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二百二十

 運動不足な者が、突然素振りを千回やるとどうなるか? その答えが、コレである。腕は細やかに痙攣し、物を掴もうにもスルリと落ちる。スプーンを使ってスープを掬う事は出来ても、それが口の中に入る事は決して無い。


「どうした? 食べないのか……?」

「食べたいんですけど……」


 食べたくても食べられないんですって。だからオジサマ、食べさせてくれませんか?


「あら、カナちゃんどうかしたの?」

「運動不足が祟ったんですよ」


 加えてあんた達が悪戯するからよ。


「あらあら、それじゃせっかくのご飯が食べられないわねぇ。カナちゃん、立てる?」

「え? はい、それは何とか」


 バランスを崩して転ばない様気を使いながら、震えが止まらない四肢に力を入れて立ち上がる。するとおばさまが背後に回った。


「ジッとしててね……」

「え……?」


 おばさま、まさか……。整体師が芸人さんにする様な、ボキッ。とかゴキュッ。とか、痛そうな音がする事をやるつもりじゃ……


「慈悲深き至高神よ。この者の傷を癒し給え……」


 背中に添えられた掌から、ポカポカとした温かい何かが全身を巡る。気付けばいつの間にか、手足の震えが止まっていた。


「あ、あれ……?」

「『祈り』と呼ばれる神術ですわお姉様」


 精霊の力を無理やり引き出す事を『魔術』と言い、精霊と契約して力を借りる事を『魔法』という。そして、神様に祈りを捧げ、奇跡を起こす事を『神術』と言うのだそうだ。


「身体回復の術を掛けたわ。これでもう大丈夫な筈よ。ちゃんと栄養取って明日からも頑張ってね」

「あ、有難う御座いますっ」


 おばさまにお礼を言って席に座り、良い香りを放つ料理に手を伸ばした。


 ――翌日。ベッドの上に大の字で寝転がり、天井を見つめたままで身動きが取れない私が居た。少し、ほんの少しでも身体を動かせば、もれなく全身に痛みが走る。


「おばさま……全然大丈夫じゃないんですけど……」


 迎えに来たリリーカさんが私の異変に気付き、おばさまに再び祈りを掛けて貰うハメになったのだった――




 あれから約一ヶ月。素振り千回によって生まれたての子山羊の様にプルプルと震えていた腕や脚は、今では平然としていられる程になり、朝から晩までかかっていた時間も、お昼くらいまでには終わらせる事が出来る様になった。


 何より嬉しいのは、訓練を続けた事によって余分な脂肪が落ちて、身体の線が細くなった事である。


「うふふ……我ながらナイスバデェね」


 下着姿のままで姿見を見ながら、色々なポーズを取ってみる。筋肉も大分付いた様で、マッチョ……もとい、アスリートの様な身体つきになっている。


「さて、と」


 身体の隅々まで眺めて堪能した私は、日課の瞑想をすべく個室へと向かった――

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