13.ヒールの残響
ゼノがヴィヴィアンのことを意識するようになったのは、ルミナス・クラウンに入社して四年目。自分の部下がオーダー表の指示書を書き間違え、その尻拭いを彼女が一人徹夜で請け負ったと知った時からだ。
それまでは、ただひたすら、服飾狂いのイカれたうるさい女だと思っていた。
確かに、仕事はできた。人並外れた服飾品への愛と情熱、確かな知識。販売員としてのセンスは申し分ない。しかし現実的な数字への理解が乏しく、こちらとの擦り合わせに快く応じた試しがない。ゼノにとっては常に目の上のたんこぶのような存在だった。
だから、そんな彼女がただ服飾品への理想や夢ばかりを追うのではなく、目の前のトラブルをその身一つで解決したと知った時、何か、雷に打たれたような衝撃を受けたのだった。
『私にネチネチ言うのと同じくらい、自分の部下の仕事もしっかり見なさいよ、ポンコツ!』
手厳しく自分の仕事の詰めの甘さを指摘され、ぐうの音も出なかった。ルミナス・クラウンで働き始めて数年、仕事にもすっかり慣れてどこか気が抜けていた自分を見透かされ、その頬を強く打たれた気がした。
翌日、手柄を高慢にひけらかすかと思っていたら、彼女は存外いつも通りの気だるい態度で、肩透かしを食らった気分だった。せめてもの礼にと差し入れた昼食にも文句をつけられる。貴族の女性たちが好む白パンを冷めた目で見つめ、「雑穀パンが良かった」と不満げに唇を尖らせていた。
それ以来、ヴィヴィアンに食事を差し入れる時には、必ず彼女の好みそうな品を選ぶようになった。
「ヴィヴィアン、お見合いをしたんだって?」
ある日、フロアの全体会議の後。
主要スタッフたちと百貨店近くのレストランで昼食をとっていた時のことだ。ゼノの隣に座っていた噂好きの副支配人が、ニヤニヤとした笑みを浮かべて身を乗り出した。ゼノの斜向かいで黙々とサラダを口に運んでいたヴィヴィアンは、一瞬で眉間に深い皺を刻んだ。
「なぜご存知なんですか、そんな話」
「着飾った君が、流行りのカフェで身なりの良い男と楽しげに過ごしていたと若いスタッフから聞いたんだよ」
「はぁー、もう本当、野暮ですね。噂好きの男って、魅力がないですよ」
「照れるな、照れるな。で? 首尾はどうだったんだ? お相手は男爵令息だと聞いているが」
「ねえ怖い! どうしてそんなところまで詳しいわけ!?」
ヴィヴィアンは行儀悪くカシャリと音を立ててカトラリーを置くと、白ワインのグラスを一気に煽った。
「君も、もう二十四歳だろう? 貴族ならそろそろ焦らなければいけない年齢だ」
「私はほぼ平民ですから。心配ご無用です」
「失礼、まあそう怒らずに。で? どうだったんだい?」
「どうもこうもありませんよ」
グラスの半分を空けて、ヴィヴィアンはナプキンで口元をそっと拭った。
「見た目も中身も、とてつもなくつまらない男でした。まあ、向こうも同じように思ったんじゃないですか。双方から断りを入れて、それっきり」
「ははぁ、手厳しいなぁ。君はね、黙っていれば文句なしの美人だと思うんだが、その性格がなぁ」
「何よ。私ほど素直で、仕事熱心な者もそういないと思いますけどね」
「君はちょっと、いろいろと正直で熱烈すぎるから」
「なあ?」と不意に同意を求められ、ゼノはステーキを切っていた手を止め、ヴィヴィアンへと目を移す。ジロリとお互いの視線が交差し、すぐに逸らされた。
「お前は、マネキンとでも結婚した方がいい」
「あーら、そうね。珍しく気が合うわ。私もそう思っていたところ。素敵なご提案をありがとう」
