祖父が他界すると、すぐ嫁に出された。
邪魔なのである。
特に母親である王妃には嫌われて育った。
シュガーロッドは母親が大好きであったが、母親はそうではなかった。
「見て下さい、ソルティ、あんなに長い行列が!」
「凄い人でしゅね!」
……だよなぁ……
「?」
……折角のお祭り、中止だとよ……
……なんでもお輿入れする姫さまが、止めたとか……
……んだよ、それ、商人としては稼ぎ時なんだがよぉ……
……魔物が出たとか……
……そんなん、いつでもどこでも出るだろ、ここは北の辺境だぜ……
……そう、俺たちは辺境の民だぞ、ゴブリンがでて中止?どこにでもいるだろ、ゴブリン……
「ソルティ、私は悪いことをしたのでしょうか」
静かに落ち込むシュガーロッド。
「いえ、しょんなことはありません、ことが起きてからではおしょいのです、ひ……お嬢しゃまの判断は間違っておりましぇん」
黒い影がチラホラ見え始める。
「ん?あれはなんでしょうか?武装しているようですが、騎士団か警備隊ではないでしょうか?」
馬も連れているようだが、乗馬していない。
どうやら、長い列の荷を改めているようだ。
「しょのようでしゅね……!?」
「どうかしましたか?ソルティ?」
小声で囁くソルティ。
(ひ、姫しゃま!おパンツ、コルセット一式、馬車の中に干しっぱなしでしゅ!)
(ひいいいっ!?そ、それは大変です!ソルティ!お願いっ!)
(し、しかしっ、慌てて戻ると怪しまれましゅ!)
(で、では私がお話しでもしておきましょう)
(だ、大丈夫でしゅか?)
(まかせなさいっ!外交は得意です!)
(……)←かなり不審な目。
(まかせなさい、外交は得意です)←2回目。
(では戻りましゅ!)←それでも心配。
動きやすい革の防具。
警備隊?いや動きが違う、これは騎士団だ、そうシュガーロッドは判断する。
目の前に迫る騎士団、みな背が高く見上げる大きさである。
(ま、まずはここで怪しい者ではないです、スマイルを!)
しかし顔が引きつった。
「どうかされましたか?お嬢さん?」
「……い、いえ」
第2弾!では、はねぎらいと感謝の言葉を!
「城塞都市ウンタラから歩いて?お勤め、ご苦労様です、都市や私達の守り、感謝致します」
「これはこれはご丁寧に、どちらから?」
「王都からです」
(あ、言っちゃった、まずい?)
「……」
ここでシュガーロッド姫、周りの静けさに気が付く。
騒がしさが、消えていたのだ!
「ん?」
その原因は、声である。
静かに透き通る声、もし子守歌など歌ったら、即落ちするのでは?
そう思わせる声。
なんとも優しい声で、周囲の者達は、その声に魅了されたのだ。
気づかないのは本人だけ。
「吟遊詩人?歌姫ですか?」
「え?い、いえ、違いますが……」
(そう言えば、お爺さま、よく歌を歌ってくれとか言われてましたけど?一曲歌った方がいいのかしら?)
そんな中、一人突進して来る人物がいた。
ずんずんと歩み寄ってくる!
(ひっ、ち、ちょっと怖いかも……)
銀色の髪、黒い眼。
弓聖のシュガーロッドはその青年を見て思った。
揺れる銀の髪、キラキラと。
(え?か、かっこいい!姿勢もいいし、このひと絶対強い!おじいさまみたい!)
なぜか祖父を思い出すシュガーロッド。
(作者注:青年が地味で、年寄りっぽく見えるのではない、ないですからね!)
槍聖の祖父、シュガーロッドの才能を見抜き、弓を、槍を、狩りや釣りを、そして料理まで教えてくれた優しいお爺ちゃん。
(おじいさまが、いなくなってから何もかも歯車が合わなくなった……私、頑張っているのに……頑張り、足りないのかなぁ……)
迫り来る人物を見て、泣きそうになるシュガーロッド。
(ああ、こんなお方が夫ならよかったのに!)
