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第7話 偽りの婚約印
北辺の商家の娘クララ・ミュンツは、婚約破棄の相談で誓約庫を訪れた。
「相手の家は正式な婚約だと言い張るんです。でも父は印を押した覚えがないって」
差し出された婚約証には、王都と同じ歪みを持つ誓約印が押されていた。私は封蝋へ指を触れる。
押印者、ミレイア・アルヴィス。
立会者、フェリクス・ローデン。
用途、偽装婚約。
「やはり同じですね」
私は証をアルノーへ見せた。
「王都の婚礼席を奪うだけでは終わらなかった。誓約印を使って契約自体を売っている」
クララが青ざめる。
「では、私は」
「まだ拘束されていません。本物の誓約は、押した人間の意思を写します。この印は借りた権限で無理に押されている」
私は偽印の無効申請書をその場で作った。クララの肩が目に見えて下がる。
「返せるものは返します」
そう口にした瞬間、自分でも驚くほどしっくり来た。
王都で私が奪われたのは席だ。けれどここでは、奪われた約束そのものを返せる。




