二百六
オジサマの横薙ぎ一閃で半ばからポロリと落ちた木剣。その切り口は木の枝で斬ったとは思えない程鮮やかだった。
身体のバネを使っただけでコレ!? その気になれば、ポロリさせられちゃうじゃん。……首が。
「お、やってるねぇ」
「ルリ姉様」
「やっと来たんですね」
「いやぁ、盛大に寝過ごしてた。カナさんも起こしてくれれば良かったのに……」
何度も起こそうとした。だけどその度に、抱き付いて再ベッドインするんだもの。構ってたらこっちが遅れるから諦めた。
「君は……?」
「あ、失礼しました。お初にお目に掛かります英雄殿。私ルリ=ブランシェ。冒険者を生業としている者です」
ルリさんは右手を肩に添え、軽くお辞儀をする。
「カナさんとは見知った仲でして、訓練をする。という事を聞き、お邪魔させて頂きました」
「なるほど。では、ゆっくりと見学していてくれ」
「有難う御座います」
ペコリ。とお辞儀をしてルリさんは高みの見物状態となり、扱かれ続ける私をニヤニヤしながら見つめていた。
――お昼。
「カナさんって脳みそ有る?」
訓練を中断し、お昼ご飯にしようという事で家に戻ろうとしていた私に、ルリさんの口から労いの言葉ではなく、開口一番失礼千万な台詞が飛び出した。
「あ、有るに決まっているじゃないですかっ!」
なんて事を言うんだこの人はっ。ヒトが苦労しているってのに。
「だったらちゃんと考えて。考えもせずにただ真っ直ぐ突っ込むだけなんて、筋肉質の猪と変わらないわよ。相手をちゃんと見なさい」
「……君は何等級なんだね?」
おばさまが作ったオニギリに齧り付いていた動きを止めて、オジサマは頬にご飯を付けたままでルリさんに言う。等級って……?
「お恥ずかしながらまだ白銀でして」
「あら、その歳で白銀だなんて十分立派よ」
おばさまは持ってきたスープをオジサマに手渡す。……白銀?
「冒険者としての格付けですわ、お姉様。銅、銀、白銀、金、白金、緋色金と、六等級に別れておりまして、ルリ姉様は四番目です。ちなみに四番目と云っても、至るまでに相当な努力が必要な等級ですわ」
「へぇ、そうなんだ。オジサマの冒険者時代は何等級だったのかな?」
「それは勿論、緋色金に決まってますわ」
「期待して貰ってスマンが、金だ。ところで、見た所君は魔術士の様だが、そこの世間知らずの小娘に魔術の基礎を教えてやってはくれないか? 白銀等級ならば問題はないだろう」
「他ならぬ『英雄』殿の頼みであるなら、断る理由は有りません。――と、いう訳だから、そこの小娘。そのエロい身体にみっちりと教え込んで、あ、げ、る」
バチリ。と、ウィンクをかましたルリさんに、ゾクリ。と悪寒が走った。




