第一話 ここは北の辺境、城塞都市ウンタラ
常連の方も、初めての方も今晩わ。
MAYAKOです。
全八話、初の悪女モノです。
まずは第一話です、お楽しみ頂ければ幸いです。
王都より第三プリンセス(18)を嫁にしろ、と辺境の城塞都市ウンタラの侯爵家に命令が下る。
お相手は侯爵家の第三子バイセン(20)。
結婚話しに沸く城塞都市ウンタラ。
第三子バイセンは騎士団団長でもあり、都民の信頼厚く、人気者。
その人気者の結婚話は、色々な意味で城塞都市を盛り上げた。
色々……そう、このプリンセス、問題があるのだ。
結婚3回の出戻り姫である。
「18で3回!?」
「もしかして、あの有名な?」
「そうそう、第三プリンセス、シュガーロッドさまだよ」
神聖マッハン帝国の遙か北、そのまた遙か北の城塞都市、ウンタラには色々な戦士が集う。
北より侵攻している魔物を防ぐため傭兵が集まるのだ。
荒くれ者達の住処、暴力沙汰は日常茶飯事、一般人はまず近づかない。
噂も集まりやすく、そこはいつも活気と言う名の暴力に満ちていた。
ここはそんな城塞都市ウンタラで、一番デカい居酒屋。
数百人の男女荒くれ共が、酒を浴びるように呑んでいる場所だ。
店内は薄暗く、屋根があるのは一部だけ。
寒さにも負けず、屋外で飲み明かしている屈強な戦士達。
月夜で明るいが、北の大地は寒いのだ。
「お相手は侯爵家の三男バイセンさまらしい」
「おいたわしや、バイセンさま」
「ええっ!?団長さま結婚するのぉ?あたい、ファンなのにぃ!」
城塞都市内で、ファンクラブができるほどバイセンの人気は高い。
「帝国の姫さまって、どんな姫さまなんだ?」
「なんでも贅沢好きで気性の激しい姫さまらしいぜ。嫁ぎ先の国で増税を望み、贅沢三昧をして国を傾けたとか」
「はぁ?」
「すげぇドラゴンのような恐ろしい声の持ち主らしいぞ」
「なんだそりゃ?」
「恐ろしい恫喝で、皆を従えるという話しだ」
「声だけで?」
「ああ、そう聞いたぜ」
「ああ、その話しは聞いたことがある、1度目の嫁ぎ先だな……たしかカンタラだったか?」
「それで、なんでも最後には増税を反対する民に追われて、王都に逃げ帰ったとか」
「増税?ひでぇことするな」
「……夜も激しいらしいぞ」
「はぁ?」
「2度目の結婚の時、あまりの激しさに相手王子の足腰を立たなくさせたとか」
「わはははっ!なんだそりゃ?そりゃオレも是非お相手して欲しいぞ」
「……アバラ8本と両脚骨折だぞ」
「ば?」
「ギルド広報誌にも載っているぜ、なんと国王が正式に謝罪している。一昨年の話しだ!事実だぞ!」
笑った荒くれは、青ざめる。
「ほ、ホントかよぉ!」
「ほれ、あのギルド掲示板の横見て見ろ、切り抜きが貼ってある」
壁に貼り付けてあるゴシップ記事の数々。
その中の一枚に記事があった。
「マジかぁ」
「一国を滅ぼした話もあるぞ」
「はぁ?国をかぁ?それは無理があるだろう?」
「隣の小国、カモトヒ共和国を知っているか?」
「ああ、魔物に侵攻されて滅んだ国だろ?今は我らの城主や国王軍が奪還して、俺達の国になったが」
「あ、あたい参戦したよ!大変だったけどさぁ、あの戦はかなり儲かった!」
