神獣
藤村氏が怒り心頭になるかと思われたが暫くの間大事は起こらず静かな日々が続く。
「平和やなぁ…」
「いいじゃないか平和で」
玉藻前の言葉に翔は苦笑いしてしまう。しかし黒鴉は平和過ぎるのは良くないと翔が呑気であると注意する。
「私達は救世の任があるのに平和は違うでしょ」
本来の目的を忘れるなと言われて翔はハッとして真面目な顔になる。しかしそんな中でアキトは呑気な顔をしていた。
「一番大人が呑気してるのが許せないわね…」
「せやな、年長者がそんなんやと先が思いやられるわ」
女子から睨まれてアキトはから笑いして言い訳を始める。
「おいおい、俺は冷静に休みを謳歌しているだけだぜ?根を詰める方が良くないぞ?」
「休み…ねぇ。いつ何処から敵が現れるか分からないのによく言うわ」
「敵か、まあそういう事はどっかしらから情報が入るだろ?急に俺らが襲撃される可能性は…」
今は藤村氏という一触即発の関係の相手がいるとツッコまれてアキトは言葉を失う。
「数日何もないから緊張感を失うのは違うでしょ?」
「お、おう…そうだな」
黒鴉は不甲斐ない男性陣に溜め息を漏らしてしまうのであった。
そんな中で景明本人が武家屋敷を訪ねてくる。
「これはこれは景明殿」
アキトが素早く対応しペコペコする。
景明は屋敷内に葛之葉達が居ないことを見てアキトに彼女等は何処へ行ったのかと尋ねる。
「田舎に帰りました…って言って伝わる話じゃないな…仕方ない」
アキトは誤魔化すことなく彼女達について異世界の存在を伝える。
「この地ではない別の世界…か、信じろと言われて納得するのは難しいな」
「この世界の妖魔に比べて強かったでしょう?」
「強さと異世界は関係あるのか…?」
アキトは大有りですともとハッキリ答える。
「世界を股に掛けて知識と実力を蓄える事ができる。まぁ葛之葉さんは元々特別だからその範疇にないけれど」
「特別…?」
葛之葉の存在は神に近い存在であると言われて景明は軽く頭痛を覚えて頭を抑える。
「神だと?そんな物を信じろと…?いや、実力は認めるしかないが」
打ち負かされた事を苦々しく思い出す景明。
「妖魔ではなく神獣を相手にしたと思えば悔しくもないだろう?」
アキトの説得を受けて景明は小さく頷く。
「神獣か…なるほどな納得したよ」
リベンジは諦めて景明はチラッと玉藻前を見る。
「となるとその神獣を母と言っていたそこの狐も神獣としての格があるのか…?」
「はえ…?ウチが神獣?」
玉藻前は恥ずかしそうに頬を掻く。照れているところ申し訳ないがと景明は呆れつつビシッと指を向ける。
「そのキミに御前試合を申し込む」
「ええ!?」
突然の決闘の申し込みに玉藻前を始めとする翔と黒鴉もビックリする。
「本気か?コイツもそれなりに強いぞ」
アキトが玉藻前の実力を保証するような事を言うが景明は妖魔の存在は容認出来ないという強硬姿勢は変えられないと語る。
「都を守護する陰陽師として…だ」
「しゃあない…相手したる!そのお硬い頭を叩き直したるわ」
ーーーーー
一介の侍と陰陽師の決闘が宮中にて執り行われると言われて結構な数の見物人が集まっていた。
「恨みっこなしやで…?藤村氏の名を出すのも禁止やで?」
可愛らしい侍が刀を構えて宮中随一の陰陽師安部景明と向かい合う。
玉藻前は宮中の食事会に招待された人物だけあって注目を集める。景明は玉藻前を妖魔だと大々的に訴える。
「彼女は狐の妖魔である!化けの皮を剥がしてくれましょう」
「妖魔ちゃうわ!狐の神獣や!」
玉藻前はアキトの表現を借りて狐耳と尻尾を明かして胸を張る。ざわざわと貴族達が玉藻前の正体について賛否両論が飛び交う。
「本当に神獣かどうか…確かめてくれよう!」
景明は符を構えて妖魔退治を開始する。
符を投げつけて玉藻前を攻撃するが刀でスパッと切り捨てて大したことないと玉藻前は笑う。
しかし切った符が地面に触れると陣が展開されて玉藻前の動きを封じるように炎の渦が上がる。観客達は「おお!」と驚きの声を上げる。
「この程度の炎効かんわ!」
玉藻前は自身の狐火を炎に混ぜ込み炎の渦のコントロールを得て炎の形を変えて大きな狐を作り出して景明に向けて放つ。
その反応は想定済みだと景明は符で水を呼び出して狐火を掻き消す。
「ほれほれ」
玉藻前は遊ぶように火を放ち景明に対処を要求する。
「ふっ!はっ!」
水を発する符を投げつけ火を処理する。
「技は火遊びだけか?」
逆に挑発し返してくる景明、母親のように格闘術や陰陽道をマスターしている訳じゃない玉藻前は仕方なしと刀を構える。
「侍らしくやらせてもらうでー」
パチンと指を鳴らすと貴族達の前をリスが素早く駆け抜ける。
景明はその微かな動きに気付いて何が狙いなのかと注意深く観察する。景明は罠に嵌ったと翔達は察して勝負は付いたと玉藻前を見る。視線に気付いた玉藻前はVサインを送ってくる。
「どんな幻覚を見せられてるのやら…」
景明は符を構えてデタラメに投げ付けて幻覚と戦い始めるのであった。