更に加速して迫る銀の髪!
(え?わ、私の間合い入った!?あっさりと!弓聖でもあり拳聖の資格を持つ私の間合いに!?何者!?)
驚き、固まるシュガーロッドに相手は告げた。
「私は、城塞都市ウンタラの騎士団団長のバイセン・リュウです、神聖マッハン帝国王女シュガーロッドさまですね、お迎えにあがりました」
そう言って、優雅に礼をするバイセン。
(この声、間違いない、姫だ)
「え゛?」
思考停止……再起動。
「え?」
「バイセン・リュウです」
「え?」
思考停止……再再起動。
「ええええええっ!?」
(なななな、なんで?なんで分かったのかしら!?私がシュガーロッドだって!?いや、その前にっ!バイセン・リュウって!?)
慌てて馬車から戻っているソルティ。
獣人族は耳がいいのだ!
「……おじょ……姫しゃま、バイセン・リュウしゃまです、ご、ごあいしゃつを」
そういってギロリ、とバイセンを睨むソルティ・ドルティ。
昨夜の黒い服装ではなく、やや明るめの服のソルティ。
評価したのは横のゲンジロウである。
「明るい服もお似合いですね」
「だまらっしゃい……ん?姫しゃま?」
思考停止中……再再再起動。
(こ、このお方、な、なんか眩しい……目を……目を合わせられないっ!これは……もしかして剣聖の技!?(作者注:違いますよ))
「お、お迎え、ありがとうございます、仰せの通り、私は神聖マッハン帝国のシュガーロッドでがしゅ」
「……(咬んだ)」←バイセン。
「……(咬んだ)」←ゲンジロウ。
「……(咬んだ)」←お付きの騎士団。
「……(咬んだ)」←周囲の者達。
「……(咬んだんでしゅか!?)」←ソルティ・ドルティ。
「……(咬んだ)」+真っ青←本人。
「姫しゃま?」
「……ます……」
「え?」
「……旅に出ます……探さないで下さい……」
ガシッ、と走り出すシュガーロッドを掴むソルティ・ドルティ!
「か、咬んだくらいで旅に出ないでくだしゃいっ!」
「お、夫になる人の最初の挨拶で!あれだけ練習したのにぃ!」
ここで周囲の者達は思い始めた。
おかしくないか?
この姫さま、ホントに悪女か?
噂とかなり違うが?
……天然では?と。
それとも……芝居か?
半泣き上目遣いでバイセン・リュウを見るシュガーロッド。
さて、どうする、バイセン・リュウ?
騎士団、団長として騎士として男として力量が問われた。
ここでバイセン・リュウは、躊躇わず、もう一度同じ言葉と動作を繰り返した。
「私は、城塞都市ウンタラの騎士団、団長のバイセン・リュウです、神聖マッハン帝国の王女シュガーロッドさまですね、お迎えにあがりました」
一回目を、無かったことにしたのだっ!
「ぐすっ……お、お迎え、ありがとうございます、仰せの通り、私は神聖マッハン帝国のシュガーロッドです……」
パチパチパチッ!
「え?」
最初に拍手をしたのは小さな子どもだった。
お芝居でも観ている感じだったのだろうか、ちゃんとセリフが言えたので素直に拍手をしたのだ。
「おねぇちゃん、じょうず!」
「え?……あ、ありがとうございます……」
思わずお礼を口にするシュガーロッド。
するとそれから、大きな拍手が湧いた!