「そこに嫁いでいた、って話しだ」
「!?」
「なんでも侵攻と同時に逃げ帰ったらしいぜ」
「……う、うわさだろ!?」
「そう、噂だ。発端は金欲しさに土地改良を推薦したプリンセスが魔物達の土地を奪い、争いが起きたって話しだぜ」
「ひでぇ女だな!」
そんなざわめき立つ居酒屋から、離れる影が2つ。
大きめのロングコートで容姿は分からない。
コツコツ。
石畳の道を歩く二人。
「どうされました?」
「……」
「噂ですよ、バイセンさま」
「し、しかし、あのギルドの広報誌は!?」
「捏造では?面白おかしく記事を書き、売れればいいのです」
「そ、そうなのか?」
「そうですよ」
バイセン・リュウ、城塞都市ウンタラを仕切る伯爵家の第三子で騎士団長。
戦いにおいては城塞都市ウンタラの銀狼、黒眼竜、いくつもの異名がある人物。
垣間見える切れ長の眼に長い睫。
姿勢良く歩き、見る者を魅惑する。
今は人目を引く銀色の髪と、その黒い眼をフード付きのロングコートで隠し、裏路地に入る。
身長は178㎝、体重は60キロない。
一見、痩せているように見えるが、鍛え抜かれた筋肉を隠し持っている。
好きな食べ物は魚で、嫌いな食べ物は基本ない。
何でも食べなさい、という母親の言いつけを守って育ったのだ。
そして今でも守っている。
ちまちまと魚の小骨を避けて食べるその姿は、何故か母性をくすぐるそうだ。
だが、一度戦いの場に立つと、その雰囲気は一変する。
ある者は鬼神と言い、ある者は魔獣と呼ぶ。
味方にすればこれほど頼もしい存在はなく、敵にすれば絶望でしかない。
そう、彼は剣聖の称号持ちなのだ。
彼とまともに戦えるのは槍聖、弓聖、拳聖、聖斧、聖召、勇者、聖女、賢者、獣王、上位クラスの魔物、あ、結構いるな。
まぁとにかく強いのだ。
「なぜ父上や母上は承諾したのだ!?そのような姫を!」
「え?逆らえませんよ?王都からの命令ですから」
「これではまるで、政略結婚ではないか!」
「そうですよ」
あっさり言い放つ従者。
「ゲンジロウ、そう簡単に言うなよぉ!他人事だと思いやがって!」
「はい、他人事です。ですが友であり、上司であり代々侯爵家に使える私としては、おめでとうございます、としか言えません」
「めでたいか?政略結婚が?」
「たとえ剣聖でも王の命令には従う、そう世の中に示したいのですよ」
「示さなくてもいいよ、おれ、権力や王の座に興味ないし、野心もねぇよ!」
とことこと歩き出す二人。
「……代われ……」
「はい?」
「代わってくれ、オレそんな姫と結婚なんてしたくないっ!」
「そうなんですか?でも結婚したらH公認ですよ、夫婦として当然の行為」
「お、俺は女性に興味はあるが、Hだけではないだろう!支え合うとか、寄り添うとか!お互いの…その、なんだ、好意とか尊敬だとか!」
「明日には姫御一行が到着ですよ?さぁもう沢山呑んだでしょう?帰りますよ」
(作者注:この異世界、15歳から結婚、お酒OKの設定です)
「聞けよ、俺の話しっ!」
「はいはい、聞いていますよ」
「うおおおおおおっ!」
城塞都市ウンタラに、三男の雄叫びが響き渡る!
