二百二十七
ギギィ……。重そうな扉の音が牢屋に反響する。同時に、それぞれ寛いでいた三人の男が、私から見て左の方に視線を向けた。
「お約束通り、連れて来やしたゼ」
「うむ、ご苦労だったな。流石の手並みだ。下郎共とは訳が違う」
彼等の依頼主であろう者の声を聞いた瞬間、私の肌が粟立った。そして、その声の主が私の前に姿を見せた時、想像が確信へと変わった。
「あんたは……フォワールっ!」
「おお、そうだぞ。お前達下民共が敬愛するフォワール様だ。んん? 頭が高いぞソコへ跪け」
「どうして……あんたは植物状態の筈じゃあ……」
オジサマから聞いて以降、興味も無かったからコイツの事は頭からスッポリと抜けていた。
「とある方のお力添えでな、この計画の為に周囲を欺く必要があったのだよ……」
フォワールはそこで言葉を途切らせ、そしてその身に殺気を纏わせた。
「そう、総てはお前に復讐する為だ。カーン=アシュフォードっ」
和やかな表情で話していた先程とは打って変わり、鬼の様な形相で私を睨み付ける。
「冠位も持たぬ下賤の輩がよくもまぁ、このワシを小馬鹿にしてくれたもんだな。お陰でワシは良い笑いもんだ。本来なら、『リブラ』の小娘共々ワシの高貴さをその身体に叩き込んでやる所だが、今の所はお前で我慢してやろう。覚悟しておけよ?」
「それは構いませんが、殺さない程度でお願いしますよ」
壁の向こう側から別な声。その声も聞き覚えのあるモノ。二メートル近い長身の割に、ひょろりとした頼りない身体つき。ドクターコートを羽織り知的に見えるが、中身は罵られたりするとゾクゾクゥってきちゃう変態さんだ。
「お久し振りですねぇカナさん。相変わらず良い表情をなさる」
「ラインマイル卿……」
最悪だ。考えうる限り最悪なヤツラがタッグを組んでいた。
「どうして……」
「どうして? 私はあなたに言ったではありませんか。『錬金術学的に非常に興味がある』と。機が熟したので、こうしてご足労願ったのですよ」
機が熟した……?
「それってどういう意味……?」
「それよりも……『サヒタリオ』、彼等に報酬を渡しなさい」
「はい。承知しました」
フォワールは腰に下げていた麻袋を手に取り、セクハラオッサンに手渡した。
「こ、こんなに……?」
「ええ、素晴らしい仕事ぶりでしたからね。少しイロを付けておきました」
「へへ……そいつぁ助かりやす。それじゃあっし等はこれで」
「ええ、夜も深い。道中気を付けて帰って下さい」
「へへ、又のご利用をお持ちしておりやすぜ。じゃあな、ネエちゃん。立派に生きろよ」
そう言い残し、セクハラオッサン達は出て行った。それから少し間を置いて、何処か遠くから誰かの悲鳴が耳に届いた――




