一段落
無事九尾の妖気を超える事が出来た玉藻前は翌日まだ帰路の途中であってもやってやったと背伸びするのであった。
「で?本当に強くなったのかしら?」
「尻尾を三本になれるように…なっとるはずや」
希望的観測の台詞に黒鴉は微妙な顔をして疑いの目を強くする。
「三本になったのを見せればいいじゃないか」
アキトが口を挟んで玉藻前は気不味そうに「今は出来ん」としょんぼり耳と尻尾を垂らす。
「出来ないならそんな胸張って威張ること無いんじゃない?」
「黒鴉、その辺にしといてやれ。玉藻前だってまだ特訓中みたいだし」
翔がフォローを入れるが黒鴉はやっぱり微妙な顔をする。
「いざという時だけってのも困り物ね。実力はいついかなる時も発揮できてこそよ」
それはそうかも知れないがと翔は言い淀みアキトは焦る必要は無いと笑うのだった。
武蔵国を出て駿河国を目指す一行。行きには出なかった山賊が四人の前に現れる。
「金目の物置いてきやがれ」
「月並みの台詞だな。俺達が商人か何かに見えたか?」
アキトが軽口で対応すると山賊達は顔を見合わせて四人を観察しゲラゲラ笑いながら刀剣を向ける。
「女子供だからって容赦しねえ!その刀や剣を置いてきな!」
「それは困るな…コイツは他人には譲れない物でな」
じゃあ生命ごと貰うと宣言してきてアキトは頭を掻く。
「やれやれ、安そうな首だな…」
捕縛用の縄はまだあるかなと懐を探るアキトに対し黒鴉は斬っちゃいなさいよと呆れ顔をする。
「仕方ないなぁ」
アキトは馬から降りて首と肩を軽く回して覚悟しろと氷雨を抜く。周囲の空気が冷たくなり山賊達は一歩後退る。
玉藻前は冷気を受けてインスピレーションを刺激される。
(この凍気、せや。ウチがあの時イメージしたのはこの氷なんや!)
何かを掴めそうな気がしてきて頑張るアキトを置いて目を瞑り精神を集中させる。
アキトが峰打ちで山賊をボコボコにしている間、翔達はジッと敵の動きを窺って警戒を怠らないようにする。
「捕まえても引き渡すの面倒くさいしなぁ…まぁいいか」
アキトはサッと縄を投げつけて一人捕まえてそのまま一気に伸ばした縄で数人引っ掛けて縛り付ける。
「は、速い!」
山賊達はアキトに翻弄されて全員が長い縄一本でぐるぐる巻にされる。
「ホイホイっと、終わり。もう悪さするなよー?」
ポイッと道端に放置して帰路を進む事にする。
戦いの間イメトレを続けた玉藻前は何かを掴んだようで尻尾を出してフリフリする。
「玉藻前が急に機嫌良くなってるわね」
「ふふん。ウチ、ヒントを得たりってな!」
「…よくわからないけど良かったわね」
上機嫌になった玉藻前は人差し指を立てて得意気な顔をする。その指先に氷を作り出してアキトが感心する。
「翔の炎、雷に続いて俺の氷を学ぶか。三本目も近いか?」
ドヤ顔する玉藻前に黒鴉は自分の水属性は選ばれないのかと若干冷たい目をする。
「いつかは九つの属性を使い分けるようになるんや!」
「九つの属性ねぇ…世の中もっとあると思うんだけど」
「そこはなあなあで…」
属性についてちょっと迷いながらまだ悩ませて貰うわと玉藻前は苦笑いするのであった。
都の武士達より先に都に帰還し吉報を持ち帰る事に成功した一行、報告を聞いた頼永は四人に労いの言葉を送る。
「蘆谷のやつめ…まさか過去に討伐された九尾を復活させよう等と危険な事をしおる…それを倒した貴殿らの働き、まさに万夫不当だな」
頼嗣も話を聞いて九尾の事を聞いて驚く。
「九尾は伝説の存在ではなかったのか…」
「およそ百数十年前の話だ。大妖怪たる九尾の狐が宮中に傾城の美女として入り込んで…確か名前は…」
アキトが慌てて話を遮る。
「ま、まぁまぁ。兎に角それを退治出来たんですから都はまた安泰って事で」
「そうだな。本当にご苦労だったな後は平良氏が戻って来てから処遇を決めるだけだ」
こうして一連の蘆谷の事件は終息となるのであった。
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武家屋敷にて、玉藻前は気合を入れて叫んでいた。
「ほあー!うおりゃー!ふんぬー!」
「煩いわねぇ…何してんのよ?」
「尻尾!三本!目指しとるんやー!」
踏ん張るように少し屈んだ姿勢になって耳も尻尾をピンと立ててまずは二本にする。
「イメージはバッチリなんや!いける気がするんや」
「イメージなぁ…尻尾三本もスペースあるのか?」
翔はチラッと玉藻前の後ろを確認する。
「二人して余計な事を言わんでエエ!いくでぇー!」
玉藻前が更に気張るとボフンと煙に巻かれて尻尾が三本になる。
「おお、三本になった」
「やったわね。ちょっと踏ん張りすぎててヒヤヒヤしたわ」
玉藻前は額の汗を拭って「どんなもんや」と胸を張る。アキトが丁度帰って来て玉藻前は尻尾を自慢したくて三人に向けて尻を向けてブンブンと尻と尻尾を振って見せる。
アキトは保護者ヅラして腕組して玉藻前を注意する。
「全く、品が無いぞ?お父さんそんな娘に育てた覚えはありません!」
「何勝手に親父ヅラしとるんや」
「…まぁそれは置いといて、コッチの世界でも九尾は傾城の美女として暗躍してたそうだ。下手に目立つマネはするなよ?」
玉藻前と黒鴉は既に宮中でお呼ばれして食事会もしたと平然な顔をして語る。アキトは額を抑えて宮中の人々が過去の事象について詳しくなくて良かったと思うのだった。