ドバッ!とぶっかけられる水。
「うるさいよっ!酔っぱらい!」
「……すみません」
隣家の2階から降り注ぐ大量の水の固まり。
そう、第三子バイセンは、女性とのお付き合い経験ゼロであった。
剣の修行に今までの人生、全振りしているのだ。
そこに突然の結婚話。
相手は3回の出戻りで傾国の悪女の二つ名持ちである。
「何でオレ?」
またもや始まる自問。
「それはバイセンさまが剣聖だからでしょう」
「はぁ?称号関係ある?」
「噂の姫、城塞都市に押し込め、剣聖の嫁として地方に封印する、どうでしょう?そして先程の野心の確認、これが王家の筋書きでしょうな」
「オレ、女の子の手も握ったこと、ないんですけど?」
「ダンスがあるでしょう?腰に手を回したり。メイドのリンちゃんと練習してたじゃないですか」
(作者注:リンちゃん、メイド長で58歳の超ベテランメイド。騎士団や警備隊の母親的存在で、みな親しみを込めて団員、隊員はリンちゃんと呼ぶ)
「じゃ、それだけだ。だいたい、手を握る機会とかあるのか?」
「そりゃお付き合いすればあるでしょう?」
「オレは全ての行程、吹っ飛ばして結婚なんですけど?」
「政略結婚ですからねぇ」
「断れねぇの?」
「くどいなぁ、王都からの持参金、前金でもらってみんな前回の魔物の侵攻で使っちゃいましたからねぇ」
「使うなよっ!俺の金だろーが!」
「いやいや、城塞都市、みんなのお金ですよ」
「おかしいぃだろおおおおっ!」
どばっ!
再びぶっかけられる水。
「うるさいっ!騎士団呼ぶよっ!」
「……しいません」
「さぁ、明日は主役ですよ」
「脇役でいい。だいたい兄貴より先に結婚していいのかよ?兄貴達が先では?」
「断られたそうですよ」
なんだそりゃ?
一瞬、固まるバイセン。
「はぁ?俺は断れねぇのかよ!王の命令じゃなかった…のか……よ?」
「!?」
「ゲンジロウ!今、悲鳴が聞こえなかったか!?」
「北口からのようです!」
「行くぞっ!」
一気に酔いを魔力で醒まし、風のように走り出す二人。
「いました、ゴブリン7、獣人3です。あと民間人二人」
「おい、あの二人、鍛冶屋の親子じゃないか?」
「そのようです、間に合いません!若、先に!」
自分では間に合わないと判断したゲンジロウ。
剣聖のバイセンとゲンジロウでは間合いが違うのだ。
フッ、と消えるバイセン。
現れた時には、ゴブリン7匹、全て斬り伏せられていた。
凄まじい剣聖技である!
「!?」
驚く獣人達!
が、その獣人もあっという間に一人になる。
斬ったのはゲンジロウと呼ばれていた人物だ。
斬られた獣人は燃え上がり、絶命する。
源源治朗義次、ウンタラ騎士団副団長で、古くからこの地に住んでいる豪族である。
身長は196㎝に80キロ、黒い髪に黒い瞳の22歳の好青年である。
こちらも城塞都市民の人気、信頼高く、バイセンと人気を二分している。
「ゲンジロウ!獣人は回復力が速い!それを上回る……!」
「攻撃でしょう?分かっていますよ、若」
「警備隊は何をしているのだ!魔物の侵入を許すなど!」
魔力を帯びた剣で、残り一人を斬るゲンジロウ。
……グワッ……
炎に包まれ、火柱になる獣人。
「大丈夫か?怪我は?」
警戒を解かず、顔見知りの鍛冶屋親子に寄り添うバイセン。
明らかに安堵の顔を見せる親子、それは騎士団に対する信頼度の証。
「あ、ありません、バイセンさま、ゲンジロウさま、ありがとうございます!」
「ゲンジロウ、家まで送れ、俺は北口を見てくる」
「若、お一人では……」
ここで突然、燃え尽きた灰の中から黒い霧のようなモノが立ち上がる!
「なっ!?」
「この獣人、吸血鬼の属性も!?」
サクッ!
……グワアアアアッ……
黒い霧は文字通り霧散し、周囲に異様な臭いを残した。
「この臭いは?」
「呪符でしょうか?」
そう言って、斬った人物を軽く睨む二人。
そう、黒い霧を斬ったのはバイセンでもゲンジロウでもなかった。
闇のなかで何者かが蠢く。
(若、手練れです)
(何者だ?)
