第二話 観光地の下見
前回の話
観光客を怒らせて帰らせてしまった。
雪景色が目の前に広がる。いつもの見慣れた景色。踏み出した歩みが刻まれる。
そうだ家に帰らなければ愛しの妹が待っている。
刻む歩みが増える。いつもの景色。——いや違う。
まばゆい光が目に届く。雪があるというのに熱い。いつもの景色が崩れ落ちる。
そうだ妹は無事だろうか。赤の光に飛び込む。肌に火の粉が舞う。すべての家が音を立てて光を纏う。
「雪!無事か!」
精一杯の大声を出す。帰ってきたのは妹ではないいくつもの悲鳴だった。
カーテンから漏れた光で目を覚ます。布団から体を起こしながら何度も同じ夢を見る自分に呆れる。いつものルーティンを済ませて社宅を出る。新しいいつもと変わらない景色。
開始の入口には大きくAWTと書かれている。Another World Tourismの訳だ。ここに入るときにどれだけ見たことか。社内は数多の種族の話し声が耐えない。
奥にある転移魔法陣に乗る。頭で行きたい階層を思い浮かべる。刹那足元が強く発光する。すぐに景色が変わった。相変わらず変な技術だ。奥にある部署に入る。程よい温度で出迎えてくれた。
「よう氷牙!また顔色が悪いぞ。」
赤髪の鬼族が元気な挨拶を送る。相変わらず観察力が良い。
「おはよう炎魔。またあの夢を見ただけだ。」
「……そんなに暗い顔するなよ。もう過去のことだ。切り替えなきゃいけないんだ。」
「……」
「悪い。」
「いや、いいんだ。」
お前は何も悪くない。切り替えなければ今の仕事が手につかない。切り替えて自分の席に着く目の前には俺のバディがいた。
「お、おはようございます。冬角さん」
「おはよう陽向。目の下が暗いがそういうメイクか?」
「あ、えっとそれは……」
目の下に隈ができているように見えた。十中八九睡眠不足だろう。陽向の場合観光地のリサーチでもしていたのだろう。
「仕事熱心なのは良いけど程々にしておけよ。ただでさえ今日は観光地の下見なんだから。」
「ご、ごめんなさい。足を引っ張りたくなかったので……」
「そんなに心配しなくても……」
「おはようみんな。朝の朝礼を始める。」
上司が部屋の空気を変えた。部署内が椅子を引く音で満たされる。俺も急いで立ち上がる。
「先週の評価トップは鬼島 炎魔、創真 アゲハのペアだ。みんなも見習うように。」
部署内が二人に視線を向ける。頭を下げて感謝の意思を表しているが満更でもなさそうだ。
「そして最近異世界間での違法取引が確認されている。ツアーガードのみんなは見つけ次第対処するように。」
またか。一体何が目的なのやら。
「じゃあみんな今週も頑張るように各自業務に移ってくれ。解散。」
静かに朝会が終わってまたもや椅子を引く音が響く。
「わ、私たちも行きましょうか。」
付箋がたくさんついたボロボロの資料集を持っていた。どこまでも熱心なやつだ。
たくさんの笑い声に包まれる。ここは笑いの花畑。花一つ一つが笑い声を発する。赤い花は甲高く笑い黄色い花は引き笑い、と様々だ。いるだけでつられ笑いを起こしそうになる。どうやら地中にある魔力を排出するときにこのような現象が起こるらしい。興味深い。だが……
「ここのスポット確かに面白いけど声が通りにくいな。」
「そ、そうですね。」
「ん?なんて?」
笑い声が大きすぎて会話がしにくい。ガイドとして致命的だ。
「一旦離れるぞ。」
「は、はい。」
急いで笑いの花畑から離れる。ずっといると耳が痛くなる。
「ガイドするとしたらあまりいい場所とは言えないな。」
「た、確かにそうですね。」
珍しく素直だ。まぁ見るスポットはここだけじゃない。
ここもまた轟音が耳に届くが先程よりも会話ができる。許容範囲だろう。
「お、面白いですね。」
平地の中に一つそびえ立つ山。その山からはマグマが吹き出ている……のではなくマグマが山の中に戻っていく。また、火山灰がアーチを描いて山の中に収納されていく。ここは時逆山と呼ばれる火山だ。
「か、火山に魔力が宿っていて時間を逆行するようです。」
陽向は使い古した資料集で確認しながら教えてくれた。それにしてもたくさんの付箋には何が書いているのやら。
「でも火山だからずっと噴火?しているわけじゃないだろ。ガイドしているときに何も起こらなかったらつまらないよな。」
「そ、そうですね。でも私はこっちを見てほしんです。……えへへ。」
いつものニヤつきをしていることから勇気を出して発言してくれたのだろう。
