第二話 悪女の内訳
投稿です。
毎日この時間になりそうです。
残り六話、お楽しみ下さい。
メイド、ソルティ・ドルティは走る。
目指すは50㎞ほど先のキャンプ地。
獣人族特有の体力を活かし、氷の大地を走り抜ける!
月夜の中、簡素な小さな馬車が見えてくる。
他には何もない。
警備兵一人もいないのだ。
いるのは年老いた御者が一名。
(最初の結婚の時には、30名からのお伴がいたにょに……)
悲しみと怒りに包まれるソルティ。
その馬車の中には、噂の姫君シュガーロッドが静かに眠っていた。
ぱちり、と開く目。
何かが近づいている、有り余る魔力がそう告げる。
ゆっくりと身を起こすシュガーロッド。
金色の髪がサラサラと肩を流れ、ボリュームのある胸が柔らかく揺れる。
「ソルティですか?」
深い緑色の眼が、馬車の窓越しにソルティ・ドルティを捉える。
「お役目、ご苦労様です。寒かったでしょう?早くお入りなさい」
「はい、姫しゃま!」
「どうでした?ソルティ?」
魔法でお茶を温め、ソルティにそっと差し出す。
「ありがとうございましゅ、姫しゃま」
可愛い花柄のティーカップを受け取ると、早速ソルティは報告をし始めた。
「うわしゃとは違っていましゅた」
「そうなのですか?ではどのようなお方で?さすがに3mの殿方は怖いのですが、2mほどですか?」
「……」
猫舌なのだろか、ちびちびとお茶を舐めるソルティ。
「ま、まさか4m!?」
「姫しゃま!人族で4mは存在しないと思いましゅ、そうなるともう鬼族が大型の獣人族、ジャイアントでしゅ!」
「ではどのような?」
「176㎝、58キロ、銀色の髪と黒い瞳、剣技を見ましゅたが、間違いなく剣聖でしゅ」
(176?私より20㎝も!?……58キロ?ウエイトは10キロ差ですか……)
「……剣聖さま……では噂の方は?敵と見なせば皆殺しにするとか」
「そのような方には見えましぇんでしたが?おしゅらく強さゆえの噂でしょう」
「では男女魔物問わず、*モザイク*を*モザイク*して*モザイク*してしまうという鬼畜のような性豪の噂は?」
「ひ、姫しゃまっ!姫しゃまがそのようなこと、口にしてはいけましぇんっ!」
「で、ですが」
そのような人物を夫と呼べるのか?
シュガーロッドは怖くて悲しくなっていたのだ。
「従者の者と、女子の手も握ったことがない、と話しておりましゅた。ダンスもメイドのリンとかいう女性としか練習していないと」
「で、ではそのリンさまと*モザイク*や*モザイク*のようなことを!?メイドは主人に忠実、そこを無理矢理……なんて卑劣な!」
「いやいや、私の調査によりましゅと、メイドのリンは58歳の超ベテランでしゅ」
「ちょーベ、ベテラン!?」
「はい」
「じゅ、熟女好みだったのですか!?」
そんなぁ……熟女?それも超ベテラン?
そんな熟女には勝てない……悲しくなるシュガーロッド。
どうやら想像力豊かな姫君のようである。
「あ?いやいや、そうではなくでしゅね、リンは騎士団や警備隊からとても慕われ、母親的な存在なのでしゅ!心根の優しいメイド長でしゅ!」
「!?……わ、私ったら……なんてことを!こ、これはリン様に謝罪しなければ!」
耳まで真っ赤になるシュガーロッド。
とんでもないことを想像していたようである。
「……その必要はないと思いましゅ……でしゅが」
「?」
「そ、そにょ……バイセンしゃまのHな話しも、単なる噂でしゅ……ただ……」
「ただ?」
さっ、と顔が曇るシュガーロッド。
何か他にも?
「しょの、姫さまの噂が……」
ひじょーに言いにくそうなソルティ。
「あ」
あ、と察するプリンセスシュガーロッド。
「……4回目ですしね」
「でしゅが、一回目の結婚は……」
そう、一回目の結婚は、隣国カンタラである。
そこには、増税に苦しむ民がいた。
姫は増税に反対し、贅沢三昧を追求する王家に喧嘩を売ったのだ。
初日の結婚式場で!
ここがどうも『激しい気性』の噂の元である。
そして姫は民に追われたのではなく、王侯貴族達に命を狙われ、国をその日のうちに追われたのである。
「あのような贅沢尽くしの結婚式、許せませんでした……外では子ども達が飢えて死んでいるのですよ!」
「はい、なぜ王しゃまはそのような所へ嫁に行けと……2度目の時も……」
2度目の結婚相手はかなり傲慢で、女性は子どもだけを産めばいいと公然と言い放つ王子であった。
戦士としてもかなり強く、その強さが傲慢に繋がっていた。
すでに後宮には多くの女性がいて、私の必要ある?と考えさせられる人物。
とにかく全てにおいて俺が上だ、頂点だ、剣聖以上だ!という王子にシュガーロッドは言い放った。
「そこまで言われるなら、スクワット10000、腕立て10000、懸垂10000、素振り10000、私についてこれますか?我が夫なら当然!」
王子は、足腰が立たなくなった。
「姫しゃま、新婚初夜は体力テストの場ではありましぇん」
「え?戦士なら、普通ではないのですか?」
「普通ではないと思いましゅ」
そして屈辱に塗れたこの王子、ついに実力行使にでる!
