二百二十八
ホクホク顔のセクハラオッサン達が牢から出て行って暫し、何処か遠くから誰かの悲鳴が私の耳に届いた。
「だから道中気を付ける様に。とお伝えしたんですがね……」
その言い回しはこうなる事を予め知っていたな。
「……何をしたの?」
「いいえ、別に何もしていませんよ。ただ、『賊』がトラップに引っ掛かっただけです」
そういえばおばさまは言っていた。錬金術の漏洩を防ぐ為に、敷地内には数々のトラップが仕掛けられている、と。つまりここは、タドガー邸の何処か。という事だ。
「酷い事するわね。何も殺す事は無いでしょう?」
「殺した。だなんて人聞きが悪い。言ったでしょう? 『賊が勝手に』トラップに引っ掛かったんですよ」
うっかり口を滑らせて、計画がバレない様に口を封じた。の間違いでしょ。
「さて、本題に入る前に、まずはお礼をしておきましょう」
「お礼……?」
「ええ。確かブラッディルビー。とか言いましたっけ。あなたがお渡し下さったお陰で、色々と知る事が出来ました。有難う御座います」
どんな事を知ったのか気になる所だけど、これからの事を思えば聞いている場合じゃ無い。
「……おや。お気になりませんか?」
「感謝ついでにこのまま逃してくれない?」
そう言った途端、タドガーの表情が変わった。その顔はまるで、無邪気な子供の様だった。
「そういう訳にはいきませんよ。あなたには色々と聞きたい事がありましてね。あの宝石は何処で手に入れたのですか?」
カーン君に扮していた時は家宝だと言っていたが、その正体がバレた以上は通用しないだろう。
「何処って……森の中よ」
「森?!」
私の言葉にタドガーの背後でニヤついていたフォワールが驚く。
「森って死の森の事か!?」
「ええ、その森よ。近くを散歩していたら赤く光るモノを見つけて持ち帰ってきたのよ。おばさまは、魔物の核かもしれないって言ってたわ」
「ホウ……」
タドガーの目がスッと細くなった。そして、内ポケットから何かを取り出してテーブルの上に置いた。それは、私が産んだブラッディルビー。
「それは面白い話を聞きました。仮にコレが魔物の核だとして、何故今まで魔物化しなかったのですかね……」
魔物は致命的なダメージを与えると、その姿を維持出来なくなり、核と呼ばれる部位だけを残して消滅する。通常は、冒険者ギルドへと核を持ち帰り処理してもらうのだが、そのまま放置すると魔素を吸い上げて復活してしまうのだそうだ。
「そんな事言われても知らないわよ」
「なるほど。では、コレはどう説明するのですかね……」
タドガーはドクターコートをバサリ。と靡かせ、腰のベルトから吊るした麻袋を取り出す。そして、その中身をテーブルの上に置いた。
テーブル上に置かれたのは、ソフトボール大の水晶球。そこから奥の壁に向かって光が放たれ、その壁に映し出されたモノに、驚きを隠す事など出来なかった。