近くの岩石に近づく彼女は指を岩石に当てて動かす。次の瞬間なぞった跡だけが色を変えた。彼女は腕を止めないで何かを描き始める。
「……できた。」
彼女は腕を止めて俺に見せるように退いた。なるほど岩石に描けるのか。たしかに面白い。……そこには化物としか言いようがないものが描かれていた。
「……一応聞くんだけど何を書いたんだ?」
「ネコです。」
ね、こ?彼女は珍しく自信満々に答えている。どうやら絵心がないようだ。
「……見えませんか?」
「いや、すごく見える。」
あまり指摘しないでおこう。何より彼女が嬉しようにしてるし。
しばらくして書き始めた場所から元に戻っていく。
「一分ほど立つと消えていくんです。」
「これどこで知ったんだ?」
彼女は資料を広げて答える。
「ガイドの研修時代にが、頑張って地元の人に聞いたんです。狩猟とかするときに連絡手段として使うみたいなんです。……えへへ。」
普通にためになる知識だ。つけている付箋はいままでのメモらしい。どこまでも熱心なやつだ。
「ちょ、ちょっとご飯を食べに行きませんか?」
近くの街に移動してきた。自然の明かりは消えてゆき、人工の光が街を覆っていた。陽向が店に目星をつけているようで後をついていく。
「こ、ここです。」
扉を開けるとカランコロンと可愛い音で迎えてくれた。中に入ると香ばしい匂いが広がっていた。
「冬角さんここにに座りましょう。」
ふかふかなソファ席に座り身を任せる。
「こ、このメニューが美味しいとお、思うんです。」
メニュー表のトーストセットを俺に見せて指を指す。まぁあまり食にこだわりはないしこれでいいだろう。
「じゃそれを2つ頼もう。」
彼女は嬉しそうにメニュー表を伏せた。もちろんニヤつきながら。
注文してから五分程度で届いた。トーストから立ち上る湯気が食欲をそそる。
「この特製ジャムを付けて食べるんです。」
トーストを少し千切ってジャムに浸ける。俺も真似して食べるとしよう。
浸けて口に運ぶ。歯で噛むとサクッと音を立てて甘い香りが口いっぱいに広がる。喉に流し込んで後味を確かめる。しつこくなく水が進む。思わず二口目に手を付ける。目の前からあちちと小さく呟く声が聞こえる。
「これ美味しいな。」
「よ、良かったです。実はこのジャムこのへんで取れる魔料だけで作っているみたいで、か、観光にちょうどいいなって思ったんです。……えへへ。」
持っているトーストを止めて陽向をじっと見つめる。本当によく考えている。
「あっえっと興味ないですよね。わ、私のこんな計画。ご、ごめんなさい。」
彼女は顔を真赤にして謝罪を始めた。やばい見つめすぎた。
「そんな事ない。とてもいいアイディアだ。確かに今まで食からのアプローチが少なかったからな。いい仕事をした陽向。」
「えへへへへあ、ありがとうございます。冬角さん。」
「今までもずっとこうゆうこと考えてきたのか?」
「い、いえ最近です。流石にこれ以上冬角さんにめ、迷惑かけたくなかったので。」
……こいつ優しい人間だ。まさか俺のためを思って動いていてくれたとは。なんだか申し訳なくなってくる。
しばらく食べ進める。最後まで味に飽きなくジャムの量もちょうどよかった。
「ごちそうさまでした。」
「ご、ごちそうさまでした。」
陽向も同じタイミングで食べ終わったようだ。
「お会計は私が払いますね。」
「いや俺の奢りでいい。」
陽向は自分の提案を却下されて驚きの表情を示していた。色々考えてくれたんだ。このくらいのことはしなければバディとして面目が立たない。
「い、良いんですか?冬角さん。」
「氷牙で良い。このくらいのことはやらせてくれ。」
さっとお会計を済ました。そこまで値段は張らなかった。
外に出ると空は完全に真っ暗だった。いや街の明かりがあるからよりそうやって見えるだけかもしれないが。
「ほ、本当にありがとうございます。……えへへ。」
「感謝をするのは俺の方だ。それに……すまない。俺は君に負担をかけてしまっていた。」
「い、いえそんな事ないです。」
彼女は素早く否定してくれた。尚更心に来るものがある。
「まぁとりあえずこれからは夜遅くまで仕事をしすぎるな。」
「は、はい。……あ、あの最初に行った笑いの花畑にもう一度行きませんか?」
「今からか?」
「は、はいここからだったら転移魔法もあるはずなのです、すぐ行けるはずです。」
彼女がなんの意味もなく行くわけがない。承諾をして向かうことにした。
小話
陽向はツインテールで高さを合わせるのにいつも苦戦しているらしい。




