ゴルチェ大陸は遠い
メーリングに戻ったアスランは、祖父のトルーキンの商館で寛ぐ。
「明日には、商隊も着くだろう。香辛料とサラサの生地を売って、イルバニア王国の小麦、ワイン、チーズを買って、ゴルチェ大陸のサーラ王国に売るのか?」
それは、レイテにいる時にトールキンから聞いていた。
「まぁ、ローランド王国に小麦を売る馬鹿達よりマシだが……他に良い遣り方は無いのか?」
ゴルチェ大陸のサーラ王国は、小国が連立する中では、古くから安定している国だ。
ただ、王宮の図書室で調べた結果、アスランには気掛かりな点があった。
「蛇神様を信仰しているのは、別に構わないが……蛇を飼うのは、趣味が悪すぎるだろう!」
上の兄達、そして皆が恐れているヒューゴ王、尊敬されているスーリヤも、別に気にしないアスランだったが、ヘビは嫌いだった。
兄達に知られないようにしていたが、ヘビを見ると、生理的に飛び退きそうになる。
不安を誤魔化すように、サーラ王国との交易で、益を出せる他の方法を考えるアスランだ。
「やはり、現地を調査するべきだよな」
本当は、トールキンの到着を待つ予定だったアスランだが、メリルの疲れも取れた事だしと飛び立つ。
自分のリベルテ号には、トールキンの指示に従うようにと、殴り書きを置いておく。
『メリルは、サーラ王国に行った事はあるか?』
東南諸島連合王国の大使館は、サーラ王国にもあった筈だと、竜任せのアスランだ。
『行った事はあるけど、メーリングからは遠いよ』
空を西へと飛びながら、メリルと話し合う。
『では、メリルはどうスーラ王国へ飛んだのだ?』
メリルは、まだ子どものアスランが無理をしようとしているのに気づいた。
『アスラン、ちゃんと成長してくれないと困るんだ!』
竜騎士としての能力が高いアスランと、将来は絆を結びたいと思っているメリルとしては、ちゃんとした大人になって貰わないと困るのだ。
絆の騎士を得ると、メリルもアスランと同じ時間を生きる。竜は、長命だから、短い人間の寿命に合わせるのは、損だと思われるが、子竜を持つ為なのだ。
だから、アスランが健全な成長をしてくれないと、困るとメリルは、スーラ王国行きを拒否する。
『こら、メリル!』
メーリングに引き返すメリルに怒るアシュレイだが、無茶をしている自覚もある。
『だったら、どのコースなら飛行できるのだ?』
メーリングから、直接、スーラ王国へ行くのが無理なのなら、何処からなら行けるのか質問する。
『普通は、イルバニア王国の西部からアルジェ海のマルタ公国へ行ってからだ。それか、カザリア王国の南端から、ゴルチェ大陸へ飛び、そこから南下するコースだ』
マルタ公国? 北の旧帝国大陸と南のゴルチェ大陸に囲まれたアルジェ海に浮かぶ島だった筈だと、アスランは思い出す。
元は、旧帝国に属していたそうだが、今は確かジャーリス公が治めていると家庭教師が言っていたような?
『あそこは、奴隷貿易と海賊の寝ぐらだぞ!』
マルタ公国の位置を思い出したら、悪評も思い出した。
メリルは、竜だから、人間の国の悪評など知らない。ただ、東南諸島連合王国の竜なので、海賊は許せない気持ちはある。
『海賊の寝ぐらなのか?』
アスランも腹を立てているが、マルタ公国を東南諸島連合王国も旧帝国三国も容認しているのは、何か訳があるのだろうと考える。
『糞爺が海賊や賄賂をとる官僚をもっと厳しく取り締まらないからだ!』
東南諸島連合王国の人は、金儲けが大好きだ。それは、官僚でも同じで、賄賂が横行している。
多少のお礼、鼻薬を超えた賄賂は、東南諸島連合王国を腐らせていると、若い正義感を持つアスランには我慢できない。
それと同時に、海軍も海賊をやっつけてはいるのだけど……退官して、金持ちの商隊の護衛船の船長になる武官多い。
東南諸島連合王国の商隊には、護衛船が付くから、海賊に襲われる事は少ないが……トールキンみたいな大商人でないと、護衛船は雇えない。
つまり、東南諸島連合王国の小規模の商人は、大商人に頭を下げて商隊に参加させて貰うか、単独で海賊に襲われないように祈りながら交易するしかないのだ。
『仕方ない! メーリングの市場を見学してトールキンの着くのを待とう!』
軍艦馬鹿の兄上が、海賊を頑張って討伐してくれるのを願うしかない。
そして、いずれはトールキンの商隊から離れて、自分だけの商隊を持ち、考え通りに海を自由に航海するぞ! とアスランは、やっと自分がまだ子どもなのだと自覚した。
『ゴルチェ大陸は遠いな! でも、いつかはお前と飛んで行くぞ!』
メリルは、アスランの身体が成長して、絆の竜騎士になったらなと同意する。




