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二百二十六

 冷酷な目つきの男が腰から取り出した、街灯にギラリと光ったソレに顔が強張る。


「ほう……目つきが変わったな。怯える子羊の目だ」


 トラウマ。過去に滅多刺しに会った記憶は今も抜けない。似たような短剣を見掛ける度に、身が(すく)み汗が吹き出る。そしてコイツの目もまた、私を萎縮させるのに十分な効果を発していた。コイツ、ナンパやチンピラとは違う。


「私を、殺すつもり……?」

「いいや、殺しはしない。お前を生け捕りにする事が条件だからな」


 生け捕り……? それってつまり、狙いは私の身体か或いは……。その考えに至った瞬間、ゾワリと身の毛がよだつ。まさか……コイツ等に誘拐を指示した人物は、私の力の事を知っている?!


「大人しく眠ってくれれば良かったのだがな。薬が効かぬとあらば、少々痛めつけて昏倒させるしか無いだろう?」

「じ、冗談じゃないわ。私はあなた達の玩具じゃ無いのよっ!」

「それは依頼主に言ってくれ。我等は報酬分の仕事をするのみっ!」


 冷酷な目つきの男が短剣を携えて駆け出した。鋭く尖ったその切っ先に、身体が萎縮してしまって身動きが取れない。『お願い動いて、私の身体っ。この二ヶ月何の為に訓練してきたのっ? 自分の身を守れる様になる為でしょっ?!』それを頭の中で繰り返す。しかし、切っ先が胸に押し当てられるまで、私は何もする事が出来なかった。


 胸に押し当てられた短剣がこのまま進めば、肉を裂いて苦も無く身体に入り込み、筋を切り裂きながら心臓へと至る。冷や汗が止まらない。震えが身体の芯から訪れる。恐怖が全身を駆け巡っていた。恐怖と混乱が、ミキサーで掻き混ぜられた様にゴチャ混ぜになり、何も考えられなくなっていた。


「チェックメイトだ」


 冷酷な目つきの男がそう言うと胸に留まり続けていた短剣が引かれ、代わりに腹部に強い衝撃を受ける。そして、後頭部に感じた衝撃を最後に意識が途絶えた――




 頬に感じた冷たい感触で目が覚める。人の手で加工された石畳。窓も何も無い壁。そして、ガッチリと嵌め込んである鉄格子。ソコは灯台の地下牢に似てはいるものの、磯の香りがしない事から別な場所なのだろう。


「いよう、目が覚めたかネェちゃん。さっきはよくもやってくれたな」


 セクハラオッサンが鉄格子越しにそう言うが、アレはあんたが勝手に吸引したのであって私の所為じゃない。


「私に使う眠り薬を吸引しちゃうなんて、間抜けにも程があるよね」

「んだとぅ! おい、鍵を寄越せ! この嬢ちゃんはデカイのをネジ込んでやらねぇと分からないらしい」


 相変わらず下品な発想だな。


「落ち着け、オレ達の仕事は済んだ。そんな小娘に構って報酬を下げられたりでもしたらつまらんぞ。それに――」


 言う程デカくないだろ。と、テーブルに置かれたコップの中身をグイッと(あお)る冷酷な目つきの男。


「チッ、分かったよ。……もうすぐオレ達のクライアント様がいらっしゃる。お前にはどんな結末が待っているかは知らねぇが、精々地獄を見るんだな」


 セクハラオッサンがそう言ったと同時に、重そうな扉が開かれる音が聞こえた――

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