サラダに鋭くフォークを突き刺しながら、ヴィヴィアンは嫌味ったらしい笑みを美しく浮かべた。彼女は先ほどから野菜や副菜ばかりをつついており、メインのステーキにはほとんど手をつけていない。
(肉を食わないから、そんなに細っこいんだ)
半袖のブラウスから伸びる白く華奢な腕を見て、そんなことを思った。
彼女は女性の中でも特に細身に見える。身長はさほど低くないはずだが、いつも高いヒールを履いているため、それを脱げば本当はどうだか分からない。華のある顔立ちと気の強さゆえ存在は大きく感じられるが、時折ふと隣に立たれた時、その細い体つきに妙な儚さを感じる瞬間があった。
以前はそんなことなど思いもしなかったのに、ここ二年ほど、その感覚は強くなる一方だった。
「ランバートはどうなんだ? お前も良い歳だろう。今、いくつになったんだっけ?」
彼女の細い手指の先、よく手入れのされた桜色の爪をぼんやり眺めている中で急に話を振られ、一瞬何のことかと言葉に詰まった。すぐに自分への結婚の問いだと分かり、ゼノはわずかに眉間に皺を寄せる。
「二十七ですね」
「もう、そんなになるか。お前は子爵令息だろう。縁談はないのか?」
「俺は三男で爵位も継げませんから。騎士崩れの半端者は、そうモテるものでもなくてね」
「そんなものかね。店の中には、良いお相手はいないのかい?」
もうすぐ四十になる副支配人は悪い男ではないが、少々デリカシーに欠けるところがある。彼自身は十数年前に結婚して子供も数人いるらしいが、顔を合わせるたびにこうしてすぐに色恋の話を振ってくるのが煩わしかった。そんな内心を顔には出さず、ゼノは必要最低限の愛想笑いを顔に貼り付ける。他人から見れば、ほとんど無表情に近いものであったが。
「さあ。なんせ、マネキンと結婚しようとする女がいる店ですからね」
「ちょっと、あんたの話に私を巻き込まないでよ」
ヴィヴィアンが鋭い声を上げる。案の定、そこから副支配人のターゲットは再び彼女に移り、その恋愛事情が根掘り葉掘り暴かれることになった。
とは言え、真実として彼女には大して浮いた話はないらしい。その容姿や華やかな営業スマイルに惹かれて近寄ってくる男は少なくないようだったが、ヴィヴィアン自身に全く応える気がないのだ。とにかく服飾品にしか興味のない彼女は、色恋や結婚にも全く関心を持てないようだった。
「ねえ。このお肉、食べちゃって」
食事の終わり際になり、ステーキの大半を残したプレートをゼノに向かって雑に突き出し、ヴィヴィアンは高慢に言った。
「ほら。パクパクっと」
「お前……食いさしを人によこすな」
「あー、お貴族様はこういうのダメなんだっけ? でも、勿体無いから。どうせあんたもそれだけじゃ足りてないでしょ」
「勿体無いと思うなら、自分で食え」
「昼間からこんな分厚い肉、食べきれないわよ。はい」
渋々プレートを受け取り、冷め切った肉にナイフを入れる。すっかり硬くなった肉は、噛むほどに脂の重たさが口の中に残った。
「あれ、大丈夫ですかね」
ヴィヴィアンは今日も店頭で貴族の男から声を掛けられ、鉄壁の愛想笑いで応対している。離れた位置から部下のメアリーに呼び止められ、ゼノは彼女と二人で戸棚の陰からその様子を見守っていた。それがたんなる販売の接客ではないのはすぐに分かった。男がヴィヴィアンの手を取り、その甲を意味深にさすっていたからだ。あまり長引くようなら助けに行こうかと身構えていたが、そうする前に男は早々に立ち去ってしまった。
「チーフ、大丈夫でしたか?」
「なぁによー。見てたならさっさと助けにいらっしゃいよね」
他客の目もあるため声を潜めつつ、ヴィヴィアンはうんざりした顔で撫でられた手の甲をぐいぐいと拭った。
