ハリスの事情
相変わらず対岸は一進一退の攻防が繰り広げられる中で半壊した部隊を見て難しい顔をするアキト。翔も黒鴉も流石にこれ以上は犠牲を出せないと首を横に振る。
「だよなぁ…無理強いは出来ない」
長期戦を心配する翔にアキトはそうはならないんじゃないかと自身の計算を口にする。
「基本的に攻めている側の限界の方が早い、今回は水原が引き上げる形になるだろう」
アキトの予言通り水原氏の部隊が平良氏の部隊との戦いを切り上げて引いていく。
平良の軍勢も大苦戦をしたようで同時に陣の奥に撤退していく。
「痛み分けってところか、藤村氏の兵数次第ではまた来そうだな」
「こっちはボロボロじゃないですか…」
「戦争なんてそんなもんだ」
いつまで続くのか不安になる中で敵襲も無いまま日も落ち始め一段落つく。
「夜襲なんてことは…ありえるわよね?」
「交代で見張りをしよう、俺達ならなんとかなるだろう」
黒鴉の言葉にアキトは余裕の表情で交代での見張りを提案する。まあそれしか無いと全員が納得した様子で見張りを開始する。三交代でアキト一人、黒鴉と玉藻前、翔とハリスで休憩を取りながら朝まで見張りをすることとなる。
翔とハリスが最初に見張りをする事になって雑談混じりにジッと水原の陣の方角を眺める。
「ハリスさんってどんな世界からどうやって来たんですか?」
「え?あー、自分は…その…追放?島流しっていうの?そういうのでこの世界に…元の世界は魔術で発展した世界で…」
「島流しで異世界に…すごい迷惑だな。魔法世界か」
とんでもない暴露話に翔は苦笑いしてしまうが実は深刻な事なんじゃないかとハッとする。
「その追放ってどのくらいの罪でどのくらいの人が…?」
「う…、自分は殺人の冤罪で…」
「なんてこった、冤罪だって?…冤罪じゃない凶悪犯も流刑なのはマズいな…いや本当に悪辣」
冷静になってそんな世界が本当にあるのかと翔はアキトに相談したほうが良い案件だと理解する。ハリスは自分の故郷が悪辣だと言われて本当その通りとウンウン頷くのだった。
交代の時間になり黒鴉達と入れ替わる。その際に翔はハリスから聞いた話をそのままアキトに報告をする。
「異世界に流刑罪ねぇ…無責任もいい所だな」
ハリスは「ですよね!」と同情してくれる仲間に感動する。
「事実なら…いや、しかし世界が滅びる程の危険ではないからなぁ…」
秩序を乱す事になっている話だが世界の危機とはまた違う問題だとアキトは判断する。
「何もしないってことですか?もしかしたら前の世界みたいに危険なマシンメイカーが…」
「その時はその時…って言えないよなぁ」
アキトも頭を抱える事象である事ではあると今後の動向を考える必要があるなとハリスを見る。ハリスは冤罪で酷いことをしてくれた故郷への報復を願っているようだがアキトはそこまでしないと苦笑いするのであった。
黒鴉と玉藻前は欠伸をしながら敵陣の方角から何か起こっていないか確認していた。
「どう思う?夜襲されると思う?」
「ありえんことも無い…と思うわ。いっそ敵情視察とかしてもええんとちゃうか?」
「そんな便利な能力私は持ってないわよ…リスクあるし」
二人とも流石に敵陣の方までスパイ活動するのはちょっととなって大人しく見張りするのであった。
月明かりと松明に照らされる中うとうとし始める二人、それを見てなのかアキトが早めにやってくる。
「無理せず二人とも寝ろ、明日も早い」
「あら気が利くわね丁度眠くなって意識が飛びかけててたのよ」
うつらうつらと船を漕ぐ玉藻前を黒鴉は起こしてアキトと交代する。
アキトは二人を見送り指を鳴らし旅行鞄で神鳴を呼び出す。
『何の用?寝てたんだけど?』
「ちょっと調べて欲しいことがあってな?とある世界が流刑として異世界に人を送ってるらしい。面倒事になる前に根幹を絶たないと…」
『はぁ…分かった。調べてみるわ』
溜め息混じりに神鳴は調べると言って通信を切る。
アキトはそんな世界があるなら潰すべきかもなと過激な事を思いつつ見張りを続ける。
日が昇り始めるまでの数時間を物思いに耽りつつ時間を潰していると味方の陣の中央目掛けて鏑矢が飛んでくる。
アキトはすくっと立ち上がり味方の陣の様子を眺める。
(律儀に鏑矢を飛ばしてきたか…さて、こっちは返事するのかね…)
鏑矢とは合戦の開始の合意確認や合図として使われる音の鳴る矢であり味方の陣からも鏑矢が発射されて二日目の戦争の合意が執り行われた。
アキトはそれを聞いて大きな声を上げて四ノ宮の陣営に戦争二日目だぞと手を叩き呼び掛けるのであった。
「二日目だ、張り切ってやるぞー!」
陣幕からぞろぞろと野武士達と共に翔達も出てくる。しかし、その顔には覇気がなく士気も下がっていた。
「ほらやるぞ!シャキッとしろ!死ぬぞ?!」
急に現実に引き戻される一言に翔達はハッとして気合いを入れあうように声を上げる。
そんな様子を見てアキトは戦争が長引くようなら今日で幕引きさせるかと首を捻るのであった。




