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第8話 修道院の保管棚
四八七二の前後番号を追うと、北辺修道院の旧保管棚へ行き当たった。
修道院は吹雪の山裾にあり、石造りの廊下には紙と香草の匂いが満ちていた。案内してくれたシスター・ノーラは、王都の書類箱が昨冬まとめて運び込まれたことを覚えていた。
「箱は閉じたまま保管するよう言われました。中を見るなとも」
「その指示書、残っていますか」
ノーラが持ってきたのは、王都誓約局名義の搬入票だった。だが署名欄にあるのは、死んだはずの元局員の番号。私は紙へ触れる。
署名借用、フェリクス・ローデン。
押印補助、ミレイア・アルヴィス。
「幽霊署名まで使っています」
箱を開けると、再発行を止められた婚礼証や相続証が何十枚も眠っていた。どれも、返れば救われた人生ばかりだ。
「こんなものを凍らせておくために、修道院を倉庫代わりにしたのか」
アルノーが低く言う。私は頷いた。
「王都では、紙を隠せば人も静かになると思っているんです」
けれど、台帳は忘れない。封蝋も、番号も、誰の手で押されたかも。
私は箱の一番上にあった婚礼証を抱えた。ここから返していけば、凍った時間も少しずつ動き出す。




