二百八
ルリさんの魔術講座。基本を学びいざ実践。だがしかし、誰にでも使える超初級魔術も、私にかかれば破綻をきたす。
「なんでやぁぁぁっ……」
切実とした声が漏れ出した。
「攻撃魔術ならともかく、生活系魔術すら発動しないなんてね……」
「お母様。その様な事が稀にあるのですか……?」
「いいえ、私も初めて聞いたわ。魔術が全く発動しないなんて人」
ま、まだだ。まだ『闇』の生活系魔術を試していない。そうよ、私は闇の魔術使いだったんだわっ。だから良いの。他の魔法が使えなくてもっ!
「お、おばさま。まだ『闇』の魔術を試してないですよ。さあルリさん教えて下さい、『闇』の生活系魔術をっ!」
「……在る訳ないじゃない。そんなの」
詰んだぁぁぁっ!
「なんでやぁぁっ……。魔力だけ吸い上げておいて、詐欺やないかぁぁぁっ……」
「魔力を消費している!? ねぇっ、それ本当なのっ?!」
鷲が獲物をガッチリと掴むかの様に、ルリさんは私の肩を掴む。
「グスッ、そうよ。なんかすうっと血の気が引く様なのがそうなんでしょ?」
涙声でそう答えると、ルリさん達は互いに顔を見合わせた。そしてルリさんは私を優しく抱きしめる。
「な、なんですか?」
「うん……今の顔すっごく可愛かったから」
慰めじゃないのかいっ!
「うーん、魔力を消費しているのは間違いなさそうね」
「え……? 分かるんですか?!」
「ええ、魔力を使えば使う程、体温が上昇していくのよ」
あ、なんだ。それを確認する為の抱擁か。
「何、その顔」
「いや、タダ抱きしめたいだけなのかと……」
「真昼間から何を変な事言っているのよ。八割は欲情に駆られたに決まっているでしょ」
多いなっ! ってゆーか、分かったのならもう離して下さいっ。
「お姉様が魔力を保持していないのなら、焜炉に火も点けられない筈ですわ」
「そういや、散々お茶出して持て成してくれてたね……」
どうしてソコ嫌そうに言うかな。
「ちょっとこっち来て」
ようやく抱擁を解いたルリさん。今度は私の手を掴んで庭の端へと連れてゆく。
「おばさん。何かあった時の為に、結界をお願いします」
「はーい。任せておいてね」
おばさまは親指と人差し指をくっ付けて、オーケーのサインを出した。結界って、一体何をするつもりなんだ?!
「カナさんよく聞いて。これからあなたに攻撃系の魔法を教えるわ」
「攻撃系の魔法!?」
「ええ。初歩的なヤツだけど、その精霊にとっては最大の攻撃手段よ」
呼び掛けを行っている精霊には、同じ下位でも『S』『A』『B』という『ランク』が存在し、それぞれが一つだけ攻撃手段を持っているのだという。
「今から教えるのは下位のランクBの呪文。だけど気を付けて、これだけでも十分に人を殺傷する事が出来るわ」
ゴクリ。と固唾を飲み込んで、ルリさんからレクチャーを受けた――




