出雲国へ
蘆谷との戦いからおよそ一週間。静かな日々が続いていた。
「お披露目の場が無くて残念やなぁ」
「毎日が戦いよりはマシだ」
翔は苦笑いしてまったりとしていた。黒鴉も欠伸をして完全に気を抜いていた。
「そんなに戦いたいなら都の外の妖魔退治のお仕事探したら?」
「えー!一人でやれって言うんかー?!」
「だって面倒くさいじゃない?」
気を抜く時はガッツリやる気をなくす黒鴉はダラシない顔をしていた。仕方なく素振りをする玉藻前、アキトは護衛のお仕事をしていて暇を潰していてエエなと羨ましがる。
「いや、私達は宮中に近づかない方が良いわよ?ほら色目使ってるとか思われたくないし」
「あー、せやな…」
傾城の美女として大暴れした九尾との縁がある玉藻前は特に気を付けなければならないとなって遠い目をする。
「ちんちくりんなのにね?」
「それは余計な一言やで…」
玉藻前はムッとして素振りの勢いを強くするのであった。
昼頃にアキトが帰って来て新しい仕事を持ち帰ってくる。
「山陰道…今で言う中国地方の一部で強力な妖魔が出たそうだ。都の武士も忙しいらしく動くなら今だな」
気持ちを切り替えた黒鴉は軽い準備運動をして気合を入れる。
「よーし、やるわよー」
「朝はあんなに気を抜いておったのに…」
「それはそれ、これはこれ。お仕事モードよ」
アキトはヨロシイと頷いて三人に頑張るように伝える。
「あれ?アキトさんは?」
「俺は残って護衛のお仕事を続ける。三人で頑張ってこい。場所は書簡を確認してくれ」
アキトがコートの裏から書簡を取り出して翔に手渡す。
「つーわけで行ってこい。馬はまた四ノ宮の借りてくれ」
「は、はい…」
チラッと後ろの女子二人を見て少し不安そうにする。
「何よ?不満ある?」
「大丈夫や、パワーアップした玉ちゃん見せたる!」
翔は色んな意味で不安を感じていて特にブレーキ役になれるかと内心で深い溜め息をつくのであった。
一応ちゃんと出発前に書簡を確認する翔は地名を見て首を傾げる。
「出雲国?…イズどこ?」
「島根県ね。浜松…出雲くらい知っときなさいよ」
黒鴉に呆れられつつも都を出発する一行なのであった。
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肩に重荷がのしかかる中で翔達は山陰道を進む。
山陰道は中国地方北部などの総称で五畿七道の一つである。
「しかし地名なんかちょっともじられてる世界なのに国名なんかはそのままなのね」
「気にしても仕方ないさ。同じほうが分かりやすくて楽だろ?」
「それもそうね」
自分はよく分かってないが理解者がいて良かったと翔は安堵しつつ先を急ぐ。
玉藻前は早く新しい自分をお披露目したくてウズウズしている様子だった。
「早う妖魔退治したいわー」
「やる気に満ちてるのはいいけど多少は警戒してくれよ?曇天童子の時みたいにアキトさん居ないんだし」
「アキト頼りにするのは辞めや!ウチらかて強い所見せなアカンよ」
アキト頼りと言われて翔は頬を掻く。確かにそういう甘えはあったと反省するが居ない不安もまだまだあるのだと、実力不足を実感したばかりだと考える。
黒鴉は苦虫を噛み潰したような顔をして曇天童子に敗北した時を思い返していた。
「あれは油断したのよ、相手を雑魚と侮ったから…ちゃんと警戒していれば負けはしないわ!」
「せやで、ウチもや!」
それはそれで驕り高ぶりが過ぎると翔の不安要素が増していく。
「今回の相手がそれ以上の可能性もある。出来るだけ気を付けて行こう」
「当たり前よ!」
黒鴉は拳を上げて気合いを入れる。
翔はそんな中で一つ前の世界の敵を思い返していた。
(俺達が本当に戦うべきは世界の脅威…きっと想像の上を行く敵のはずだ…)
雰囲気が伝わったのか玉藻前が口を尖らせる。
「まっつぁんは真剣に真剣過ぎる程に考えとるなぁ…」
生真面目過ぎる性格を指摘されて翔はやっぱり難しい顔をしてしまうのだった。
山陰道を進む一行は流石にその日の内に出雲国に入れないと悟り宿場町で陽が沈む前に早めに休息を取ることにする。
「一人部屋が無いから相部屋なんてデリカシー無いわね!」
早速ケチを付けられて翔は渋々説教をくらう。
「全く、アンタはいつもいつも…」
くどくどと普段の文句も垂れてきて翔はイラッとしながらも我慢して聞き続ける。玉藻前はよく我慢できるわと感心する。
翔は小声で玉藻前の疑問に答える。
「一応上司だからな…」
「世知辛いわなー。同情するわ」
黒鴉の愚痴に近い話は寝るまで続くのであった。
翌日朝早く、宿を出て出雲国へと向けて出発する。
「さぁ出雲国へ向けて出発よ!」
「元気がええな…」
翔と玉藻前は黒鴉の愚痴に付き合った結果寝不足になりウトウトと馬の上で船を漕ぎながら移動する。
「お陰様でスッキリしたわ」
「それはようござんした」
翔も玉藻前も微妙な顔をするのであった。
三人が出雲国に入ったのはそれから数時間後の事だった。
神道の中心地として都に次いで発展している様子で活気に溢れていた。
「よーし、浜松!早速情報収集よ!」
やる気に満ちてる黒鴉の先導で強力な妖魔について情報収集を開始する一行なのであった。




