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二百五

 朝。この時期五時ともなると、陽は東の山並みに隠れて姿を見せずに、オレンジ色した朝日が動き始めた街に光を(もたら)していた。


 若干薄暗くはあるものの、人が通常通りに活動するには十分過ぎる明るさがあり、私はオジサマの家の裏庭で、使い古された木剣をオジサマに向けて構えていた。


「どうした? 何時でも打ち込んで良いんだぞ?」


 オジサマはそう言うけれど、打ち込もうとする想いだけが空回りして、身体が言う事を聞いてくれない。殺気というか怒気というか、とにかくプレッシャーが物凄い。


「お父様、お姉様はど素人なのですから、気を抑えませんと訓練になりませんわよ」

「ん? ああ、そうか。すまなかったな」


 何がどう変わったのか。ソレを正確に表現する事が出来ないが、息が詰まりそうだったさっきよりはだいぶマシになった。それでも、木剣の持つ手は震えているけど……


「やあああっ!」


 私は意を決して、木剣を振り上げたままオジサマに向かって駆け出した。




 どれ位の時間が経っただろう? 見上げる空はすっかり青に染まり、荒い息を繰り返しながら、刈ったばかりの芝生の上に大の字になって寝転がっていた。あれから何回、何十回とオジサマに挑んだが、全然かすりもしない。


「如何でした? お姉様」


 大の字で寝転がる私をリリーカさんが覗き込む。


「し、信じらんない……あんな木の枝で木剣を受けるだなんて……」


 オジサマが持っているのは、非力な私でも簡単に折れる様な細い木の枝。その枝で以って、私の木剣をその場から動く事なく捌き、隙を突いて良く(しな)る枝の先で私の頭を面白い様にピシピシ。と叩いていた。


「お姉様、お父様もそれくらいにして、朝ごはんに致しましょう。お母様が呼んでおいでですわ」

「ああ、ハラが減って死にそうだ。急ぐとしよう」


 そう言ってオジサマは、持っていた木の枝をポイ。と投げ捨てる。私はそれを拾って本当に枝なのかを確かめた。


「これが本物のバケモノってヤツなんだ……」


 欲に目が眩んだバカな女が私にそう言ったが、そんなのはまだ可愛い方だ。と、ほんの少し力を入れただけで、ポッキリと折れた枝を見ながら思っていた。




 朝ごはんを挟みオジサマとの剣術の稽古が続けられていた。


「やああっ!」


 木剣を両手に持ち、薙ぎ払う様に横一閃。オジサマに当たったかと思えた木剣は、右から左へとすり抜ける。直後、ぺピシッとオデコに熱い衝撃が走った。


「痛ったぁ……」

「力任せに剣を振るうな。すぐにバテて戦場では命取りになる。こういうのはな、身体のバネを最大限に使うん、だっ」


 オジサマの木の枝が目の前を通り過ぎ、フワリ。と私の前髪を揺らした。直後、構えていた木剣が、半ばからポロリと落ちた。って、えええっ!?

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