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二百七

 ――午後。お昼を食べてほんの少し仮眠を取った後、ルリさんの魔術講座が始まった。魔術は精霊魔法とは違い、『何処の』、『誰に』、『何をして欲しいのか』という三つの『呼び掛け』から成り、そして最後に術の名を口にする。というプロセスを経て術が発動するそうだ。


「例えば、煉獄の園。揺らめく炎纏し存在(もの)。我にひと時の灯火を与えん。ファイヤートーチ」


 ルリさんの指先にボッと火が灯る。


「とまあ、こんな風よ。下位魔術なら丸暗記で誰にでも使えるわ。それより上になると、魔術を理解しないと無理だけど」


 魔法には、『地』、『水』、『火』、『風』、『光』、『闇』。そして奇跡を起こす『祈り』があり、各々の世界に住まう存在に呼び掛けを行うのだそうだ。


「それじゃ、さっき私がやった通りにやってみて」

「は、はい」


 以前から、使ってみたいと思っていた魔術。まさかこんな風に覚える羽目になるとは……


「ええっと……煉獄の園。揺らめく炎纏し存在(もの)。我にひと時の灯火を与えん。ファイヤートーチッ!」


 ボオォォッ。遠くから魔導船の汽笛が聞こえる。私の指先にはルリさんと同じ、ロウソクの炎の様な火が灯されていなかった。


「……へ?」

「何やってんのよ」

「え? ちゃ、ちゃんとやったよ?!」

「言い訳はいいから、もう一度やる」


 ヒドイ。一字一句間違いなくやったのにっ。


「ちゃんとイメージして」

「イメージ……」


 指先にロウソクの炎が灯るイメージを頭に浮かべて……


「煉獄の園。揺らめく炎纏し存在(もの)。我にひと時の灯火を与えん。ファイヤートーチ」


 スッと血の気が引く様な感覚がする。直後、ボオォォッ。っと魔導船の汽笛が聞こえた。ん、さっきより近いな。じゃなくてぇっ!


「なっ、なんで?!」


 折れてしまいそうな細い指が十本もあるというのに、そのいずれにもロウソクの様な火が灯っていない。


「カナちゃん。魔法の才能……無いわ」


 ルリさんの容赦ない言葉に、ズガアンッ。と雷が落ちたかの様にショックだった。


「べ、別なの教えて下さいっ」


 調子が悪いのは火系の魔術だからで、他はきっと……。そう言ってルリさんから、丸暗記すれば誰にでも使える生活系魔術を、地、水、風、光と教えて貰ったが、いずれも成功しなかった。


「な、なんで……」


 ガクリ。とその場に膝を着き、両手を地面について首を垂れる。『誰でも』使えるんじゃないのかよ……


「なんていうか、ここまできたらもう、笑うしかないわね」


 笑わないでっ!

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