「ウィンザー伯爵家のご長男ですって。運命のお相手を探して彷徨っていたらやっと私という薔薇に出会えたらしいけど、こちらに大した家名はないと告げたらあっけなく手を引かれたわ。薔薇と野菊を間違えているようじゃ、運命のお導きも当てにならないわよね」
「チーフは野菊というより薔薇っぽいのは分かりますけどね。棘がいっぱいで」
「メアリー、茨の鞭で打たれたくなければさっさと新入荷のブレスレットを倉庫から持ってきて」
部下を睨みつけた鋭い目線が、そのまま隣に立っていたゼノにも向けられる。何もしていないのに棘に刺されるのは御免だ。ゼノはぷいと顔を背け、彼女と言葉を交わすこともなく売り場を後にした。
(何を安心してるんだろうな、俺は)
硬い石床を蹴りながら、先ほど男がヴィヴィアンに背を向けて去っていった光景を思い出し、深く安堵している自分に苦笑が漏れる。
二年前から、彼女を目で追っている自分にはとっくに気が付いていた。
態度に出したことはない。
この関係を、今すぐどうするつもりもなかった。
ヴィヴィアンはとにかく芸術品のような繊細な美しさを持ったものにしか興味がないし、自分がその対象に入らないことはよく理解していた。
そして、彼女が己の出自に対し、誰よりも慎重なことも。
彼女は没落貴族の出身だが、自認はすっかり平民だ。
実は一度、彼女の祖父の名を調べてみたことがある。年末の納会後、帰り道で酔いの勢いでこぼされた名前。
ローレンス・ウィンストン男爵。
与えられた領地こそ小さいものの、それなりに古い歴史を持つ名門だったらしい。
ローレンスは芸術を愛し、数々の美術品を収集してはアーティストたちのパトロンとなっていた。ヴィヴィアンの美意識の高さは、間違いなくこの祖父の血だろう。だが、彼には受け継いだ財産を適切に運用する才能がなかった。
相次ぐ領地の不作と、無謀な投資の失敗。破綻した男爵はついに領地を王家に返上し、誇りある家名を地に落とした。ただ、厳密に言えば爵位そのものを剥奪されたわけではない。祖父が没した今、その爵位はヴィヴィアンの父へと引き継がれているはずだ。
しかし、彼女は頑なに自分を平民同然と言い張り、家名を名乗ろうとしなかった。
客に貴族の多いこの百貨店では、貴族を名乗っていた方が何かと都合が良いことも多いというのに。
「没落して平民以下の貧乏暮らしをする羽目になった家名を名乗ったって、とんだ恥晒しよ。社交界でヒソヒソ笑われる種になるくらいなら、いっそ平民だと侮られていた方が平和というものよ」
彼女と二人、夜の街に食事に出た時のことだった。
そうした機会は、長年の付き合いの中でも片手で数えるほどしかない。
あの日は棚卸しで、いつものように互いに口汚く罵り合いながら数字と在庫を合わせているうちに、いつの間にか夜が更けてしまった。他の従業員は誰もいなくなり、疲れ切った頭と体のまま、すっかり腹が減った中で帰りのタイミングが重なった。だから手近な店へと、二人でごく自然に入ったのだ。ムードの欠片もない、大衆食堂。
どんな会話の流れだったかは忘れてしまった。家名を頑なに伏せて平民を名乗る理由に触れた時、ヴィヴィアンは特に気にする風もなく、先ほどの台詞をきっぱりと言い切った。
豆のスープに黒パンという相変わらず大して腹にたまらなさそうなメニューをちまちまつつきながら、ヴィヴィアンはつまらなさそうにため息を吐く。
「こちとら生まれた時から庶民として育ってるのに、名ばかりの家名に縋っても意味はないわ。子供の頃から平民に混ざって山や川で泥に塗れて遊んで、大した教育だって受けてこなかったんだから」
「なるほど。お前が数字に弱いのはそのせいか」