……まさか、王族のお見合いに立ち会えるとは!……
……バイセン様の口上、カッケー……
……騎士の口上、初めて聞いたぜ……
「姫、馬車はどちらに?」
下を向き、黙って指さすシュガーロッド。
皆同じような馬車や荷車がズラリと並ぶ。
「?」
「あれです」
その中の一台、それは一回り小さな馬車であった。
止まる拍手。
……え?……
……おいおい、御者一人にメイドさん一人?……
……王都からだろ?……
……小さくね?あれが王族の?……
……ちょ、扱い酷くね……
……まぁ4回目だしなぁ……
……でもよぉ……
……おい、みんな!道を空けろ!……
ざぁっと列んだ馬車や荷車が脇に下がり、道を空ける。
……なんだ……
……どうした?……
……噂の姫さまが、お通りだとよ……
騎士団が指示する前に、城塞都市ウンタラまでの道が開いた。
これは想定していなかった姫さま御一行。
(え?出戻りで、4回目の私にここまでの敬意を?いや、違う、これはバイセン様に対する敬意だ!この方は民に慕われている!)
「では」
と言って一礼し、馬車に戻ろうとすると、バイセンが引止めた。
「待たれよ」
「?」
ここでバイセン反省。
(あれ?俺、なんで引止めたんだろ?)
そう、昨夜あの声を聞いてから、バイセンはその声の主に対して、思いを馳せていたのだ。
どんな女性なのだろう?
髪は?瞳は?身長は?噂通りの悪女なのだろうか?どんなに考察しても悪女には思えない。
きっと髪は金色であろう、マッハンの王族は金髪が多い、目は?深い緑色?
城塞都市ウンタラは北の辺境、氷の世界だ。
森林はあるが、それ以上に雪原が広がる世界。
暖かい王都から来るのだ、きっと彼女は木々や草花のような、綺麗な深い緑色に違いない。
勝手な想像を膨らませ、シュガーロッドを組み立てていくバイセン。
身長はきっと高いだろうな、マッハンの者はみな長身だ。
ああ、それに武術に長けている者が多い、きっと細身で筋肉質、リュウ一族の俺に似ているのではないか?
悪女かぁ……つり目のキツイ顔立ちだろうか?いや、いや母上はつり目だが優しい。
どのような顔立ちなのだろうか?声からして優しい感じなのだが。
後は噂だな、噂で判断してはいけないのだろうが、火のない所に煙は立たない、火種があるのだろうか?
そしてバイセン、徹夜する。
「で、珍しく寝坊ですか?」
「何のことだゲンジロウ?さぁ姫を迎えに行くぞ」
そしてご対面。
(髪は金色だ!眼も!お、お、思った通り!?し、しかし……な、なんだこの、ちっこい生き物は!?)
平然とした顔をしているが、中身はこんなことを考えていたのだ。
(この人が、俺の花嫁?つ、妻!?)
思わず待たれよ、とか言ってしまったバイセン。
彼はもっと彼女のことを知りたいと思い、周囲のことも、部下がいることも、全てキャンセルして、何も考えず声が出てしまったのだ!
(行くな、君のことがもっと知りたい!)
その思いが、思わぬ行動をとらせた!
「ゲンジロウ、馬を」
「はい」
バイセンは、ひらり、と馬上の人となった。
そしてシュガーロッドに対して、手を差し伸べた。
「え?」
明らかに戸惑うシュガーロッド。
(え?俺は何をしているのだ!?)
もちろん、バイセン本人も戸惑っている!
「城塞まで送ろう……いや、城内を案内する、手を」
(は?俺は何を言っているのだ?)
「……え?」
バイセンの微かに震える手を、これまた微かに震える手で握るシュガーロッド。
手を繋いだ瞬間、ドオオッ!と歓声が沸いた!
ふわり、とシュガーロッドを引き上げるバイセン。
「きゃ!?」
ちょこん、と横座りになるシュガーロッド。
「行くぞ、ゲンジロウ、馬車の警護を」
「はい」
こうして二人は運命の出会いを果たした。
(い、勢いで馬の乗せちまったぁあああ、お、落とさないようにしなければっ!)
(い、勢いで馬に乗ってしまいましたあ、お、落ちなおように注意しなければ!)
……こうして二人は運命の出会いを果たしました?
はい、今回はここまでです。
次回、第4話 サブタイトルは お城にて です。
毎回ご愛読ありがとうございます。
次回投稿は明日のこの時間です。