「私はウンタラ騎士団の副団長、源源治朗義次、お名前をお聞きしたい」
この場合、名乗り返さなかったら即刻斬られる。
騎士団が名乗ったのだ、返さなければ敵と見なされ、死あるのみ。
「……あしゅは……」
「アスハ?」
「あしゅは我が主しゃまの大事な式なのに……」
「!?」
それは幼い声に聞こえた。
「魔物の侵入を許しゅ?……城塞都市ウンタラ……」
「……何者だ?」
「確かに今回で4度目でしゅ……でしゅが、この程度なんでしゅね……」
闇から現われたのは黒いメイド服を纏った少女であった。
「わたしゅは、王女シュガーロッドしゃまに使えるメイド、ソルティ・ドルティ」
「獣人?忍びか?」
身長は160㎝ない、とても小柄な少女である。
犬系の獣人らしく、かわいい尻尾がゆらゆらと揺れている。
「下見でしゅよ、あなたホントに噂の剣豪ゲンジロウ殿か?噂では身長2mの脳筋肉マッチョの万年発情狼と聞きましゅたが?」
「……初対面でその物言い、無礼極まりないな」
「ふん、騎士団を名乗りながら呪符を見抜けにゅとは片腹いたい。お前が本物ならば、所詮辺境の田舎騎士団でしゅね」
ガチン!
「不敬と見なす……団長、斬っていいですか?」
「団長?にゃら、その方が我が主しゃまの婿どにょか?身長3mの脳筋肉マッチョの万年発情猫と聞きましゅたが?」
「どこの噂だ?」
更に怒りが増すゲンジロウ。主が愚弄されたのだ、従者として部下として怒るのは当然である。
「だが先程の剣撃、まさに剣聖しゃま。剣技は合格でしゅが、都市防衛は失格でしゅ」
そう言ってごそごそとポケットから何やら取り出す。
出てきたのは2枚の魔法紙。
「えっと、まもにょが侵入してたかりゃ、こっちかな?」
ソルティ・ドルティが魔法紙を掲げる!
ボウッ!
魔法紙は燃え上がり、王家の紋章が浮かび上がる!
「頭が高い!我が主しゃま、神聖マッハン帝国第三王女シュガーロッドしゃまのお言葉である!」
呆気にとられるバイセンとゲンジロウ。
そして唯々ビックリしている鍛冶屋親子。
王家の紋章は魔法陣に変わり、声が響く。
「魔物の侵入があったのですね、では明日のパレードは中止にします、式は簡易で」
「え?」
「な!?」
「以上である、さらば」
フッと消えるソルティ・ドルティ。
慌てるゲンジロウ!
「ま、待て!待たれよ!パレードの中止など!城塞都市ウンタラのメンツが!」
支度金も山のようにもらっているのだ!(使ってしまって返せないけど)
どこからともなく声が響く。
……メンツ?くだりゃない!パレード中、魔物が現われたらどうしゅる?怪我をするのは民ぞ!明日の警戒もせず、酒を呑むとはこれ如何に?剣聖の名など、さっさと返上するでしゅ……
「ま、待て!待たれよ!」
「よせ、ゲンジロウ。ソルティ殿の言うとおりだ」
ここで鍛冶屋が口を開く。
「ですがバイセンさま、お相手は4度目の結婚、噂の数々、酒を呑みたい気持ちも分かりますぜ」
「はは、分かってくれる?だが、やはり呑むのはマズかったな。明日の花嫁に対して失礼な行為だ。ゲンジロウ、騎士団招集、警備隊だけでは警戒に無理があるようだ」
「はっ」
「それにしても、だ」
「どうされました?若?」
「あのメイドの物言い、噂の悪女とは違う印象を受けたが?お前はどう思う?」
「気に入りませぬ、田舎騎士団などと……」
「ふふっ、明日が楽しみになってきたぞ!」
「……若、声に惚れましたか?」
ぎくっ。
「はぁ!?う、うるさいっ!」
そう、魔法陣から響いた声は、歌姫のように透き通った、とんでもなく優しい声だったのだ!
(この声の持ち主が悪女?)
バイセンは見知らぬ花嫁に新たな興味を覚えた。
そしてこのパレード中止は噂になる。
プリンセスシュガーロッドの我儘で中止になった、と。
今回はここまでです。
第二話のサブタイトルは 悪女の内訳 です。
近日投稿予定です。