無理矢理シュガーロッドをベッドに押し倒したのだ!
プリンセスシュガーロッドはここで勘違いをした!
男女の秘め事は、シャワーやお風呂、身を清めた後と思っている。
ではこれは?
シュガーロッドはこの程度の運動、日常である。
!
「あ、スパーリングですね!」
瞬時に膝と腕をキメるプリンセスシュガーロッド!
ボキベキ。
「あ、ごめんなさい、タップしないから……」
ここで離縁である。
「姫しゃま、初夜に関節技は禁止でしゅ!」
「……反省しています。ですが、あのタイミングは違うと思いましたので……その、もっとこう、優しくというか……」
「カモトヒのことも言ってましゅた」
「ああ、あの国ですか……」
3回目の結婚、この時も運悪く結婚式当日に魔物が侵攻してきたのだ!
原因はこの国の強引な土地改良政策。
魔物の土地を強引に奪い、住処を占領し手に入れた土地。
その奪還に魔物達が動いたのだ。
為政者達は逃げ出したが(もちろん花婿も)、シュガーロッドとソルティはこの国に残り、民を逃がし続けた。
そこに現われたのが城塞都市ウンタラの城主ドバシィ・リュウ侯爵と帝国の精鋭騎士団。
彼は奪還を命ぜられ、騎士団と傭兵を率いて見事、その命を果たしている。
ここでシュガーロッドはドバシィ侯爵と会っている。
そこは戦場だった。
「凄まじい強さだな?貴公は拳聖か?民に代わって礼をいうぞ、城塞都市ウンタラに来ないか?」
戦い続け、ボロボロのシュガーロッドとソルティ・ドルティ。
侯爵はこの時、まだ二人を知らない。
「いえ、武芸は嗜みますが、拳聖ではありませぬ侯爵閣下」
「ん?侯爵閣下?よくわしが侯爵と分かったな?……まて、その紋章?……まさかプリンセス……」
「さて?何のことでしょう?もうこの国は大丈夫のようですね、行きましょうソルティ」
「はい、姫しゃま」
「……」←(侯爵:やっぱ姫じゃああああん!)
「……」←(姫:ソルティイイイ!)
「……」←(ソルティ:あ゛あ゛あ゛)
「「では、侯爵閣下、ごきげんよう」」
綺麗にハモり、ふっ、と消えるシュガーロッドとソルティ。
「ま、待たれよ!」
すると、侯爵の横に現われる黒い影が現われた。
「ドバシィさま」
「なんだ?」
「プリンセスシュガーロッドさまは、拳聖を辞退されております」
「なんだと?称号はいらないと?」
報告しているのは城塞都市ウンタラの忍びである。
「いえ、すでに弓聖の称号持ちです」
「はぁ?とんでもない怪物だな」
「はい、そう言われるのがイヤで辞退したそうです、強さゆえの誤解も多く」
「……気に入った、我が息子達の嫁に欲しい!王家に連絡しろ!あの戦い振り、潔さ!なによりも美しく強い!あの魔物の大軍相手に引かなかった勇気!従者の戦い振りも見事!」
「御子息達の手に負えますか?数々の離婚歴がありますが?」
「剣聖がいるではないか!」
こうしてこの二人の結婚が決る。
そう、先に申し込んだのはこちら側、実は城塞都市ウンタラサイドなのだ!
シュガーロッドの強さの秘密は祖父にあった。
プリンセスシュガーロッドの祖父は槍聖だったのだ。
この祖父がシュガーロッドの才能に目を付け、鍛え上げた。
そう、このお姫様、槍を持たせてもとんでもなく強いのだ。
歩く最終兵器、決戦兵器とまで言われるシュガーロッド。
そしてもう一つ、恐れられている事実があった。
それは結婚先が全て神聖マッハン帝国の領土となったことだ。
1度目の結婚先はシュガーロッド離婚後、内乱が起り神聖マッハン帝国が乱を治め属国化している。
2度目の結婚先は、武力衝突である。神聖マッハン帝国に宣戦布告して負けている。
(噂では、骨を折られた恨みが宣戦布告の原因とか)
3度目は前記のとおり、国が魔物によって滅んでいるのだ。
……神聖マッハン帝国第三王女シュガーロッドは悪女ではなく、魔女ではないのか?……
……厄災の女……
……不運を呼ぶ悪女……
噂は広まり続ける。
そう、悪い噂ほど広がりやすいのだ。
その黒い噂は城塞都市ウンタラに届き広まる。
……おいおい、大丈夫か?……
……俺達の城塞都市ウンタラ、厄災の女がくるのか……
……とんでもない悪女プリンセス、バイセンさま、大丈夫か……
「姫しゃま、不運が続きましゅ……なにゆえこんな……」
「仕方のないことです、私ではどうしようもありません。みな人の口から出た言葉」
いつの間にか朝日が昇り始める。
……お目覚めですか?……
外の御者より声が掛かる。
「姫しゃま、本日は城塞都市ウンタラに到着しましゅ、朝餉を用意しましゅので、しばしおやしゅみください」
「……そうさせてもらうわ、ソルティ……」
綺麗な朝日である。
闇を斬り裂き、全てを照らし始める。
その朝日を見て、孤独なプリンセスシュガーロッドはどうか、よい一日でありますようにと祈らずにはいられなかった。
次回、運命の二人が巡り会う!
サブタイトルもそのままズバリ、第3話 出会い です。
次回第三話サブタイトルは 出会い です。
明日、20:50投稿予定です。