「ねえ。それを言うならランバート子爵家は情操教育には全く力を入れてこなかったのね。あんたって本当に、美しいものへの理解が足りない」
「ああ、そうだな。おかげで給料を前借りしてまで、身の丈に合わない服を買い込まずに済んでいる」
チッ、とヴィヴィアンは品もなく舌打ちをする。彼女の歪んだ顔を肴に、ゼノは赤ワインを煽った。
彼女はこうして自分を卑下してみせるが、発注リストを書き留める流麗な文字や、貴族に接客する際の隙のない言葉遣い、洗練された発音には、隠しきれない貴族の血脈を感じることがある。確かに高等教育は受けていないのかもしれないが、きっと彼女の両親は、先代から受け継いだ教養をできる限り愛娘に授けてきたのだろう。──とは言え、男の前で悪びれもなく舌打ちをする貴族令嬢など、普通は存在しない。
結局のところ、彼女が貴族からも平民からもまともに言い寄られないのは、異常なまでの服飾愛と、この苛烈な性格のせいに他ならない。
「ねえあんた、顔赤いわよ」
「飲みすぎた……」
「しっかりしてよ、フラフラしないで」
店を出て、生ぬるい夜風に吹かれながら、ゼノは覚束なくなった足に力を入れて踏みとどまった。思っていたよりも早く酔いが回ったのは、連日の疲れが溜まっていたせいか、それとも。
気づけばヴィヴィアンが肩を貸し、自分を支えるように寄り添って歩いている。
「もう! この筋肉の塊、重過ぎる」
体を寄せ合いながら、大通り沿いの辻馬車溜まりへと向かう。その道中もずっとブツブツと文句を吐き続けるヴィヴィアンを横目で見下ろし、その細い肩の確かな感触を確かめて、ゼノは思わずフッと小さく笑った。
「何笑ってんのよ、木偶の坊。ちゃきちゃき歩きなさい」
甲高い文句の声が、酔った頭に鋭く響く。
(ちょっと、強過ぎるな。この女は)
辻馬車に押し込められ、暗く揺れる車内の中で微睡みに身を任せる。石畳を踏み鳴らしていた彼女の高いヒールの音が、しばらく頭から離れなかった。
「兄弟の中でも一番やんちゃでマイペースだったお前が、今では誰よりも落ち着いて、一つの仕事を長く続けているとは。全く、分からないものだな」
ある日、私室にゼノと後継である長兄を呼び出したランバート子爵は、自分よりも大きな体となったゼノを見上げながら、そうのんびりと切り出した。
父にこうして呼び出されるのは数年ぶりだ。十代の頃までは、悪戯や喧嘩の叱責のために何度この部屋へ引き摺られて来たか分からない。久しぶりに訪れたそこは、記憶よりも随分とこじんまりして感じられた。
「ルミナスに入って、もう八年か。早いものだ。お前が真面目に勤めている評判は届いているが……どうだ。そろそろ、人に使われるのではなく『自分の城』を持ってみようとは思わんか」
「自分の城、ですか?」
ゼノが眉を顰めると、父の傍に控える兄は柔和な笑みを浮かべた。母に似て細面の彼は、最初からこの話を知っていたようだ。
「そうだ。我が家の信用と資金、そしてお前が百貨店で培ったノウハウを使い、何か新しい事業を興してみるのはどうかと思ってな」
子爵は身を乗り出し、期待を込めた眼差しを向けた。鋭い銀灰の瞳が、探るようにゼノを見つめてくる。
「ランバート子爵家の名を背負った、新事業だ。どんな商売を始めるか、お前の知恵を聞かせてほしい」
八年前に騎士の道を諦めてからというもの、大きな夢や野望を持つことはなかった。しかし、父の提案を受けた瞬間、自分の中で燻っていた微かな火種に、ぱっと小さな炎が灯る感覚があった。
浮かんだのは、あの気の強い女の顔だ。
勢いのままに始めた伯爵令息との恋に傷つきながらも、己の道を選び、気丈に一人で生きている──服飾に狂った、美しい女。
