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第一話 異世界へようこそ

本格的に開始

「こ、こちらが千頭の竜が目覚める大地。多竜睡平原(たりゅうすいへいげん)です。」

 森を抜けて相方のガイドが説明を始める。いくつもの巨体が寝そべっているってのに寝息だけが聞こえて、空に飛ぶ音なんて聞こえない。

 「ちょっと!寝ているだけなの!」

 寝息を遮るように観光客が声を荒げる。ドラゴンが飛び回る想像でも裏切られたのだろう。

 「えっと……えへへ」

 ガイドは言葉を探して目を泳がす。まだ新人だから言い訳ができないのだろう。

 「なんか言ったらどうなの!」

 見ように高い声が耳を貫く。ガイドは何も言えないままニヤニヤして俺に視線を向ける。助けが欲しいのだろう。……仕方がない。

 足を踏み出し、ガイドの横に移動する。できるだけ相手の目を見て、気持ちを逆撫でしないことを意識する。

 「ごめんなさい。この時期はドラゴンが冬眠しておりまして、眠っているんです。」

 「そんな時期に見せないでよ!」

 ダメだ。やはりこういったクレーマー対応は苦手だ。顔に出ないようにして次の言い訳を捻り出す。

 「ですが、こんな一斉に寝ている景色を見れるのはこの時期のみなんですよ。」

 「あら。そう。」

 観光客の顔が変わった。俺の必死の言い訳に納得したのか強い降水の香りを振り回してスマホと呼ばれるあちらの世界の機器をドラゴンに向ける。他の観光客もスマホをドラゴンに向ける。自分の仕事以外のことをするのはやはり慣れない。

 「あの……あ、ありがとうございます。」

 ガイドは小さく言葉を放つが一向に目が合いそうにない。こいつとバディを組んでからずっとこの調子だ。

 「この景色もいいと思うんですけどね……」

 俺にも聞こえにくい小ささでつぶやいていた。

 みんなそれぞれドラゴンの寝顔を観察するがイマイチ迫力に欠けると言いたげだった。

 「ママ見て!あのドラゴンの寝顔すごくかわいいよ!」

 ただ一人子どもはこの光景に満足していそうだった。

 ……えへへ。そんな声が聞こえた気がした。

 しばらくしてガイドが声をかける

 「つ、次の場所に参りましょう。」

 前方にいたものだけしか聞こえてなかったらしく置いていかれそうになる者もいた。不安に晒せれて森に入るが次が最後の観光場所だ。乗り越えてしまえば今日の業務は終了する。

 最後尾に並び微妙に聞こえづらいガイドの声を聞きながら歩みを進める。突如妙な気配を感じ取る。重く淀んだような気配。魔物だ。最後に自分の最大の業務を行うことになるようだ。

 俺は列から外れて気配がした方に走る。左腰に常に携帯している愛刀の柄を握ると筋肉が肥大していくのが分かる。自身の身長と同じ程の魔物の姿が見えて足を止め、呼吸を整える。理性のないような獣種と目が会い、お互いを観察をする時間が流れた。魔物は飯にありつけると考えたのかよだれを垂らして勢いよく地面を蹴る。

 柄を再び握り、力強く抜刀する。魔力を愛刀「凍玻璃(いてはり)」に流し込む。銀に輝く刃が魔力を流されるたびに冷気をまとい霜を作る。

 魔物の勢いは止まることを知らない。だが直線の移動のみだ。俺は勢いよく地面を蹴り高く舞い上がる。刃を魔物の首に当てた途端バキバキと凍りつく。刹那、魔物の首と体は別れを告げた。地面に足をつけて凍玻璃を鞘に納める。カチャ。その音を合図に魔物の体は灰になった。

 「ふぅ」

 呼吸を整えてガイドが心配になり次の観光地に急いで戻ることにした。

 次の観光地は水の精のオーケストラの森だった。黒い森の中にぽつんと輝く湖の水面は神秘的だった。どこか甘いような香りが心を落ち着かせる。だが、木々が擦れる音のみしか聞こえない。観光客とガイドの姿はなかった。……この観光地一番の名物の水の精による一人演奏会をやっていない気がする。

 急いで到着地点についた頃にはガイドに怒る観光客を俺の上司に当たる人がなだめていた。十中八九最後の場所で演奏が聞けると聞いていた話と違って気持ちを裏切られたのだろう。観光客は顔を赤くして疲れた様子で帰宅用のゲートに向かっていった。

 陽向はペコペコと上司に頭を下げていた。

 「ご、ごめんなさい。……でも、神秘的な水面を見てほしくて。」

 小走りで二人の方へ駆け寄る。

 「一体何があったんですか?」

 二人の会話に割り込んで質問する。二人とも少しの間驚愕の表情を浮かべていたような気がしたがすぐに収まった。

 「氷牙(ひょうが)くんか。どうやら声が小さいとか、予想していたのと違うとか文句を言われたらしい。」

 「いつものやつですか。」

 「……えへへ」

 彼女は緊張するとニヤけてしまうのが彼女のクセらしい。両手を絡ませながら話を聞いていた。

 「まぁ次から頑張ってくれ。君たちも立派なツアーガイドになってくれ」

 「上司。その言葉何回も言ってますよ。」

 上司はその言葉を最後に立ち去っていく。それにしても少し呆れてしまう。上司は陽向に甘すぎる。いま間違いなくうちの会社で一番売上と評価が低いのは俺達だろう。

 「冬角(ふゆつの)さん。また、やっちゃいました……。」

 「この調子だと、本当に危ういぞ。」

 「で、ですよね。あはは……もっと練習してきます。……今日もありがとうございました。」

 「もしかして今日のことわざとか?」

 「え、えと、何がですか……。

 「分かってたでしょ。今日はドラゴンたちも冬眠しているし、水の精も休んでいるって」

 彼女はモジモジしながら目を泳がせる。どうやら図星らしい。

 「だ、だって知ってほしかったんです。ドラゴンのみんなは飛んでいるだけじゃなくて寝ている姿もか、かわいい~みたいな。あ、後あそこの水面もす、すごくきれいで演奏があるときはじ、じっくり見れないから見せてあげたいな〜って思って……えへへ。」

 自身の考えを詰まりながらも出し切ってどこか満足している顔だった。

 「確かに普段見れない光景が見れて俺は新鮮な気持ちだったけど、俺達は観光ガイドとして一番めぼしい物を見せるべきじゃないのか。」

 「そ、それだけじゃダメなんです。もっと表面的なことだけじゃなくてそ、そのもっと知ってほしいんです。」

 短い静寂があたりを包んだ。彼女の本心に初めて触れたような気がした。

 「わ、私先に帰らせてもらいますね。えへへ。」

 沈黙に耐えかねたのか彼女はそそくさと逃げるようにこの場を離れた。

 俺は残りの行った観光地の点検に入ることにした。

 魔法の塔や友好スライムとの戯れ場などの点検を終わらせる。多竜睡平原についた頃には日がすっかり落ちていた。

 「ここも問題なしっと」

 一通り見回りをしたが落とし物や注意書きの看板が崩れていたりはしない問題なしと言える光景だった。ふとドラゴンを見てみる。昼に聞いた陽向の言葉を思い起こす。

 ——寝てる姿もか、かわいい~みたいな。

 その巨体には似つかないおっとりとして安心している表情を見せていた。よく見てみると子どものドラゴンを中心として円状にいくつものドラゴンが眠りについていた。子どもを守るための戦略なのだろう。

 「……かわいいな」

 陽向が見せたかった景色は確かにいいものだった。

毎日投稿できるかな⋯

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