フェリックスと別れたヴィヴィアンに、ゼノはまだ自分の気持ちを伝える気にはならなかった。貴族社会で生きることを諦めた彼女には、ただの子爵家三男という立場から告白しても希望がないことは分かりきっていた。
だが、もし自分に、彼女と共に歩めるだけの地位と理由が備わっていたら。
あの鋭いヒールの音が、高慢に鳴り響く場所をこの手で作ることができるのならば。
「やってみたいことは、あります」
老舗アトリエの品質低下を嘆きながら、夜遅くまでその後始末をつけていた彼女の姿を思い浮かべ、ゼノは静かに口を開いた。
「ほう。構想があるなら、是非その計画をまとめてほしい。私たちを納得させられるものになれば、資金援助は惜しまないよ」
満足げに微笑みながら、子爵は執務椅子にゆったりと身を預けた。
「……それと。親心としては、ついでにその計画に乗り出すお前を支えてくれる、良い伴侶をそろそろ見つけてもらえると嬉しいのだがね。どうなんだ? 前の恋人と別れてから、もう随分経つだろう」
「お前はせっかく良い縁談を持って来ても、すべて無碍にするからなぁ」
兄も困ったように笑う。
この話題はランバート家でも数年おきに繰り返されているものだ。一度、口の悪い妹には「実は男色家なんでしょう」と揶揄われたことすらある。うんざりとした色を顔に浮かべながら、ゼノは嘆息した。
だが、実際に事業を起こして代表を務めるのなら、独り身よりも妻帯者である方が箔がつくのは確かだ。
「……妻にしたい女性なら、もういます」
「本当か!?」
普段は己のことはちっとも明かさない三男の意外な告白に、父と兄は一気に身を乗り出した。
「百貨店でフロアのリーダーを勤めている、優秀な女性です。ただ、身分はそう高くなく、没落した男爵家の一人娘ですが」
「良い、良い! お前がやっと選んだ相手なら何も言うまいさ。なんだ、そんな相手がいたなら早く言いなさい。今度、我が邸に連れて来るといい」
「……いや。恋人ではないので」
淡々と告げられた言葉に、二人の綻んでいた表情が一気に曇る。そんな様子を気にも留めず、ゼノはけろりとした顔で続けた。
「今から口説きます。事業計画よりも、難航しそうですが」
父と兄は、ほとんど同時に力なく息を吐き出した。
「全くお前は……そのマイペースさは相変わらずだな」
父が眉毛を下げてやれやれと首を振れば、兄も肩を竦めてそれに応じる。
その様子にゼノは少しだけ眉を上げると、どこか心配そうな目を向ける兄を見返し、不遜に笑ってみせた。
いつも隙なく整えられた装いを解いた彼女は、想像していたよりもずっとか細く、それでいてこの上なく美しかった。抱き寄せて何度も唇を重ね、これが己の情けない願望が見せる儚い幻影ではないことを何度も確かめる。
いつもは高慢に強気な表情を浮かべた美しい顔が、今は真っ赤に染まり、自分を切なく見つめている。
「ゼノ……」
ヴィヴィアンは必死に彼の背に縋りつきながら、その形の良い唇からそっとその名を溢した。彼女から、こんなにも感情を込めて呼びかけられる日が来るとは夢にも思わなかった。胸を締め付けるほどの愛しさに、たまらず幾度も唇を重ねた。
この細い体を、儚い表情を、甘える声を、彼女の輝きのすべてを知り、手の内に収めるのは、もう自分だけで良い。いや、もとより大人しく収まる女などではないのだ。
(ならば、このままずっと、こうして──)
触れられる距離から、絶対に離しはしない。
そう心に誓いながら、ゼノはもう一度彼女に深く口付けた。まだ掬いきれない熱を確かめるように、その身を力強く抱き締めた。




